私ってそんなに脳筋かなぁ……
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「カローナ様、どうしてここに!?」
「もちろんお兄さまに会いに来たのよ?」
「ロッシュ……お前、もしかしてかの───女性の知り合いがいたのか?」
「えっ───いやっ、違っ……くはないですけど!」
あれ? 他の人達は、私が『辺境伯』だと気づいてないのかな?
いや、ありえるか。
城への出入りのために度々顔を会わせていた門番の人はともかく、近衛兵の人達とはあまり顔を会わせていないからね。
『竜騎士の存在』や『リュミエール辺境伯の就任』の話は知っていても、それが目の前の少女と繋がらないのだろう。
まぁあの時のように『冥蟲皇姫』装備じゃなくて、ダンスドレスの『フルール』シリーズを身に着けていればなおさらだ。
……えっ、もしかしてロッシュさんの彼女だと思われてる?
「お嬢さん、彼の様子が気になるのは分かるが、ここはお嬢さんが来るようなところじゃないよ」
「すみません、どうしても気になってしまってつい……」
私に声をかけてきたのは、渋い感じのする中年の騎士だ。訓練の指示を出していたところを見ると、この中では上の方の立場の人なのだろう。
「まぁしかし、お嬢さんが惹かれるのも分かる。何と言っても、我々はラ・ティターニア様よりお認めいただいた選りすぐりの近衛兵団なのだからな」
「さすがです、すごいですわ!」
「ふふ、そうだろう? お嬢さんが安心して暮らせる国を作るのも我々の仕事。ここにいる全員が一騎当千の実力者なのだよ」
「そうなんですね! 素晴らしいですわ♪︎」
「あ、あの、カローナ様……その辺で……」
「うむうむ。せっかくここに来たのだ、特別に訓練の様子を見ていっても良いぞ? 我が国が誇る近衛兵団の実力の高さを知ることができるだろう」
「良いんですか!? ではぜひ───」
「お戯れが過ぎますよ、カローナ様───いえ、カローナ・ドゥ・リュミエール辺境伯殿」
リーダー格の人を私が良い感じに持ち上げていい気分にさせているところに、低く風格のある声が届く。
私を含めその場の全員がハッとした表情で声のした方を見れば、そこには灰色の毛並みに身を包んだ長身イケメンケモ騎士のライカンさんが、呆れた表情を浮かべて立っていた。
私とファルコンが来たことを聞き付け、訓練場にまで足を運んだのだろう。
……ということは。
「本当にカローナがいるではないか。それにファルコンまで」
声の主はライカンの背後。
ステンドグラスのような美しい羽をパタパタと羽ばたかせ宙に浮くのは、妖精女王ラ・ティターニア本人であった。
「「「「「ラ・ティターニア様!?」」」」」
彼女の存在に気づいた近衛兵団の皆は、即座に整列&敬礼だ。ま、そりゃそうか。
まさか訓練の場に女王様本人が来るなんて思いもしないだろう。敬愛する女王様に見られてるとなると……やる気も出るよね!
「よい、楽にせよ」
ティターニアちゃんのその言葉が発せられて数秒、『本人がそう言うなら……』とようやく緊迫した空気が弛緩する。
「と、ところでラ・ティターニア様……先ほどライカン様が仰っていた『カローナ・ドゥ・リュミエール辺境伯』と言うのは───」
「うん? あぁ、お主らはろくに顔を会わせておらんか。そこに居るのは、あの恐るべき堕龍を打倒した竜騎士の一人にして、国防の一角を担う辺境伯の現当主、『カローナ・ドゥ・リュミエール』じゃ。可憐な見た目に騙されるでないぞ」
「ちょっと! ティターニアちゃん、私の事ディスってない!?」
「別に良いじゃろ。実力は認めておるのじゃからな」
ティターニアちゃんの言葉に、近衛兵達の間にざわめきが広がる。私の正体を知っていたロッシュさんと『また場を引っ掻き回して……』と言いたげなファルコンは辟易した表情で、他の近衛兵達は引き気味に一歩後ずさる。
そんなに引かなくていいじゃん……ちょっと悲しい。
「あれ? 俺今竜騎士様に『実力の高さを知ることができる』とか言ってた?」
「竜騎士様、こんな可憐な少女だったのか……」
「ロッシュお前、まさか───」
「いやっ、俺はただの知り合いで……!」
「まだ何も言ってないんだが……怪しいな」
「それで、カローナ様。今日はどうしてここへ?」
「あっ、突然来てごめんねライカンさん。ほら、ロッシュさんって私が推薦したじゃん? だからたまには様子を見ておかないとダメかなって」
「あぁ、なるほど……彼はまだまだ粗削りですが、訓練への打ち込みは鬼気迫るものがあります。私は今後の成長を楽しみにしていますよ」
「だってさ! 期待されてるよロッシュさん!」
「恐縮です……!」
私がバシバシと彼の背中を叩くと、委縮しながらもそう答えるロッシュさん。良いことなんだから胸を張ればいいのに……。
まぁ、女王様と辺境伯と王国最強騎士に囲まれて堂々としている方が無理か。ロッシュさん、まだ入団して少ししか経ってないし。
「とか何とか言って、本当は戦いたいんじゃろ」
「ギクッ」
「お主の性格を知っていれば誰でも分かるわ。まさかここにまで来るとは思っていなかったのじゃが」
「やっぱりさ、ティターニアちゃんも私の事脳筋だと思ってるよね?」
「しかし、確かに我が近衛兵があの竜騎士とどれだけ戦えるかを知る良い機会ではあるか……」
「スルーですか、そうですか……」
顎に手を当てて考える様子を見せたティターニアちゃんは、チラッとロッシュさんの方へと視線を向ける。
……ロッシュさん、なんでティターニアちゃんに見られてビクッと肩を震わせたの? それちょっと失礼じゃない?
「ふむ……よし、ではロッシュよ」
「は……はっ!」
「お主、カローナと試合せよ。遠慮はいらぬ、全力で挑むが良い」
「はっ……えっ?」
ギギギッっとぎこちない動きでこちらを見たロッシュさん。きっとニッコニコの笑顔の私を見て絶望したことだろう。
しかし最高権力者のティターニアちゃんの命令を断ることができるわけもなく、ロッシュさんはこの試合の提案を受けるしかない。彼のこんな表情、『仮面舞踏会』でも見なかったなぁ。
しばらく何とも言えない表情で口元をもにょもにょさせていたロッシュさんは、覚悟を決めたように私に向き直って宣言する。
「ではカローナ様、存分にその胸をお借りさせていただきます……!」
強い光を宿した、戦う者の瞳だ。
私を竜騎士だと知ってなお、勝つつもりでいるのが良い。そういう前向きな精神は好きだ。
だから私も言ってやるのだ。
「……ロッシュさんのエッチ……」
───自分の胸を両手でサッと隠しながら。
「『胸を借りる』ってそういう意味じゃねぇ!!」
急に梯子を外されたロッシュさんの鋭いツッコミが、訓練場に響き渡った。
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