霧隠れの霊廟リベンジ 3
評価・ブックマークありがとうございます!
ダメだこれ、全く勝てる気がしない。
【変転】によるステータスアップに単純な装備の性能、そして圧倒的なスピードを利用した物理演算パンチの威力は、決して弱いわけでは無い。
それでも、先ほどの攻防で、堕龍の身体からはダメージエフェクトがほとんど出ていなかったのだ。叩いた感触はめちゃくちゃ硬いってわけでは無かったのに。
ダメージカットとか軽減とか……とにかくこれは、そういう仕様だということだ。
くそっ、絶対これ3人で相手するような敵じゃない。
「カローナちゃんお帰り、言いたいこと分かるよ」
私がMr.Qの所に戻ると、Mr.Qも堕龍を弾き返しながらそう口を開いた。
「分かってるなら早いわ。どうする? これ」
「まだまだ検証は足りてないからね。幸い、思ったより堕龍の攻撃は激しくない。俺やカローナちゃんの斬撃は効果が薄そうだから、次は強力な打撃をいってみたいんだけど……何か良いアビリティ持ってない?」
「あるにはあるけど……可能であれば一瞬相手の動きを止めて欲しいんだけど」
「ならその役は俺がやろう」
名乗りを上げたのはヘルメスさん……え、ヘルメスさんが?
「ヘルメスさん戦闘職じゃないじゃん」
「その辺の木端の生産職と一緒にしてもらっては困る。お前の『冥蟲皇姫の鎧』を作ったのは俺だぞ?」
そう言いながらヘルメスさんがインベントリから取り出したのは、一本の黒い傘。長く頑丈そうな作りで、現実のものならそれなりの値段がしそうな造りだ。
「まぁ、ヘルメスの言う通りだよ。カローナちゃんのその鎧を生み出せる生産職が、自分の装備を整えていないはずがない」
「それって……」
「Mr.Q、正面から来た奴はスルーして俺にまかせろ。それ以外の露払いを頼む。カローナは上手く堕龍を誘導して欲しい」
「本当に大丈夫? 私が言うのも何だけど、あの突進を逸らすだけでもかなりのSTRが必要よ? ヘルメスさん、生産職でしょ?」
「問題ない、生産職は生産職なりに戦い方があるからな。ヘイト管理頼むぞ」
「そこまで言うなら……OKッ!」
【挑発】発動!
効果は単純、自身のヘイト値を上昇させるだけのアビリティだ。避けタンクとして暴れまわっていたからか、レベルアップと同時にそんなアビリティも入手したのだ。
「横からは勘弁!」
まるで鞭を振るうかのように横薙ぎに迫って来た堕龍を確認した直後、メガランチュラから作成した『ダイハード・バックラー』を取り出し、【パワーノック】を発動。
下から突き上げるように軌道を逸らし、私やヘルメスさんにも当たらないようにやり過ごす。
『ダイハード・バックラー』をインベントリに放り込み、【ウェーブスラッシュ】をチャージ。次に迫った堕龍にそのままぶちかまして堕龍を押し返す。
【ウェーブスラッシュ】は【ワイドスラッシュⅡ】から進化したアビリティだ。攻撃範囲が広くて威力も高いが、流石に【連獅子】よりはノックバック効果が薄い。
だけど、その分相手の位置の調整がしやすい。
「ヘルメスさん! 次は止めないからよろしく!」
【ウェーブスラッシュ】で堕龍が正面に来るように調整した私は、バックステップでヘルメスさんの目の前まで下がり、声をかける。
「任せろ」
ヘルメスさんがそう言うのが早いか。
堕龍が体勢を整え、再び突撃を開始する。
「【ア・ナリエール】!」
【サイレントステップ】の上位アビリティ、【ア・ナリエール】を発動!
それに加えてダンス特有のサイドウォークを合わせ、堕龍がぶつかる直前で横にズレてヘルメスさんにヘイトを押し付ける。
回避した直後から堕龍へと間合いを詰めながらヘルメスさんに視線を向けると……堕龍に向けて広げられた黒傘が、ほんのりとアビリティのエフェクトを纏っていた。
―――カローナの『ヴィクトリアン』シリーズやMr.Qの『糸通し』を作成した時、ヘルメスは『名匠』と『付与術師』の二つの職業を駆使して作成を行っていた。
【変転】をはじめとする様々な装備スキルは、この『付与術師』のアビリティによるものであった。
そして現在、プライマルクエスト『ミクロコスモス』の後編が進行したヘルメスは、メイン職業を『名匠』から分岐した上位職業『アルケミスト』、サブを『高位付与術士』としている。
『アルケミスト』により、さらに自由な造形を。
そして―――
『高位付与術師』により可能となった、装備にアビリティを付与する技術が、生産職であるはずのヘルメスを生粋の戦闘職レベルの戦闘力へと引き上げる―――!
「【バニシング・リフレクト】!」
一際輝きを増した黒傘から薄い膜のようなシールドが展開され、直後に凄まじい音を立てて堕龍と激突した。
【バニシング・リフレクト】は、『フォートレス』をはじめとする防御系職業で使用できるカウンターアビリティである。
物理攻撃にしか効果は無く、効果時間自体も短いアビリティだが、どんなに威力が高い物理攻撃も反射し、相殺を可能とする!
【バニシング・リフレクト】と激突し轟音を立てた堕龍は、突進の威力を相殺され、ほんの一瞬だけ、その動きが停止した。
「―――――っ」
「ナイスッ!」
そのほんの一瞬を、私の目は逃しはしない。
幸い、ごつごつした堕龍の体表は掴むところがたくさんある。
「【”妖仙流柔術”———」
堕龍を掴んで一瞬の停止。
次の瞬間にはトップスピードで。
回転を利用してコンパクトに。
まだ本物には遠く及ばないけど……それに近い動きは出来る。
この身で何度受けたと思っている?
「———山嵐】!」
直後、まるで杭を打つかのように堕龍が地面に突き刺さり、蜘蛛の巣状の地割れと共に地面を揺らすかのような轟音がその場に響いた。
お読みくださってありがとうございます。




