閑話 俺、何かやっちゃいました? 前編
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「これは葛西氏! いよいよこの日が来たでござるな!」
「我々が日の目を見る記念すべき日ですぞ!」
「相変わらずオタクオタクしてんなお前ら……」
日本国内のとある場所。登校した葛西進太郎は早速友人であるオタク達にそんな風に話しかけられていた。
ここは『成城東工科高校』のVRシステム工学科である。
世界中に広く浸透したVRについて深く学ぶことができる、日本国内でも先進的な工業高校なのだ。
普段は勉強に身が入らない生徒達が多いにも関わらず、今日ばかりはやけに熱気に包まれていた。
その理由は───
「これが興奮せずに居られるわけないでござる!」
「本日の実習より、ついに『アネファン』によるVR実践が解禁となるのですぞ!」
こういうことである。
ある日突然彗星のように現れた『アネックス・ファンタジア』は、今までのVRという概念を全て過去の物にするほどの技術の結晶で、『VRシステム工学科』に属する彼らにとって、これ以上の教科書はないのだ。
校長や教育委員会がアネファン運営と掛け合い、こうしてカリキュラムに組み込むことが実現したのだ。
そして、今日がその最初のログインの日となる。『学校の授業』として大手を振ってアネファンをプレイできるという事態に、ほとんどの生徒は狂喜乱舞していた。
進太郎もその一人であった。
進太郎のオタク仲間が『記念すべき日』と叫ぶのは当然、彼らが普段からアネファンに打ち込んでいるからだ。
学校では『オタク』『陰キャ』と罵られる彼らだが、ゲームの中でなら輝ける。そんな期待を込めて興奮してしまうのは、もはや当然と言えた。
「葛西氏は嬉しくないのでござるか?」
「いや、嬉しいけど……俺プロゲーマー目指してるし、システムよりプレイングを学びたいというか……」
「あー、確かに我々の中では葛西氏が一番強いでござるからなぁ」
アネファンをプレイできると言っても、あくまでシステムを学ぶため。授業なのだから、ただプレイして遊ぶだけではないのだ。
ログインしても自由にさせてくれないだろうな……と考えての、進太郎の発言であった。
そんな彼らの様子を見て、突っかかってくる人物が一人。
「おいおい、普段喋らねぇ陰キャどもが騒いでると思ったらゲームの話かよ。キモいんだよお前ら」
「「 」」
突っかかって来たのは、カースト上位の陽キャ、板東であった。
体格がよく威圧感も強い彼は、いわば陰キャの天敵。彼が鼻で笑いながら突っかかってきた途端、進太郎と話していたオタク二人はスン──と黙り混んでしまった。
コミュ障レベル99かお前ら……。
「まぁ現実じゃイキれねぇからな……今日の実習でゲームできるからって鬱陶しいんだよ陰キャども」
「そーそー、いっつも教室の隅っこでこそこそしてるくせに、こういう時だけ超早口になるのキモいって」
もう一人、板東が侍らせていたギャルもここぞとばかりに言いたいことをぶちまける。
……強ち間違ってないから言い返せないんだよな……。
「別に良いだろ……こっちはプロゲーマー目指してやってるんだし、好きにさせてくれよ」
「出たーwwプロゲーマーとか言っちゃう奴ww」
「はぁ?」
「『プロゲーマー目指してるから』とか言ってるけど、所詮陰キャの言い訳だろ? 現実ではボッチの社会不適合者の集まりじゃねぇかww」
「……プロゲーマーなんて今はメジャーな職業だろ?」
「関係ねぇよ。ゲームしか取り柄がないお前が、ちょっと強くなったからプロって言ってるだけだろ? だいたい、アネファンでお前が強いわけがねぇじゃんww」
「何でだよ?」
「アネファンはリアリティが凄い分、現実の能力が実力に直結するんだよ。お前みたいなガリガリ陰キャが強いわけねぇじゃんww」
「なんかその言い方だと、『自分の方が強い』って言ってるようにも聞こえるな……」
「当たり前だろ! 実際お前らなんかワンパンで絞めれるし……前からオタクがうぜぇとは思ってたけど手ぇ出してなかっただけだしよ。何なら俺が殴り方でも教えてやろうか陰キャ君?ww」
「それは宣戦布告ってことでいいな?」
「宣戦布告ww カッコつけちゃってるところがマジオタクだわww いいぜ別に? 今日アネファンにログインしたらお前と決闘してやるよ。アバターの名前教えろ」
「……カサブランカ」
「だっせぇ名前だな。言っとくが俺はレベルカンストだからな? 徹底的にボコってやるよ」
下卑た笑みを浮かべてそう言い残した板東は、満足したかのようにその場から去っていった。
レベルカンストってことは、99ってことか? お前も相当やり込んでるじゃねぇか……いや、レベルキャップ解放してない辺り、エンジョイ勢か?
マジで何のために突っかかってきたんだ? 陽キャの沸点は分からんな本当に……。
ただ、プロゲーマーをバカにされたのはムカついた。こっちは冗談で言ってる訳じゃないのに。
第一、Mr.Qとスターストライプに次いで総合ランキング3位に位置する『カサブランカ』は、むしろ『プロじゃないの!?』と驚かれるぐらいだ。
すでにいくつものプロチームからも連絡貰ってるし。
「か、葛西氏……」
「お前らも言い返せば良かったのに」
「無理でござるよ! あんな一軍に睨まれたらそれだけで息が止まるでござる!」
「典型的な陰キャオタクかよ……」
「それにしても板東氏、葛西氏に決闘を申し込んで良いのだろうか……」
「カサブランカが何者なのか知らない様子でござったな」
「ん~……まぁ、何にせよ決闘を申し込まれたからには手を抜くわけにはいかないな。問題は───」
面白い戦いにはならないだろうな……と、進太郎は溜め息をついた。
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