極彩色の女王 5
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「クソがっ、てめぇは絶対ぶっ殺してやるよ!」
額に青筋を浮かべながらインベントリ操作をするPKerの男は、どうも真性な気がしてならない。
【ティエラ】から出てすぐに襲ってきた奴らはまだ冗談を言えるような奴らだったけど……こいつはまともな会話も成立しなさそうだ。
そんなことを考えてる暇があったら、相手の行動を妨害すればよかったと今更ながらに後悔した。PKerの男が取り出したのは、黒紫の禍々しい魔剣。
相手がその剣を取り出した瞬間、周囲の温度が急に下がったような気がした。ゲームの中でありながらも、そう感じるほどの寒気に襲われたのだ。
カグラ様との出会いのような、圧倒的な強者を前にした戦慄ではない。言うなれば、理解できない狂気を持った何かに出会ったような忌避感だ。
あの剣は恐らく、これまでに数えきれないほどの人間を———
「ぉああっ!」
PKerの男は赤黒く脈動するその剣を、突然自身の胸に突き立てた。その瞬間、傷口から溢れだした黒い霧のようなものが男の身体を包み込み、その姿を異形のものへと変えていく。
『魂喰らう魔剣』———自傷をトリガーに、一時的に自身の種族を『喰らう者』に変更し、全ステータスを飛躍的に上げる効果を持つ魔剣だ。
変身時の隙のなさとステータスの上昇率を見れば、効果量は他の武器やアビリティを遥かに凌ぐ。しかし、そんなものをリスクなしに使えるはずがない。
種族『喰らう者』は、プレイヤーの意思とは無関係に動き出し、他のプレイヤーやNPCを殺すまで止まることはない。
それだけではなく、使用中は自身の命《HP》も徐々に削られていき、最終的には全て魔剣に食い尽くされる。
使用者も被害者も関係なく、幾人もの人々を喰らってきた呪いの魔剣であった。
一応私も魂喰らう魔剣のことは知っている。と言っても、私が持っている知識は『ステータスがアホみたいに上がる代わりに理性を無くす』ぐらいだけど。
「ゴォォォォッ!」
「おっと……!」
獣のような雄叫びを上げながら乱雑に振り回される腕を、【クイックスカッフル】を使って掻い潜る。
動きは単調だから、私の機動力ならいくらステータスが高くとも避けるのは簡単だ。けど、問題は別のところだ。
「【流葉】からのぉ……」
丸太のような腕をパリィで反らし、踏み込み、換装。
身体を捻り、叩き込む!
「【神斬舞】っ!」
「っ!」
鈍い炸裂音を響かせ、強力なノックバックが……
「グォオオッ!」
「はぁっ!?何で効いてなっ———」
———違う。
相手の爪先から伸びるように、轍のような跡が10cmほど地面に刻まれている。
こいつ、【神斬舞】のノックバックを耐えやがった……!
ステータスが上がっているということは、当然STRやVITも上昇しているということ。
このSTRとVITは単純な攻撃力と防御力の意味を持っているだけでなく、ゲーム内において踏ん張る力に影響するのだ。
そしてそれは、高ければ高いほど、アビリティの効果に抗えるほどの抵抗力を発揮する。
やばっ、とりあえず回避っ……!
目の前に迫る豪腕右ストレートを目視しつつスウェーバック、同時に前後に180度開脚して身体を沈め、その下を潜る。
ゴゥッ! と宙を貫く拳の風圧が、私の冷や汗を吹き飛ばしていく。……ゲームの中に冷や汗とかあるのか知らないけど、それぐらいの威力はあった。
いや当たったら死ぬって。
その場に留まるわけにもいかないため、とりあえずバックステップを踏んで距離を開ける。
さて、どうしようか。
相手のステータスが高いとは言え、動きは直線的。私ならパリィもクリティカルで決められるけど、それでも武器の耐久値は少しずつ削れていく。
おそらく、私のナイフを破損する方が早いだろう。
しかも相手は殺すか殺されるかしないと元に戻らない訳で……決め手に欠ける私が不利だ。せめてもっと火力があれば———いや、ワンチャンあるか?
確証は無いし、半分……いや、8割賭けになるけど、こいつを倒すにはそれしかないだろう。それならまず、なんとか隙を作るしかないな。
未だ理性の欠片もない雄叫びを上げて迫ってくる喰らう者から距離を取りつつ、とある場所から離れるように誘い込む。
狙いは脚だ。如何にVITが高くとも、一か所を集中して狙ってやれば部位破壊が狙える。とにかく今は少しでも時間を稼ぎたいからね。
「オォォォォッ!」
「ふっ……んっ!」
獣のような声を上げつつ真後ろに迫る喰らう者の気配を感じつつ、振り向きざまに【空風・払】で右の膝を刈り取る。
自動車のタイヤを叩いたような感覚。次!
そのままの勢いで足元を抜け、【パ・ドゥ・ポアソン】でトリプルアクセルを決めつつ、喰らう者の裏拳を【流葉】でパリィ、【ワイドスラッシュⅡ・払】を斜め上から右の膝へ叩き込む!
着地後、【クイックスカッフル】起動!
振り返る喰らう者とは逆方向に加速し、一気に視界から消える。
まだまだぁっ!
横方向の加速を【パ・ドゥ・シュヴァル】によって前進に変換、その勢いのまま———
「【ピアースレイド】ぉっ!」
赤黒いエフェクトが宙に軌跡を残し、喰らう者の膝に【ピアースレイドⅡ】が突き刺さる。如何にVITが高いといえど、攻撃アビリティを同じ場所に三発受けたのだ。
ダメージの蓄積は十分!
『アネックス・ファンタジア』には、ダウンシステムが存在する。ダメージを受けるたびにダウン値が溜まり、それが一定値以上になった時、若しくは一定以上のダメージを受けた時に一時的に行動不能になる現象だ。
「ガッ!」
パキンッ!
っとガラスが割れるような音と共に、喰らう者が膝から崩れ落ちる。
時間にしてわずか数秒の隙。相手が跪くのが早いか、私は踵を返して【アクセルステップ】を起動し、元居た場所へと急行する。
それはもちろん、女王魔蜂の所だ。
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