その翼に誇りを、その瞳に覇天の輝きを 7
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遅ればせながら、今日はお昼に更新です。(起きたら昼だったとは言えねぇ……)
夏場とかに蚊がたくさんいると、両手じゃ足りなくなって腕をもっと生やしたいって思うよね。その蚊がなかなか潰せないとなると尚更だ。
腕どころか『頭が足りないなら生やしてしまおう』を地で行くのが、この堕龍という敵なわけだ。なんてフレキシブルでサスティナブルな生物なんだ……。
使い方あってる?
で、増えた頭のヘイトなんだけど……全部私に向いていた。
セレスさんのサポートもあったが、きっと翼や触手を無傷で乗り切った───つまり堕龍にとってのストレスになったからこそ、5つも頭を生やしてまでヘイトを向けてくるのだろう。
可能であれば生やした頭とかを切り落としたいけど……その方が堕龍のリソースを削れそうだし。
私みたいに避けまくるか、デバフで動きを封じていけば、動かせる部位を増やそうとしてリソース使ってくれるでしょ。
問題は、堕龍の身体の一部を切り落とせるかどうかってことだ。装甲破壊の効果が高い【兜割かち】でも大してダメージが出てなかったし、どれだけ時間がかかるのだろう?
「となれば”妖仙流”の連発か……霧隠れの霊廟アタックの続きだから妖気の制限ないし」
・ちょっ、気になる単語の連発なんだけど
・もっと口に出してクレメンス
・カナっち配信中ってこと忘れてない?
・まぁその分セレスちゃんが喋りまくってくれるし
・考え始めると黙るタイプのカローナちゃんと口に出して思考をまとめるセレスちゃんが合わさるとちょうどいいね
「あ、そうだったわね……ごめんなさい。これ『鴉天狗』っていう隠し上位職業で……おわっ!?」
「Karororororo!」
視界の端に映った閃光に、反射的に身体を伏せる。
直後、私の身体があった場所を堕龍の収束型ブレスが通り抜け、空気が焼けるような熱を放ちながら遥か後方へと突き抜けていった。
あっぶな……流れ弾だけで致命傷になるんだから———ッ!?
二発目のブレスを【パドル・ロール】を使用して回避。
あぁもう! ゆっくりもしてられない!
発動しちゃった【パドル・ロール】を無駄にできないし、とにかく相手のリソースを削らなきゃダメだからね!
私の接近に反応した堕龍が、周囲のプレイヤーを押しのけて無数の触手を向けてくる。けど、地面に足がついているならこっちのものだ!
「【ア・ナリエール】!」
【ア・ナリエール】は、【サイレント・ステップ】から進化したアビリティだ。
ダンス特有のステップを混ぜた回避アビリティにより、堕龍の触手は瞬時に横にずれた私の身体を捉えられず地面にぶつかった。
「おいおい、余所見してんじゃねぇよ!!」
「「「【グリッター・レギオン】!」」」
「Karorororo!」
「ダイヤモンドさん達ナイス!」
白、赤、青……輝く宝石のようなエフェクトを纏った七色の閃光が堕龍の横っ面に突き刺さり、その巨体を大きく揺らす。
一発では大した威力にはならないけど、七人でタイミングを合わせた攻撃アビリティは、堕龍にも通じる威力だったようだ。
一瞬動きが止まった触手を無造作に掴む。
堕龍特効を持つ、”妖仙流”アビリティ———
「配信では初公開かな……”妖仙流柔術”——【山嵐】!」
・なにそれ知らない!
・ようせん流!?
・つーか威力よ
・その巨体投げ飛ばすとかカローナ様ってSTR相当高い?
私に投げ飛ばされた触手は、先ほどダイヤモンドさん達が【グリッター・レギオン】を叩き込んだ場所と同じ場所にぶつかり、なかなかのダメージエフェクトを散らす。
「まだまだぁ!」
【パ・ドゥ・シュヴァル】で移動しながら【ウェーブスラッシュ】で追撃、【パ・ドゥ・ポワソン】で空中に飛び出し、すれ違いざまに【兜割かち】によって鱗を削る。
「”妖仙流棒術”——【細雪】!」
空中に身を置く私に殺到する堕龍の頭や触手の前で、『魔皇蜂之薙刀』で円を描くようにクルリと一回転。黒羽のエフェクトがそれらに触れ、その軌道を逸らす。
“妖仙流棒術”は、どちらかというと防御向きのアビリティだ。ヘイトコントロールとパリィを一つにまとめたような効果で、自身に迫る災厄を斥ける。
とはいえ物量が物量なので、追加の【連獅子】で触手をぶっ飛ばし、【パ・ドゥ・シャ】で一旦離脱を——
「Karorororo!」
「は?」
気づけば、私の目の前に堕龍の牙が迫っていた。
たった今【連獅子】で弾いたはずなのに、なんで追ってこれるわけ?
と思ってよく見てみれば、背中から生えた首からさらに枝分かれして生えた首が、私に迫っていた。
「うそん」
・うわぁ
・これはキモい
ちょっと待って。
身体の一部を自由に枝分かれして追尾してくるなんて、生物としてどうなの、それ。
プラナリアだってそんな節操なしにポンポン頭増やしたりしないだろ!
というかヤバッ、たった今空中ジャンプ使ったばっかりで———
怒り……というよりは食欲を剥き出しにして迫る堕龍の頭。【レム・ビジョン】の効果なのか走馬灯なのか、やけにゆっくりと流れるその景色に、ほんの一瞬だけ、黒い影が映った。
———私はその影を知っている。
「カルラッ! ここ!」
「カ―――――――ッ!」
堕龍の牙が触れる直前、真上に伸ばした私の手を、カルラの3本の脚がしっかりと掴み、私の身体を堕龍から遠ざけていく。
えぇい、追ってくる奴にはこうだ!【ペネトリー・スパーダ】!
踏ん張りが利かないから威力は低いけど、多少怯ませられればとりあえず逃げられるのよ!
赤黒い閃光が堕龍の頭に突き刺さり、少しだけダメージエフェクトを放ちながら離れていった。
「ギリギリだったけどナイスタイミングよ、カルラ」
「カローナ、重イ」
「重いって言うなっ! それで、どうだった?」
「ドウダッタモナニモ、モウ来テル」
「!!」
カルラがそう言うのが早いか。
堕龍を取り囲むプレイヤーの群れの一部からざわめきが広がる。その中心には、青白い火の玉が浮かんでいた。
堕龍もその存在に気付いたのか、執拗に私を狙う頭一つの残して残りの頭や触手をその火の玉へと向ける。
だが、もう遅い。
まるで炎の揺らめきから滲み出るように現れた強靭な脚が堕龍の頭を踏み砕き、ナイフのような牙が並んだ顎が触手を噛み千切る。
堕龍の鱗をものともせず理不尽な強さを見せた神獣は、九本の尻尾を揺らし、まるで自身の存在を誇示するかのように高らかに———
「クォ―――――――――――――ンッ!」
『ユニークモンスター: ハクヤガミ が出現!』
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