その翼に誇りを、その瞳に覇天の輝きを 5
評価・ブックマークありがとうございます!
書きたい内容を書いていたらめちゃくちゃ長くなりそうです。「え、まだ続くの?」となるかもしれません。すみません、読んでいただけるとありがたいです。
地面を揺らすような慟哭が木霊す。
金属がぶつかる、甲高い音が響く。
様々な喧騒や怒号が鳴り止まぬ中、ふわふわと宙を舞う二つのカメラの前には、二人の世界が広がっていた。
「「せーのっ」」
カメラのフレームの中央に向かって私は右手を、セレスさんは左手を伸ばし、指を絡め合うように、所謂『恋人繋ぎ』をしながらフレームイン。
カメラの中央で互いの頬を触れ合わせながら、カメラに向かって同時にウィンク!
そして二人で一つのハートマークを作りつつ、精いっぱいの可愛い声で挨拶を―――
「あなたのハートにピアースレイド! カローナチャンネルのカローナと!」
「パレードリアチャンネル、ゴッドセレスですわ!」
「っ~~~~、ごめんなさい、超恥ずかしい……」
「んんんんんんっ! ずっとカローナ様とやってみたかったんですもの、私は感無量ですわぁっ!!」
・来たぁぁぁぁぁぁ!!
・待望のコラボ配信!
・あなたのハートにピアースレイドは草
・ワイのハートにはクリティカルしたで
私とセレスさんが行った開幕のパフォーマンスは、ここ最近中高生の間で高い人気を誇るアイドルグループの振り付けの一部だ。
ショート動画やなんかでいろいろな人が模倣してやってるのを見るけど……現在進行形で見ている人がいると分かってるとめちゃくちゃ恥ずかしいわねこれ!
現在、私とセレスさんのカメラを連携し、二つのカメラで撮影した映像が両方のチャンネルで配信されている状態だ。
さすがはセレスさんと言うべきか、私の同接数は数百だというのに、セレスさんの方は2千を超えて今なお上昇中である。
「そんなことよりセレスさん、現状報告!」
「そうでしたわ! 皆さん、これを見てくださいまし!」
セレスさんは自動モードで宙に浮いていたカメラを掴むと、そのレンズを堕龍へと向ける。
空気が裂けるような咆哮を上げ、縦横無尽に荒れ狂う触手を懸命に抑え込むも、徐々に押され始める『銀龍聖騎士団』の様子が映し出されていることだろう。
「すでにご存じかと思いますけど、スペリオルクエストの開始とともに、こんな化け物が現れたのですわ!」
「とにかくタフで、人数が全然足りないの! 数百人、下手したら千人規模のレイドモンスターよねこれ!?」
「カローナ様の言う通りですわ! そこで皆様に協力していただきたいのです! 場所は『霧隠れの霊廟』から南西方向へ2キロほど進んだ辺りですわ。私達と共闘してくださいまし!」
「みんな、私達を助けてっ!」
・カローナ様と共闘と聞いて
・セレスちゃんとコラボ?
・は? スペリオルクエストとか今知ったんだが?
・共闘云々はともかくスペリオルクエストを逃す手はないのでは?
・あれ……? カロ豚の霊圧が、消えた……?
