その翼に誇りを、その瞳に覇天の輝きを 10
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ちょっとだけ場面が変わります。
【極彩色の大樹海】は、その大部分が消し飛んでいた。
どれほど激しい戦いがあったのだろうか。樹海の真ん中に穴が空いたようにぽっかりと不毛の大地が出来上がり、色鮮やかだった樹海が、もはや見る影もない。
そんな荒野の中心に、その魔物は居た。
魔物の正体は、女王魔蜂。
【極彩色の大樹海】に降りた堕龍と数時間の戦闘の末、彫刻のような美貌であった彼女の姿は、見るに堪えないものとなっていた。
片目は潰され、翅は捥がれ、脚も半分以上千切れてなくなっている。
大きな蛇腹も一部が抉り取られ、もはや生きているのが不思議なほどだ。
そんな彼女の様子を見た堕龍は、彼女に止めを刺さんと歩みを進め———ることはなかった。
できなかったのだ。
満身創痍の女王魔蜂が倒れるよりも先に、今まで蓄えてきたリソースの全てを吐き出し、それすらも及ばずにただの肉塊と化した堕龍には、もはや生きる力は残っていなかった。
堕龍は、たった一体の女王魔蜂に敗北したのだ。
「キュルルルルルルルルッ!!」
女王魔蜂が上げたそれは、苦しみの悲鳴ではなく勝利の慟哭。
ボロボロの姿でもなお衰えぬオーラを放つその女王蜂は、もはや子犬サイズにまで肉を削ぎ落とされ、痩せ細った堕龍を無造作に掴み上げ、噛み千切った。
『———《因子》と《ファンタジア》が混ざり合う———』
『女王魔蜂・"女帝"が進化を開始する!』
『アネックス・ファンタジアをプレイ中の全てのプレイヤーにお知らせします』
『現時刻を持ちまして、堕龍・オルトロス型が討伐されました!』
♢♢♢♢
「———キ様……ミカツキ様!」
「———はっ!」
「よかった、目を覚まされましたね」
「安心するのは早いわよアザミ! ミカツキ様を早く安全な場所へ———」
「Kyurororororororororororo!」
「「「んひゃぁぁぁぁぁぁぁ!?」」」
爆発するかのように【カルディネ湖】から飛び出した水の杭を見て、周囲のNPC達はエルフ族特有の尖った耳を跳ねさせながら蜘蛛の子を散らすように逃げ回る。
そんなNPCに運ばれる女性プレイヤー———『ミカツキ』は混乱する頭の中を整理するも、つい『どうしてこうなった』と口から漏れてしまう。
私は確か……エルフ達と平和なスローライフを送っていたはずなのに、突然……おろち?うんでぃーね型? とかいうモンスターが現れたと思ったら襲ってきて……不意に一撃貰って気絶したんだっけ。
私はただ平和にプレイしたいだけなのに、どうしてこうなった。
「ミカツキ様、力を貸してください!」
「このままでは、我らの『閉ざされし深緑』まで飲まれてしまいます!」
「さ、さすがにあんなつよつよモンスターの相手は難しいかなって……」
「お願いします、ミカツキ様!」
「あなたが諦めてしまっては、我々は……」
「ぅっ……」
目を潤ませながらこちらを見つめる二人のNPC———『アザミ』と『カトレア』の必死の表情に、思わず言葉に詰まる。
正直、戦闘は苦手だ。
そもそも『アネックス・ファンタジア』を始めたのも、現実の根暗な性格を変えるためにVRゲームで他人と関わる練習をしたってだけだし、攻略を目指してプレイなんてしたことがない。
ゲームを始めて早々にエルフ達と出会って、プライマルクエスト『閉ざされし深緑』の発生とともに『エルフ族の救世主』とかなんとか言われて……。
臆病だけど美男美女揃いのエルフ達に囲まれて、ほのぼのスローライフは満足できるものだったけどバトルはちょっと……。
しかし、目尻に涙を浮かべるアザミとカトレア、そして堕龍に襲われて逃げ惑う他のエルフ達の姿に、胸の奥に熱いものが生まれる。
現実世界では何もかも上手くいかなくて逃げ込んだ先のゲームでも、居場所を脅かされている事実に腹が立つ。
何より、こんなに可愛い彼女たちに悲しそうな表情をさせる彼奴が許せない!
「「ミカツキ様!」」
「っ———! 分かったわよ、心の広い私に感謝しなさいよね! ”天の鍵よ、我が意に応え道標を示せ”!」
恐怖に震える脚を無理矢理立たせ、その言葉を紡ぐ。それは、あるカテゴリーに属する武器の起動トリガーだ。
神装武器———聖弓ルーナ・クレシエンテ、起動!
お読みくださってありがとうございます。




