『弱小貴族の三男に生まれた俺が、女王様に認められて専属騎士に!? 超絶ウルトラ立身出世でバカにしてきた奴らを見返します!』作戦、決行!
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「ハァ……」
とある貴族家の館の一室。
窓の外をぼんやりと眺めているロッシュ・ドゥ・ヴァロワは、もう何度目かも分からない溜息を吐いた。
溜息の主な原因は二つ。
一つ目は、2人の兄に対する劣等感から。
ロッシュには、『クロード』と『エクトル』という2人の優秀な兄がいるのだ。
長男のクロードは当然ヴァロワ男爵家の跡継ぎとして、すでに領地を治める貴族の者として頭角を現している。
次男のエクトルは、剣と魔法の両方に才能があった。三男のロッシュが物心ついた時にはすでに冒険者として走り回っており、今ではその界隈の有名人だ。
三男のロッシュはと言うと……剣も魔法も、決して悪いわけではない。生粋の真面目さ故の努力で、普通の衛兵並みの実力はある……と思う。
だが、エクトルほど優秀でもない。凡庸な、突出した部分がない剣だった。
「────あぁ、ダメだ。どうしてもあれが頭から離れない……」
気が付けばいつもぼんやりとしている頭をリセットするように、ガシガシと頭を掻いて独り言ちる。
あれと言うのが、二つ目の理由。
『仮面舞踏会』にて、一緒に踊った彼女とのダンスが、しばらくたった今も頭から離れないのだ。
ロッシュは小さいころの影響で、音楽や絵画、ダンスといった芸術に強く惹かれ、その方面の素養を磨いてきた。
……それは、劣等感を持つ兄二人から目を逸らす意味もあった。
そんなロッシュの様子を見かねたヴァロワ男爵家当主『パトリック・ドゥ・ヴァロワ』から、『仮面舞踏会』の招待状を受け取ったのが、つい先日の事。
ロッシュは、そこで出会ってしまったのだ。
これ以上は無いと断言できるほどの───天上ともいうべき至高のダンスに。
相手は年端もいかない少女。だが、その細部にまで宿る洗練された技巧は、ある種の極限を見たような気分だった。
それから数日経過した現在も、その時のダンスを思い出しては我ながら気持ち悪い笑みを浮かべ───その後の出来事を思い出し、思わず叫びたい気分になる。
確かにあのダンスは最高だったけど……いきなりあの爺さんに代わったんだぜ!? 何が起こったかも分からないし意味も分からない! 何が良くて爺さんと手を取り合ってダンスしないといけないんだよ!
しかもその後、彼女には二度と会えなかったし……今季最後の『仮面舞踏会』でどれだけ探したか……。
齢20歳となったロッシュにとって、気づけば顔も名前も知らない彼女の事を考えているという……ラブコメルートに突入しようとしていた。
妖精女王からの手紙が届いたのは、そんな時だった。
♢♢♢♢
「表を上げよ」
ラ・ティターニア様の一言で、父のパトリックと俺……ロッシュは、片膝をついた状態で顔を上げ、ラ・ティターニア様へと視線を向けた。
玉座からこちらを値踏みするように眺めてくるラ・ティターニア様と、その隣に静かに立つ“女王の剣”ライカンと、“女王の盾”お非~リアだ。
そしてその隣にはもう一人……ドラゴンと共に空を駆け、かの化け物、『堕龍』を打倒した竜騎士様であった。
貴族家当主のパトリックでさえ委縮してしまう状況に、俺は冷や汗を垂らしながら次の言葉を待つ。
「よく来てくれたの、男爵。そしてロッシュよ」
「はっ。いえ、ラ・ティターニア様の要請に応えるのは当然のこと」
恭しくそう応えるパトリック。父親はともかく、優秀な長男や次男ではなく、なぜ俺なんだ……。
「カローナよ、間違いないな?」
「うん、この人で間違いないわ!」
俺達の方を見て、何やら話をしているラ・ティターニア様と竜騎士様。すると、満足そうにコクッと頷いたラ・ティターニア様は、笑みを浮かべてこちらへと視線を向け直す。
「此度お主らをここに呼んだのはな……其方、ロッシュ・ドゥ・ヴァロワを私の専属騎士に、と言う推薦があったからじゃ」
「はぇっ?」
今、間抜けな声を上げたのは誰だ? ……俺か。
えっ、いや……いやいやいやいやっ!
