セレスさんと初顔合わせ
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「ここだよね……」
次の休日、広大な摩天楼の中でも一際高いマンションを麓で、その威容を見上げていた。
スマホを何度確認しても、セレスさんから送られてきた住所はこの場所である。……えっ、こんな高級そうなところに、私一人で乗り込むの?
めちゃくちゃ緊張するんだけど……。
不審者って言われて連行されたりしないよね?
「……ま、いつまでも目の前でうじうじしてても仕方がないし……」
私は意を決してドアを潜り、一階のフロント……っていう表現が正しいのか知らないけど、フロントっぽいところへ。なんだか高級ホテルみたいな雰囲気……
とはいえフロントマンはさすがに居らず、常駐の警備員はいるみたいだけど、基本的に来客は機械で対応のようだ。
私は教えてもらっていた部屋へ、インターホンを鳴らす。すると、AIによる自動音声らしき声で応答があった。
『どのようなご用件でしょうか?』
「はい、カローナです……と伝えていただければわかるかと思います」
『ただいま確認いたします。少々お待ちください』
そうして、自動音声はしばらく停止する。きっとセレスさんに確認してるところなのだろう。セレスさんとは時間も打ち合わせ済みだし、留守とかにはなっていないはず。
『確認が取れました。いらっしゃいませ、カローナ様』
そう音声が流れると同時、ガチャンッと重厚な音を立てて鍵が開き、これまた重厚な玄関の扉が開く。
その扉を抜けた先、球体にカメラのレンズのような眼が付いた自動操縦のドローンが、私の顔の高さに浮いていた。
『どうぞこちらへ』
「えっ、何この超ハイテク機器……」
『私はこの建物の案内を担当しているAIです。セキュリティも兼ねていますので、怪しい動きはしないようにお願いします』
「だ、大丈夫です……!」
ふわふわと空中を移動するドローンAIと会話しながら、私はその後ろを付いていく。廊下を抜け、エレベーターに乗り、一気に最上階へ……。
そうして到着したその場所には、これまた一際豪華なドアが佇んでいた。
『神瀬様、カローナ様がいらっしゃいました』
『すぐに行きますわ!』
ドアの前でドローンAIがやり取りをしてくれたようで、インターホンの向こうから聞こえてくるセレスさんの声。
その数秒後、ドアが開くと、ゲームの中の『セレスさん』と変わらない姿の女性が姿を現した。
「お待ちしておりましたわ、カローナ様! どうぞ中に入ってくださいまし!」
「お、お邪魔しますね……!」
「あなたもありがとうございますわ!」
『お役に立てて何よりです。では、私はこれで』
ドローンAIは私とセレスさんが問題なく邂逅できたことを確認すると、ペコッと頭を下げて次の仕事へと戻っていった。
なんだか可愛いAIだったなぁ。
「さぁさぁ、どうぞこちらへ!」
私はすんごい高級な部屋の様相に気圧されながらも、セレスさんに案内されるままに部屋の中へと脚を踏み入れた。
♢♢♢♢
「改めて……私は『ゴッドセレス』として配信者をしています、神瀬玲子ですわ!」
「カローナこと四条加奈子です。……その、セレスさんってアバターそのままの姿なんですね……」
「そうなのですわ! 私、アバターは現実の姿をトレースしていますもの」
そんな風に嬉しそうに話すセレスさんは、女優とかやっていてもおかしくないほどの美人だ。
背は意外と高め、トレードマークの銀髪縦ロールも健在、白銀のドレスを身に着けていてはち切れんばかりの巨にゅ───胸もそのままだ。
アネファンの中で見慣れた『ゴッドセレス』がそのまま抜け出して来たようで、なんだか不思議な感じだ。
「カローナ様……じゃなくて、加奈子様こそ、ものすごい美少女ですわね……カローナ様は美麗でカッコいい雰囲気ですけど、加奈子様は可憐な感じなのですね。それに配信とは声も変えています?」
「あはは……一応高校生なんで、見た目も声も変えないとクラスメイトにバレちゃいそうだしね……」
「それでも美少女すぎますわよ……もし加奈子様がメディアとかで活動を始めたら、どんなタレントもモデルも涙目ですわね」
「そ、それは言いすぎな気が……」
「お待たせいたしました」
タイミングを見計らって、メイド服に身を包んだ美少女が私とセレスさんへとティーセットを差し出す。
ティーカップではなく、ティーセットである。ソーサーに乗った高級そうなカップと芳醇な香りの紅茶、そして様々なお菓子が乗った三段重ねのアレ……想像する限りの理想的なティータイムのセットが、目の前に置かれたのだった。
「あら、ありがとうございますわ、アリサ」
「ありがとうございます」
「加奈子様、この度は玲子様の我が儘に付き合っていただき、ありがとうございます」
「い、いえ、我が儘なんてそんな……!」
「申し訳ありませんが、しばらくの間玲子様にお付き合いいただきたいと思います。玲子様、加奈子様……いえ、カローナ様が好きすぎて毎日狂っていますので」
「何を言っていますの、アリサ?」
「狂っ───えっ?」
「しかし、この部屋は完全防音で、あれこれしても外にはバレませんのでご心配なく」
無表情のまま両手でグッと拳を作り、ムフーッとしてるセレスさんの専属メイド、アリサさん……。この人もこの人で、なかなか特殊……面白そうな人だ。
「もう! アリサは邪魔しないでくださいまし!」
「これは出過ぎた真似を……すみませんでした。では、失礼いたします」
一礼してその場を去るアリサさんは、そのまま部屋を出る……かと思えば、ドアから顔だけ出してこちらをじっと観察している。
バレバレだけど、なんか可愛いなこの子。
「では加奈子様、改めて登録者数100万人おめでとうございますわ! そして、先日は急に来てしまって申し訳ありませんわ」
「いえいえ、むしろありがとうございます! いつの間にかここまで増えてたんですねぇ……」
「本当に気づいていなかったんですね……」
「色々とクエストが立て続いて、そっちに集中してたのよね」
「カローナ様らしいですわね……さて、早速私からプレゼントをお渡ししたいのですが……」
そう言って差し出してきたのは、一冊の雑誌のようなものだった。それほど厚くはなく、プレゼントと言うには何だか───
という考えも、その中身を見るまでであった。
「えっ、これって……」
「ふふふ、驚いてくださったのであれば用意した甲斐がありましたわ! えぇ、100万人突破にちなんで、100万円程度で私が使っているものと同じモデルのVRチェアのカタログをご用意させていただきましたわ!」
お読みくださってありがとうございます。