・アネファンにログインしたんだろ
「Karororororororororo!!」
「ちょっ、カローナ様とセレスちゃん! そろそろキツいっす!」
「守護騎士ジョブがこれだけいて抑えきれないとか頭おかしいだろこれ!?」
「っ! オッケー、そろそろ前線行くわ。セレスさん、相手の行動とか、分かってる限りで教えてくれませんか?」
「えぇ、まず属性は炎、攻撃にはそれに加えて腐食性が付与されていますわ。攻撃方法は今のところ、翼の振り下ろし、尻尾の薙ぎ払い、ブレスといったところですわね」
「それぞれの特徴とかあるかしら?」
「翼の振り下ろしは、翼を振り上げる角度から軌道が読めますし、振り上げが早いとディレイなし、振り上げが遅いとディレイありですわ」
「尻尾の薙ぎ払いは、首を左右どちらかに振る動作から約1秒で飛んできますわね」
「ブレスは広範囲と収束型の二種類で、チャージ中に口の横からエネルギーが漏れていると広範囲、漏れていなければ収束型ですわ。広範囲は見てから避けることは可能ですけど、収束型は早すぎるので見てから回避はほぼ不可能ですわ」
「えっ、セレスさんが戦ってたのって10分ちょっとぐらいよね? もうそこまで分かってるの?」
「これぐらいじゃないとトップランカーの座は守れませんもの! あ、ちなみに即死は抵抗されましたわ」
「ま、それはそうよね。でも、そこまでの情報があればどうとでもなるわよ!」
“妖気解放――鴉天狗”の機動力超絶アップに加え、【アン・ナヴァン】、【パドル・ロール】etc……機動力に特化したバフ、バフ、バフのオンパレード。
とりあえず、一仕事頼んだカルラが戻ってくるまで、前線を維持し続けるしかない。
【変転】も補給し、位置について、よーい……ドンッ!
「【パ・ドゥ・シュヴァル】!」
黄緑色のエフェクトを纏った脚が、私の身体を高速の世界へと導く。
【レム・ビジョン】と【アストロスコープ】によって目から漏れた閃光が空中に軌跡を残し、無数の触手を搔い潜って堕龍へと肉薄する。
っと、翼を振り上げるモーションってことは……振り下ろしか!
「サポートしますわ! そのまま突っ込んでくださいまし! 【マグナ・グレイブ】!」
そんなセレスさんの声が後ろから聞こえると同時、地面から突き出た岩の柱が堕龍の翼にぶつかり、その行動を阻害した。
「セレスさんナイスッ!」
ビキビキと岩が砕ける音が響くが、堕龍の強力な翼撃を少しの間止めて見せた。
―――その一瞬さえあれば、私のスピードなら優位を取れる!
【マグナ・グレイブ】の石柱を駆け上がりながらチラリとセレスさんへとアイコンタクト。ウィンクを返したセレスさんを見つつ、ジャンプして堕龍の背後を取ると―――歪に生えた堕龍の背中の首と目が合った。
「そっちの頭は私が押さえますわ! 【イモータル・ハンズ】!」
堕龍の上空に現れた黒紫色の腕が、堕龍を抑え込まんとその掌を広げ―――その掌に上下逆さまとなった私が着地した。
重力で落ちる前に【ファイヤーボール】で牽制を入れ、その魔法陣に隠れて【イモータル・ハンズ】を足場に【パ・ドゥ・ポワソン】を発動!
「アンド【兜割かち】!」
「Karororo!?」
尋常ではないスピードで振り下ろした『魔皇蜂之薙刀』が、堕龍の首に突き刺さり僅かなダメージエフェクトが漏れる。
「まだまだぁ!!」
【兜割かち】を振り切った隙を突き殺到する堕龍の触手を、【パ・ドゥ・ヴァルス】の回転で無理やり振り回した魔皇蜂之薙刀で弾き返す。
ふははは、私を物量で押し潰したかったら本体と同じぐらいの弾幕を張ってみなさいっ!!
「【パ・ドゥ・シャ】!」
触手を弾き返した一瞬の空白―――その瞬間、水色のエフェクトが弾けた私の脚が、空中を踏みしめて加速する!
ボッ! と空気を切り裂く音と、アビリティエフェクトによる様々な色の残光を残して地面と平行に跳ねた私は、身を翻して樹の幹へと着地する。
樹の幹を軽く凹ませるほどの勢いを殺しきれず若干ダメージを受けつつ、咆哮を上げる堕龍へと視線を向ける。
すると、牙がズラリと並んだ口に眩いばかりの閃光を溜めた5つの首と目が合った。
あの、なんだか首がめっちゃ増えてません……?
お読みくださってありがとうございます。




