その翼に誇りを、その瞳に覇天の輝きを 14
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ちょっと更新が不安定ですみません(_ _)
「ヘイ、カマーンッ!」
わざとらしくエセ英語風にそう叫んだスターストライプは、ヘイトを集中させるアビリティ、【挑発】を発動して堕龍のヘイトを集める。
はずであった。
当の堕龍は、【挑発】など意に介さないとばかりにMr.Qへと狙いを定め———
カカカカッ! と連続音を立てて6本の矢が堕龍へとぶつかった。
矢を放ったのはもちろんMr.Qだ。
「アンチクリティカルはだいたい80%ってところか? 狙うにはマゾすぎる。火はゴミ、土か光、次点で水がマストだな。打撃頼む」
「おいおい、つれない奴だな。こっちも見てくれよ! 【ジョルト・ブラスター】!」
なぜか無視されているスターストライプが、いつの間にか堕龍の足元まで間合いを詰めており、渾身のアビリティが炸裂する。
まるで硬いアスファルトに超重量の鉄筋でも落としたかのような凄まじい轟音と共に、堕龍の巨体が僅かに揺れる。
「打撃は通りそう! だけどめっちゃ硬いって感じ!」
「だからその耐性がどれぐらいなのかを知りたかったんだが……まぁお前は最初から感覚派だったな」
【ジョルト・ブラスター】は高威力かつ装甲破壊効果、そして怯みキャンセルまで付いたえげつない攻撃アビリティだが、発動の前後に少なくない隙が発生する。
しかし、それでも。
堕龍は腕から生えている極太の触手を振りかぶり、執拗にMr.Qを狙い続ける。
「また俺かよ!」
ガキィンッ! と音を立てて、堕龍の触手が二人の頭上を通過する。Mr.Qの【スイープスライド】によるパリィだ。
「いやエグい! 耐久の高い糸通しが一撃で3割削れたんだが!?」
「動きが緩慢で高火力、高耐久。殴りやすいタイプだネ!」
「んなこと言ってる場合か! 次来るぞ!」
堕龍が腕を振り上げて、少しだけ貯めて振り下ろす。爆心地がクレーターみたいに陥没してるのを見ると、化け物みたいな威力だ。
しかも地面がひび割れて、隙間から溶岩が溢れてきた。
足場制限はキツいな。
けど、振り下ろしまでに3秒、振り下ろしてからも3秒。
隙は多いから狙い目か。
とりあえず【ペネトリースパーダ】を放り込んでおく。
ダメージは僅か。
案の定クリティカルは発生せず、斬撃系攻撃もダメだなこりゃ。
おっと、地面を砕いてできた岩を持ち上げて……?
「回避ぃっ!」
「Oooops!」
投げつけられた岩が地面にぶつかり、激しく地割れを起こしながら破片を散乱させた。弾丸のような破片が当たる度にHPが削られる。さらに岩によって地面の一部がひび割れ、その隙間から溶岩が滲み出てきたのが見て取れる。
「まずいネ、これ」
「くっそ、俺ばっか狙いやがって……俺なんかしたか?」
「殴りやすい顔だしネ」
「お前も喧嘩売ってんのか? そもそもが火山帯っていうフィールドが俺らにとっては不利だし、どうする?」
「とりあえず、あの装甲を何とかしないとマグマに落としても生きてるネきっと。もしかしなくてもあれ、この辺に住む『魔導機兵』の装甲だろ?」
「みたいだな」
どうやら堕龍は、何らかの方法で『魔導機兵』の装甲を奪っているようだ。堕龍に素材を何とかするような知識があるとは思えない。
察するところ……『捕食した相手の能力を奪う』ってところか。魔導機兵も生物扱いだしな……。
「ほんと、『アーカイブ』に頼んでこの辺りに他のプレイヤーが来ないようにして正解だったな」
もともと攻略難易度の高い【ターミナル・オロバス】には、訪れるプレイヤーは少ない。さらに『アーカイブ』の働きかけによってこの周辺のプレイヤーは堕龍の方へ誘導されており、この場にはMr.Qとスターストライプの二人しか存在しない。
おかげで、他のプレイヤーが堕龍に食われて色々と奪われる事態は回避できそうだ。
「けど、おかげで二人で相手することになったけどな」
「素材を二人だけで山分けさせてくれるんだって? アネファンプレイヤーはみんな太っ腹じゃないか!」
「お前が敢闘精神旺盛で助かるよ、本当。次で動かす、合わせろよ?」
「|Leave it to me《任せろ》!!」
スターストライプが、声とともに足を踏み鳴らす。
ズンッ! と明らかに尋常ではない音を立てた足元には蜘蛛の巣状のヒビが広がり、凄まじい威力で足が振り下ろされたことが分かる。