「せ、専属騎士に推薦、ですか?」
「そう言っておるじゃろう」
俺は思わず、失礼だということにも頭が回らずラ・ティターニア様に聞き返してしまう。
『専属騎士』ともなれば、下手な貴族よりも上だと言えるほどの地位だ。それもそのはず、専属とは、女王に信頼され、直接的に側でその身を守ることができるという、最高の誉れである。
そんな専属騎士に、推薦……?
「し、失礼ですがラ・ティターニア様。ロッシュで間違いないのですか? 実力では次男のエクトルの方が上ですが……」
「いや、間違いではない。必要なのは実力ではなく信用なのじゃからな」
「信用、ですか……しかし、私はラ・ティターニア様にお認めいただけることなど、何も……」
「推薦じゃからな。ほれカローナ、説明してやるのじゃ」
「オッケー!」
ラ・ティターニア様に促され、一歩前に出たのは竜騎士様。あの決戦の時のように、金と黒の美しい鎧に身を包んでいる。
「あなたを推薦したのは私なのよ。誠実で、信頼できる人だと思ってね?」
「竜騎士様……ですよね? どこかでお会いしたことが?」
「えっ? あー、あの時は声も変えてたっけ……んんっ! あー、あー……」
何やら怪しげなことを言いながら咳払いする竜騎士様は、耳に着けているイヤリングの装飾を弾き───瞬時に彼女の身を包んだのは……忘れもしない、あのドレスと仮面だった。
「久しぶりだね、お兄さん♪」
「っ!?」
この姿、声……間違いない。
『仮面舞踏会』であのダンスを披露した少女だった。
「えっ……き、君はあの時の……」
「思い出しました? あの時は放置しちゃってホントごめんね! 何も知らないまま放置されて困ったよね」
「いやっ、別にそれは……えっ、でも、病弱だからって……えっ、竜騎士様?」
「あぁ、ごめん、それも嘘だったんだよね……全然病弱でもないし、むしろモンスターをバッタバッタと倒すぐらいに強いけど」
「えぇぇぇぇ……?」
あまりにも突飛な出来事の連続で、俺も父パトリックも混乱したままだ。
「ともかく、じゃ。その節は我が専属秘書のカローナが世話になったと聞いてな、信頼に足る人物だと思って呼んだのじゃ。……今の時勢には珍しく、な……。どうじゃ? 我が騎士団に入らぬか?」
「っ!? もちろん、この命を賭けて務めさせていただきます!」
俺は再び頭を下げ、自身の覚悟を示すようにハッキリとそう宣言する。運良く掴みとった千載一遇のチャンスを逃すバカはいない。
「ふむ……まぁしかし、しばらくはお試しじゃ。私もお主の働きぶりは見たいのでな。カローナのことは信頼しておるが、自分の目で見て判断するとしよう。それで良いな?」
「寛大な心に感謝致します。確実に、陛下の信頼を勝ち取って見せましょう。そして、推薦してくださった竜騎士様にも感謝を……」
「えっ? いや、私は別に推薦しただけだし、そもそも『仮面舞踏会』のお詫びだしね」
「それでもです。男爵家の三男などには、本来回ってくるはずもないチャンス。そのスタートラインに立たせて頂いただけで、私は歓喜に振るえていますよ」
「そう言ってくれるのなら嬉しいけども……なんかこう、ムズムズするわね……それと、改めて……私の名前はカローナよ、よろしく!」
「私はロッシュです。よろしくお願いしますね、カローナ様」
俺はカローナ様が差し出した手を取り、握手を交わす。まさか『仮面舞踏会』での出来事が、これほどまでに人生を変えるとは……奇跡って起こるものなんだなぁ……。
「いい忘れておったが、カローナ・ドゥ・リュミエールは辺境伯当主じゃぞ」
「「 」」
俺と父パトリックはピシッと音が聞こえてきそうなほどに硬直し、白目を向く。『辺境伯』となれば、男爵位など吹けば飛ぶほど格上の……!
お、俺は軽々しく手を……!
「す、すみませんでしたカローナ閣下!」
「いやっ、ちょっ、止めて!?」
ゴッと音を立てて床に頭を打ち付ける俺。
そんな俺を見てオロオロとするカローナ閣下。
悪戯が成功したかのようにカラカラと笑うラ・ティターニア様。
呆れた表情のライカン。
尊いものを眺めるかのような目でラ・ティターニア様を見つめるお非~リア。
そんなカオスな状況が収まるまで、しばらくの時間を要したのだった。
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