偽典の守人 1
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「本当に全勝するとは……やりますねカローナ様」
「ちょっと、他人事すぎないかしら!?」
数十人の近衛兵達との試合を終えたばかりの私は、息を切らしながらライカンさんへと声を荒げる。
試合とはいえ、プライド的に負けられないし怪我をする可能性だってある。感心したように拍手をするライカンさんの軽さに、さすがの私もイラッとしたわけだ。
まぁライカンさん的には、『カローナはティターニアちゃん付きの護衛なのだからこれぐらいできて当然』といった感覚なのかもしれないわね。
ハァ……こっちは一撃受けただけでも結構ピンチだってのに……あーぁ、せっかくの『魅惑の恋人』ドレスに砂埃と汗が───
「「「「「 」」」」」
頬に張り付いた髪を振り乱し、ドレスの胸元を軽く引っ張って中に空気を送ると、ライカンさんやファルコン含むその場の男性全員がサッと視線を逸らす。
……紳士だねぇ。
この攻撃が一番効くんじゃない?
というかファルコン、あんたはある程度見慣れてるんだから今さらでしょ、そんな反応。
一方ティターニアちゃんは、腕を組んで満足そうに何度も頷いている。まぁ私は『妖精女王の懐刀』ですし? 雇い主が満足ならとりあえず満足よ。
ただし何か報酬はちょうだいね?
「お姉ちゃん、そろそろ……」
「あっ、そうだったわね」
照れる近衛兵達を見て反応を楽しみながら『冥蟲皇姫』シリーズに着替えたところで、呆れた表情のファルコンから声がかかった。
「ティターニアちゃん」
「んっ? なんじゃ?」
「私、今日は腕試しのつもりで来たんだけど……次はファルコンのバフありで戦いたいのよ」
「それならばまた近衛兵達と試合をすれば良かろう?」
「えー……っと」
私がチラッと視線を向けると、ビクッと身体を震わせて姿勢が良くなる近衛兵達。
『まだ戦えるのか……』とか『また腕試しに使われるのか……』と言いたげなのがよく分かる。
「あー……それもいいんだけど、正直あんまり相手にならないかなって」
あっ……全員の表情が曇った……。
だってしょうがないじゃん。演奏バフ無しで全勝だったんだから、そこにファルコンの演奏のせたらもっと圧勝するでしょ。
「ってことで、何かちょうどいい相手とか知らない? ティターニアちゃんやライカンさんの立場から『倒して欲しい』って思う相手でもいいけど」
「ふむ、なるほどのぅ……」
そう、これが本題だ。
私の推薦だし、ロッシュさんの様子を見に来たってのももちろんあるけど、元々はVRチェアの性能チェックとファルコンの演奏バフありでの攻略。
ティターニアちゃんやライカンさんなら、何かちょうどいいモンスターを知っているのではと思ったのだ。
「ラ・ティターニア様、であれば地下のアレを……」
「ふむ、確かにちょうど良いかも知れぬな」
おっ、ライカンさんには何か思い当たる相手がいたのかな? 『地下のアレ』とはいったい……
「ではカローナ様、ファルコン様。他の者がいる前ではなんですので、移動しながら説明いたしますね。ついてきてください」
優雅に羽ばたきふわりと宙に浮くティターニアちゃんと、私とファルコンに背を向け先導するライカンさん。
私はファルコンと顔を見合わせ、『上手くいった』と笑いあった。
♢♢♢♢
「カローナ様、ラ・ティターニア様は『妖精族』としては三代目の王ですが、王国自体はもっと昔から続いています。……という話はご存じですよね?」
「えぇ、この国では血筋が100%じゃないのよね」
この国の王は、歴代を遡れば妖精族だけでなく獣人やエルフなど、様々な種族がいる。血筋は多少関わるが、優秀さなどから決められるのだ。
ティターニアちゃんは妖精族三代目だから、ティターニアちゃんの祖父がよほど優秀だったのだろう。
「ですので、この城自体ももういつからか分からないほど昔から存在しているのですが……城の地下に開かずの扉があることに気がつきまして」
「開かずの扉?」
「はい。中に何があるかも、いつからそこにあるのかも分かりません。記録すらも残っていない、完全に使途不明の扉です」
「調べようとはしたのよね? どうして開かずの扉なのかしら」
「それは……実物を見ていただきましょう」
ティターニアちゃんとライカンさんについて、私達は地下へと続く石階段を降りていく。湿気はなくひんやりとした空気が肌を撫でる。
けど不気味な雰囲気はなく、なんというか……変な感じだ。
そうしてしばらく歩くと、魔法によって照らされた空間の中に、ぼんやりと巨大で重そうな石の扉が見えてきた。
私達がその前に立つと、扉に嵌め込まれた黒い結晶がキラリと瞬き───そこから黒い煙のようなものが吹き出てきたのだ。
「この煙自体には、触れても問題はありません」
「ぁっ、そうなの?」
「この後が大変なので」
「えっ」
咄嗟にバックステップを踏んでいた私は、ライカンさんにそう言われて一旦警戒を解く。が、直後のライカンさんの言葉で、再び警戒レベルを引き上げた。
吹き出した煙は徐々に一ヶ所へと集まり、何やら形を作り始める。
「この扉を『開かず』と表現しているのは、固定されていて開けられないのではなく───」
黒い煙は、ハッキリと人間の形となっていく。まるで人間のシルエットがそのまま動いているような黒塗りの人物は、身に付けている鎧も剣も、ハッキリと見える。
「どうやらこの扉を守っているらしい謎の影の騎士……この存在のせいで、扉を開けられないのです。強いですよ、この騎士は」
『女王の剣』たる私をして、扉に手が届かないほどに───
『ユニークモンスター: 影雄の偽典 が出現!』
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