その翼に誇りを、その瞳に覇天の輝きを 12
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昨日はすみません、更新できませんでした。
【アン・ナヴァン】、【レム・ビジョン】、【アストロスコープ】、【パ・ドゥ・シュヴァル】起動! ダイヤモンドさんが作ったこの一瞬の隙を逃さず、私は地面を蹴り———
「ハッ!」
約10mの距離が一瞬で0となる。
背中の黒翼と目から漏れたスキルエフェクトの残光が空中に軌跡を描き、気合いの籠った私の咆哮と共に『魔皇蜂之薙刀』の切っ先が堕龍に生えたプレイヤーの顔を僅かに削る。
くっ、浅い!
・はっやww
・カメラが追いきれてないww
・次、斧術系振り下ろし技と剣術系貫通技
一瞬だけコメント欄に目を向けて次の技を確認、【パドル・ロール】を発動しながらマルチタスクで開いたインベントリを操作する。
首を振って周囲を確認、ヨシッ!
視界の端に見とめた触手を足場に上へ、そのまま触手の上で【ア・ナリエール】発動。
堕龍が発動した斧術系単体技、【ヘヴィ・クラッシュ】は、触手の上で踊るように移動した私を捉えられず他の触手を断ち斬った。
「自分で自分を攻撃してちゃ世話ないわね!」
避けた際の回転力を利用し、インベントリから取り出した短剣『ヴィルトゥオーソ』を、堕龍に生えた顔へ投擲!
その結果を見るまでもなく、迫る堕龍の【ペネトリースパーダ】へと意識を向けつつ、崩れ始める足場は【パ・ドゥ・シャ】で対応。
「"妖仙流棒術"———【細雪】!」
ゆるりと円を描く『魔皇蜂之薙刀』の石突が【ペネトリースパーダ】の側面を捉え、その軌道を逸らす。
堕龍の【ペネトリースパーダ】が別の触手を貫くのを見ながら、清流のように緩やかだった『魔皇蜂之薙刀』の動きが激流のように加速する———
「———【三手三棍】!」
まるで、手と『魔皇蜂之薙刀』が3つに分身したかのような速度で、3連撃が放たれる。
【三手三棍】は棒術系職業で取得できる、3連撃を叩き込む攻撃アビリティである。その一撃ごとに『打』『突』『払』を選択することで、最大27通りの変幻自在の攻撃となる。
一撃目、『払』。
堕龍の触手の勢いに逆らわず、側面を払って軌道だけを逸らす。
二撃目も『払』。
『ヴィルトゥオーソ』の投擲を防いだ触手を押しのけ、顔までの射線を開ける。
三撃目、『突』。
全身をバネのように使い、身体ごと押し出すように放った突きが、確かに堕龍に生えた顔を貫いた。
「今度は届いたわよ?」
「Karororororororororororororororo!!」
「おっと」
パキンッと音を立てて『顔』が砕け、ポリゴンとなって消えていく。
どうも今ので激おこ状態になったようで、堕龍は無数の触手を私へと向けてくる。
「それはさせませんわよ?」
私の目の前の地面からいきなり生えてきた黒紫の骨張った巨大な腕が、私を狙っていた触手を纏めて鷲掴みにする。セレスさんの【イモータルハンズ】だ。
どうやらセレスさんは、堕龍の触手が一纏まりになる瞬間を狙っていたようだ。
「Karororororororo!」
堕龍が威嚇のような咆哮を上げながらセレスさんを睨み付け———
「私をお忘れですか?」
いったいどこから現れたのか、ルビーちゃんが握る深紅のダガーが堕龍に生える顔に突き刺さった。
クリティカル発生に加え、アサシン特有の隠密特攻と急所特攻、『輝石占術師』により武器『コランダム・ルーフス』に付与された【急所穿ち】が、一撃の威力を跳ね上げる。
私の【三手三棍】より激しくダメージエフェクトを散らした『顔』は、ポリゴンとなって消え去った。
「えっ、強」
・ルビーちゃん、まさかのアサシン説
・待ってなんでダガーで大剣より火力出てんの
・ジト目毒舌クール系アサシンルビーちゃん爆誕
ルビーちゃん、アサシンだったかぁ。
私が近接でヘイトを集めまくっていたとはいえ、堕龍の無数の触手を掻い潜って『急所』と『隠密』のダブル特攻を決めるとは、実力も折り紙付きのようだ。
「ラス一!」
私の叫び声に、戦場がにわかに活気付く。堕龍が取り込んだプレイヤーは残り一人にまで減り、それがよほど重要なのか、堕龍は触手を増やしてその『顔』を守らんとする。
だが、白銀の悪魔はそれを許さない。
「んぐぐぐぐっ、【ダブルディール】、【イモータルハンズ】!」
二本目の黒紫の腕が、堕龍の触手を掴んで捻り上げた。一方で、苦痛に歪むゴッドセレスの両腕からは、夥しいダメージエフェクトが弾ける。
【イモータルハンズ】は巨大な腕を自在に操れる代わりに、一定時間ごとにスリップダメージを受ける。その上当たり判定を共有しているため、二本の【イモータルハンズ】を長時間維持しながら堕龍の触手を押さえるゴッドセレスへのダメージは凄まじいものだ。
