その翼に誇りを、その瞳に覇天の輝きを 3
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度重なる環境破壊、産業革命、そして戦争……既に地球は限界だ。我々人類は、地球を捨て別の星へ移住することとした。
人類の存亡をかけた大計画だ。
各国どころではない、全人類の知識、技術、力を集結して行われたその計画は、一世紀以上の試行錯誤の末現実となり、2xxx年、ついに我々人類の希望となる星を発見した。
大気の成分は若干異なるのだが、気候は地球に近い。
この星を開拓し、人間が居住できる星に変える―――
―――この計画を『アネックス計画』と名付けた。
最初こそ順調であった。
地球では少ない資源の数々、地球には存在しない素材、地球では不可能だった機構の数々が、この星では可能となる。
だが、アネックス計画を遂行するにあたっての大きな障害が存在した。その一つが『原生生物』の存在だ。
『原生生物』とは、この星に元々生息していた生物のことである。
地球の生物と似ているもの、似つかないもの、やたらと巨大なもの、異常に小さいもの。
様々な生物がいるが、共通しているのは、我々人間に敵意があるということ。
中でも特に強力なモンスターは、地球の軍事力を持ってしても討伐が難しいものもいる。
我々は早急に、モンスターへの対抗手段と開拓手段を確立する必要がある。
―――状況が変わった。この世界は何かがおかしい。
突如現れた小さな小さな、真っ赤な星。
気が付いたら月ほどの大きさになっている。
異形の怪物がどこからともなく現れて、我々を攻撃し始めた。
そもそも、この星は一つの生物だったのだ。
ここに住む生物は全て、この星の生命活動に必要な、いわば腸内細菌だ。我々人間は、外から来た病原菌だ。
我々はこの星を開発していると思っていた。
大きな勘違いだ。
環境を破壊していたのは、我々の方であった。
我々はこの星を病気にしてしまった。
取り返しのつかない所まで追い込んでしまった。
あの月は『癌』だ。我々の敵は、地上の魔物ではない―――
「我々はその生物群を攻撃性の癌、つまり『侵略的悪性新生物』と名付け、それを討伐するために新たに対策を打つ必要があったのだ」
―――もっとも、今もそれが存在していることを考えれば、どういう結末になったかは察するべきだがね。
と、ホムンクルスは最後にそう付け加え、口を閉ざした。
沈黙が場を支配する。
それはそうだろう。私達プレイヤーは、ここは剣と魔法のファンタジー世界だと思っていた。
しかしホムンクルスの……フィリップス・ホーエンハイムの語ったそれは、あまりにも重く、そしてあまりにも切羽詰まった話であった。
私たちが何も考えずにゲームとして遊んでいる裏では、『アネックス・ファンタジア』は静かに、確実に滅亡に突き進んでいたのだから。
正直な感想を述べるなら……このゲームの運営はバカなんじゃないの?
誰も【霧隠れの霊廟】をクリアできずにいたとしたらどうするつもりだったの?
しれっとそのまま世界を滅亡させるつもりだったの?
……ありえそう。
余計な介入を一切しない運営だ。下手したらそのまま滅亡か……いや、誰かがクリアするのを見越しての設定か。
ちらっとジョセフさんを見ると、あごに手を当てて何やら考え込んでいる。
まぁ、考察厨な彼らにこんな上質なエサを与えたら、そりゃ夢中になるか。
悩むこと一分ほど、ようやく口を開いたジョセフさんがした質問は、堕龍についてであった。
「君の話だと、その『赤い月』とやらが侵略的悪性新生物なのだろう? その月は一体どこに? そして、あの【霧隠れの霊廟】を破壊して現れた堕龍の正体は? 君の言う、『新たな対策』とは? 分からないことが多すぎる」
「なに、月は今もしっかりと空に浮かんでいるよ。君たちが見つけられていないだけだ。よく探すが良い」
それを今明かす気はない、と。
眼を細めてジョセフを見つめるホムンクルスは、そのまま語り続ける。
「確かにその月こそが侵略的悪性新生物である。しかしそれは、この星に存在するあらゆる生物に感染していった。ゴブリンにも、オークにも。果てはドラゴンにも」
「ドラゴンにも……ということは、かつてはドラゴンが当たり前のようにいたということだね?」
「あぁ、ドラゴンは生態系の頂点であった。癌に侵されたドラゴンはいとも簡単にほかの生物を蹂躙し、同士討ちをし、喰らい合い、混ざり合い、結果的に出来上がったのが、あの堕龍というわけだ。《アネックス計画》が生み出してしまった怪物。ゆえに失敗作と表現したのだ」
「なるほど。なら、この石像のドラゴンとも関係があるわけだな」
ヘルメスさんがインベントリを操作し、【霧隠れの霊廟】から持ち帰ったドラゴンの石像を取り出す。ズンッ――と音を立てて現れたそれは、広いアーカイブの会議室でも天井に着きそうなほどの巨体だ。
「君、そういう重要な物は最初から出してほしかったのだがね」
「あんたが話続けてたから、俺らが口を挟む暇なんてなかったと思うが」
「もちろん関係がある。君たちの予想の通りそれは本物のドラゴンであり、それらのドラゴンを石像にしたのは他でもないこの私だからな」
衝撃的なホムンクルスの発言に、その場にいる全員の視線が集まる。
「ほとんどのドラゴンが堕龍に飲まれていき、絶滅を危惧した私は所謂『魔法』を使ってドラゴンを石に変えたのだ。無機質であれば吸収できないのでね」
「そんな魔法があるとはね……。いや、君がドラゴンを石像にしたというのであれば、もしやこの石像のドラゴンも元に戻せるのでは?」
「無論……と言いたいところだが、簡単にはできないな。石化した体の組成を【錬金術】でもとに戻すことは可能だが、組成を戻したところで生命活動を再開するとは限らないのだ」
「生命活動を……つまり、ドラゴン、いやモンスターの活動の根源となる何かが必要だと。となると、魔石かね?」
「ふむ、なかなか鋭いな、その通りだ」
「しかし今からドラゴンの魔石の当ては……いや、そういうことか」
「ドラゴンの生き残りなんて、石像になってる4体だけなのよね? どうするつもりなの?」
「現存のドラゴンでなくても、ドラゴンが元になっている生物が存在するだろう?」
「あ……」
ドラゴンが元になっている生物……それは堕龍で間違いない。
つまり、この石像のドラゴンを元に戻すためには、本体から分岐した堕龍を討伐し、その中にある魔石を回収する必要があるということだ。
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