ハプニング発生!!
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突然、どこからかプレイヤーの叫び声と、その後ろを追う大量のモンスターの鳴き声が、こちらに迫ってきたようだ。
「「「——ぁぁぁぁぁぁぁぁあっ!!」」」
「えっ、何?」
・なんか来たww
・モンスタートレイン?
・まーたPKerかよ
・いや、結構ガチなやつじゃない?
「そこのプレイヤーさんも逃げてくださいぃぃぃっ!」
「あっ、ちょっ!」
やってきたプレイヤーは、どうやら3人組。赤髪の男性、紫髪の男性、オレンジ髪の女性だ。流されるままに私は彼らと並走した。
コメントで突っ込まれていた『モンスタートレイン』というのは、周囲のモンスターのヘイトを集めて他のプレイヤーに押し付ける害悪プレイである。
自身でPKしているわけではないのでドクロマークが付くわけではないが、やられたプレイヤーからはものすごく恨まれる迷惑行為である。
ちなみに、故意だった場合はPPは爆増するらしい。
「あのっ、もしかしてカローナさんですかっ!?」
「マジっ!? 本物っ!?」
「巻き込んじゃってごめんなさいっ! とにかく逃げましょう!」
「「「「「ギャギャギャギャギャギャギャッ!」」」」」
「な、なにあれ」
・アンガーエイプの群れだな
・『仲間を呼ぶ』コマンドを連打してくるやつだな
・しかもこいつらプレイヤーの顔覚えるからなぁ
「マジですか? それでこの大群なんですね!」
走りながらじゃ確認しにくいけど、木々の間を伝ってこちらに向かってくる猿のモンスターは、確かになかなかの数が居そうだ。
木々の間から確認できるアンガーエイプは、灰色っぽい毛並みに覆われ額に一本の角が生えている猿のモンスターようだ。
「仲間を呼ばれる前に倒しきれなくてっ」
「それでこうなっちゃったんだよぉっ!」
「ご迷惑おかけしますぅぅっ!!」
「事故だったら仕方ないわよ! 視聴者さん、相手の強さってどれぐらい!?」
・一匹一匹はそんなに強くない
・カローナ様の火力でクリティカル取れば一撃で決まるかも?
・カローナ様まさか……
「もちろんやるわよ! 経験値的にも映え的にも美味しいし! えっと……」
一緒に走る3人組に視線を向ける。前衛1人に魔法職2人かな。名前は……
赤い髪の人が『アップル』、紫髪の人が『グレープ』、オレンジ髪の人が『オレンジ』ね。
ス~~……
「安直っ!!」
・草
・確かに安直だわな
・カローナちゃんひでぇ
「えっ、なんですか!?」
「そんなに怒らないでくださいぃぃっ!」
「ごめん、つい! このままじゃ埒が明かないから、皆さん協力してくれませんかっ?」
「協力って、あいつらと戦う気か!?」
「そうよ! このまま鬼ごっこしてても、もっと状況が悪くなるだけでしょ! グレープさんとオレンジちゃん、少しの間だけでいいんだけど火の壁とか作れない!?」
「【ファイヤーウォール】なら使えるけどっ、デカい規模だとそんなに持たないぞ!」
「それでいいわ! ほんの少しの間だけでも、あいつらが気圧されてくれればいいの! アップルさんは後衛二人の補助! カウント3でいいかしら!?」
走りながら3人に視線を送りつつ、インベントリを操作して装備を変更する。
この大群を相手にするには、あの装備しかないよね!
「わかった! カウント頼む」
「分かりましたぁっ!」
「OK! 3、2、1……今っ!」
「「【ファイヤーウォール】!」」
「「「「「ギャギャギャギャギャッ!?」」」」」
グレープさんとオレンジちゃんが同時に振り返り、杖を振るって魔法を発動する。
地面から起き上がるように立ち上った炎の壁が灼熱をまき散らし、今にも襲い掛からんとしていたアンガーエイプが僅かに躊躇い———
———その炎の壁を突き抜けた黒紫の雷が、二体のアンガーエイプを斬り裂いて大木の幹に突き刺さった。
紫電の正体は当然、私だ。
いつものように【クイックスカッフル】と【アン・ナヴァン】を重ね掛けし、【パ・ドゥ・シュヴァル】の前方移動でスタートを切ったのだ。
ただし、今までの私とは大きく違う部分がある。
身に纏う金と黒の鎧はさらに輝きを増し、高潔な聖騎士を思わせる優美な姿を、【変転】による黒紫のエフェクトが怪しく彩る。
『冥蟲皇姫の鎧』———甲虫姫装の鎧にさらに大量のディアボロヴェスパの素材を投入し、性能も特殊機構もより強く、より美しく仕上げたヘルメスの最新作だ。
今回はそれだけでない。
鎧と同じく金と黒のデザインに黒紫のエフェクトを纏う髪飾り———『冥蟲皇姫の帝冠』。
そして、同じく膝上からつま先までを彩る高いヒールのついた脚鎧———『冥蟲皇姫の脚鎧』。
3種類5部位の『冥蟲皇姫』シリーズが、私を次の次元へと押し上げる!
【パ・ドゥ・ポワソン】、【パ・ドゥ・ヴァルス】起動!
「「ギャッ!?」」
何が起きたのか、ようやく気付き始めたアンガーエイプ達に狙いを定め、私は樹の幹を蹴る。
相手が反応するよりも早く肉薄した私の『魔皇蜂之薙刀』が、さらに二体のアンガーエイプを斬り裂いていく。
周囲のアンガーエイプ達が視線を向けるも、すでに私はそこにいない。
【パ・ドゥ・シャ】によって方向を変えた私はさらに一体斬り倒し、地面に降りて3人組のところへと戻る。
勢い余って、ブレーキをかける脚が地面に轍を刻みながらも、冥蟲皇姫の脚鎧の高い防御力がダメージを0に抑えてくれたようだ。
ここまで、僅か3秒弱。
「「「……え?」」」
なにかありえないものを見た、といった表情の3人の目が私に集中した。
・速すぎん?
・気がついたら数匹死んでるんやが
・この3人組みたいな反応もなんか久しぶりだなぁ
「何言ってんの、まだまだこれからよ?」
自分のステータスウィンドウへと視線を送る。そして、その中にある、ある項目を確認し、私はにやりと口角を上げた。
「お待たせしました、皆さん。ようやく”妖気ゲージ”がマックスです。お待ちかねのユニークジョブ、見せてあげますね?」
———”黒く、闇く、深く、蒼窮覆う黒の迦楼羅天”———
『妖気解放』、発動!
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