例えHPに多くポイントを振っているゴッドセレスであっても、ほんの数秒でHPが枯渇するほどに。
「無茶だってセレスちゃん!」
「今やらなくていつやると言うのです! この機を逃すわけにはいきませんわ!」
「あーもうっ! もしヒーラーがいたらセレスちゃんにヒールかけまくってくれ!」
「「「任せろっ!」」」
『パレードリア』のメンバーがゴッドセレスにヒールをかけつつ、他のプレイヤーへと呼び掛ける。幸いここには、ゴッドセレスのファンも多い。我こそはと群がるファンが、一斉にヒールやリジェネをかけ、ゴッドセレスのHPを維持しにかかる。
中にはポーションを持ってゴッドセレスへと近寄るプレイヤーもいたのだが……
「ヤベッ、躓いた!」(ポーションダバー)
「んひゃぁぁぁぁぁっ!? ちょっと! やってくれましたわね!?」
こういう事故もたまには起きる。
「エッッッッッ……じゃなくて、なーに遊んでるんですかねぇ」
突然響いたセレスさんの悲鳴に振り返ってみれば、アニメのドジっ子メイドばりの見事な躓きによって頭からポーションを被ったセレスさんがいた。
躓いたプレイヤーが美少女メイドだったら良かったのに、ゴツいおっさんだったのが残念だ。
いやでも、セレスさんスタイル良すぎ……ウェストくびれてるのにバストいくつなのよ……。それに服が濡れて身体に張り付いてエロすぎる……(チラッチラッ)
・エッッッッッッッッッ!!
・カローナちゃん見すぎ
・で、でけぇ……
・もっとセレスちゃんを映してもろて
「よそ見してんじゃねぇ!」
「んっ!? ダイヤモンドさんナイス!」
セレスさんの痴態に目を奪われていると、迫った堕龍の触手をダイヤモンドさんが防いでくれた。
「まだ終わってねぇだろ」
「ありがとう! けど、これはもう大丈夫なんじゃないかなぁ」
「あー、まぁそうかもな」
私とダイヤモンドさんの目の前では、数えきれないほどのプレイヤーが濁流のように堕龍へと迫る光景が広がっていた。
大半の触手をセレスさんが押さえているうえ、弓や魔法攻撃が絶え間なく堕龍へと襲い掛かる。その対応に触手を割かれている間に接近したプレイヤーがアビリティを叩き込み、ついに最後の一つの『顔』が砕け散った。
「Karororororororororororororo!!」
堕龍が上げた咆哮は断末魔。
戦闘が始まる前であったなら、地の底から震わせるような咆哮に恐怖を植え付けられたものだが、今———ボロボロと崩れ始めた堕龍の姿を見たプレイヤーに、恐怖など芽生えるはずもない。
音を立てて崩れた堕龍の中身……煌々と光り輝く球体が姿を現し———刹那。
「なっ!?」
「ちょっ———」
「わ、私ですの!?」
球体が持つ輝きがそのまま発射されたような極太かつ高速のレーザーが、途中のプレイヤーを軽々と消し飛ばしまっすぐゴッドセレスへと迫った。
「ちょっと、避けられ———」
「クオォォォォォォォンッ!」
「「「「「クォォンッ!」」」」」
任せろと言わんばかりに、ハクの遠吠えが駆け抜ける。
それに呼応して現れた9体のコハク達が声を上げると、ハクの9本の尻尾の先に青白い炎が灯る。
コハク達の耐性が全て乗り、火・水・風・土・光・闇・物理攻撃・魔法攻撃・状態異常を無効にする、ハクの『完全耐性モード』だ。
そのままセレスさんとコハク達を内側にハクが身体を丸めると、直後、堕龍のレーザーがぶつかった。
♢♢♢♢
堕龍が居た場所からまっすぐ地面に刻まれた轍は、ハクがいる場所を分水嶺に二つに分かれて地面を削っていた。
静まり返る戦場に、堕龍のかすれた小さな声が漏れ出す。
それを遺言に、砂煙が晴れた向こうでは堕龍だった肉塊がポリゴンとなって砕け、風にさらわれて消滅した———
『アネックス・ファンタジアをプレイ中のすべてのプレイヤーにお知らせします』
『現時刻をもちまして、堕龍・ワイバーン型が討伐されました! MVPはプレイヤー名: ゴッドセレス、ラストアタックはプレイヤー名: 四ツ歯の苦労婆 です』
『参加したプレイヤー全員に、アイテム: 堕龍の飛竜鱗 が与えられます』
『アイテム: 残されし希望 を所持している参加プレイヤーに アイテム: 古龍の始原核 が与えられます』
鳴り響くアナウンスに、この場のプレイヤーおよび視聴者さん達から歓声が上がる。
達成感のままに声を上げる者、疲労から座り込む者、仲間とハイタッチする者など様々だ。
そんな中、勘が鋭い数人のプレイヤー達は、ある疑問を持った。
ワイバーンの討伐時にはMVPとラストアタックの発表があったが、オルトロスの討伐時には無かったのは、いったい何が違うのかと——
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