グラップラー系隠し上位職業『拳聖』のアビリティ、【震脚】だ。
使用中、AGIの大幅ダウンや防御系アビリティの使用不可など、様々なデメリットがあるが、次に放つ攻撃アビリティの威力を著しく上昇させることができるのだ。
そんなスターストライプの様子を見つつ、Mr.Qは糸通しを片手に握り、空いた左手に盾を出しながら移動を始める。腕は届かず、触手であれば届きそうな絶妙な位置へ———
「Gyarararararararara」
「ほら来た。【インダクション・ディフェンス】!」
振り下ろされた堕龍の触手が、Mr.Qの持つ盾へとその軌道をわずかに変える。
【インダクション・ディフェンス】は、誘導防御———つまり、一定範囲内の攻撃に対し、自動的に盾へ攻撃を誘導して受け止めることができるアビリティだ。
これにより、本来身体を狙ったはずの触手は軌道を変え、Mr.Qの盾へと吸い込まれる。そして、パリィ成功。
堕龍の攻撃は、地面を砕くだけに終わった。
しかし、二人の攻撃は終わっていない。何しろ、堕龍の触手の位置は、攻撃をチャージしているスターストライプの目の前なのだから。
「Good job! 【グラウンド・ゼロ】!」
「Gyararara!?」
堕龍の触手に直撃したその攻撃は、爆発のような———というより、実際に爆発を起こしてその猛威を振るう。
その名の通り、スターストライプを爆心地として炸裂したその攻撃は、【震脚】のバフと相まって堕龍の触手の装甲にヒビを入れていく。
その爆発に巻き込まれたMr.Qはと言うと———爆風を盾で受けつつブースター替わりに使い、【アクセルダイブ】発動。
【アクセルダイブ】は、移動+単体攻撃のアビリティだ。
移動効果にはAGIバフが付与されるうえ、スターストライプの【グラウンド・ゼロ】の爆風に後押しされたスピードは尋常ではない。
一瞬で堕龍の足元まで移動したMr.Qが糸通しを振るい、その装甲を少しずつ削っていく。
続いて堕龍が振り下ろした触手をそのままに、地面を撫でるように広範囲を薙ぎ払う。
足元にいるMr.Qはともかく、硬直中のスターストライプに避ける術はない。
が、手は打ってある。
Mr.Qはスターストライプに括りつけられた糸を引っ張り、硬直中のスターストライプを無理やり引き寄せる。本人の意思では動くことができなくても、外からの力なら動かすことはできるのだ。
轟音とともに砂煙が舞うが、すでにそこにスターストライプの姿はなかった。
「Gyararararararararara!」
「ヒューッ! 九死に一生ってネ!」
「楽観的だな!? 次だ、溜めとけよ! ポイント4の6!」
「Roger that!」
再び、地面を振るわせてスターストライプが一歩を踏み出す。
一歩、二歩と歩みを進めるたびに彼を包むアビリティエフェクトが強まり、次の攻撃を待ちわびていた。
【震脚】は何度でも発動することができ、その効果は重複する。
一度の【震脚】バフで装甲にヒビを入れたのだ。何度もバフを重ねた次の攻撃がどれほどのものか、想像に難くない。
問題は、それをどうやって当てるかということだ。
「ほら、こっちだデカブツ!」
「Gyarara?」
Mr.Qが投げた糸通しが堕龍の目の前を掠め、それに気づいた堕龍が彼らに視線を向ける。
そして地面を砕いた岩を持ち上げ———
「それを待ってた。【アヴィス・アラーネア】!」
通り過ぎたはずの糸通しが軌道を変え、その刀身の穴に通されていた糸が蜘蛛の巣のように堕龍の頭に絡みつく。
さらに、堕龍腕を振り下ろした際、その腕に絡めていた糸を同時に引き———
「Gyara!?」
「人間もそうだけど……重い物を持ち上げているときに、重心が後ろに傾いたらどうなると思う? ほんの少しでいいんだよ、人型の相手を転ばすのなんて」
岩を掴む腕を後ろに引っ張られた堕龍の巨体がゆっくりと傾き、重力に引かれるままに仰向けに落下を始める。
その先に待っていたのは、【震脚】を6歩分溜め、眩いばかりのエフェクトを纏うスターストライプだ。
ここまで全て、二人の掌の上。
「【究極の神技———」
スターストライプの拳に神が宿る。
まるで後光が差しているかのように、黄金の光を放つその一撃は、天地に轟く究極の一撃。
すでに倒れ始めている堕龍に、避ける術などない。
アビリティリキャスト168時間という、絶対に外せない一撃が、今———
「———ティタノマキア】!」
お読みくださってありがとうございます。




