未だにあいつの影響が残ってるのか……
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『プレイヤー名: Mr.Q、オウガ、お非~リア、カサブランカ、カローナ、ゴッドセレス、スターストライプ、ダイヤモンド に対し、スペリオルクエスト: 胎動する世界樹 が開始されます』
『陽と陰は、常に生命の泉と共に───』
「っ!?」
突然鳴り響いたアナウンスに、私は思わず肩を跳ねさせて驚く。他のメンバーもそうだったようで、セレスさんはもちろんの事、あまり表情を変えないお非~リアさんも驚きを隠せないようだ。
それもそうか。
まさかPKクランを壊滅させに来たら、スペリオルクエストが発生するなんて……。
しかし、『胎動する世界樹』か……これってさぁ……
「なんだ? そんな驚いた顔をして」
「……あぁ、いや、なんでもない」
私達を訝し気に見つめるアザミナさんを、Mr.Qが苦笑いしながら誤魔化す。説明したところで、クエストの発生はゲームシステムの話だ。NPCには絶対に伝わらないだろう。
「まぁいい……『古の獣』が作り上げた閉ざされし深緑は広大だ。そのどこかにエルフもいるのだろうが……」
「どこからか『古の獣』が封印されていることを知ったプレイヤーが、その力を求めてここに来たってことか……」
「プレイヤーが来たのっていつからなの?」
「三か月以上も前のことだ。奴らはこそこそと我々の集落に出入りをし、そこで伝説についても知ったのだろう」
「それで、あなた達を利用して封印を解こうと……?」
アザミナさんは、神妙な面持ちでコクリと頷く。
「我らを攫って利用したのは、つい最近の話……空が紫色に染まった後だ。……プレイヤーとは、かくも強力なものなのだな。遥か昔の封印故に弱まっていたとはいえ、こうも簡単に破られるとは……あれが『古の獣』だったとしたらな」
「あぁ……アザミナさん、あんな化け物は知らないって言ってたもんね」
「うむ、あれは……我々の伝説に残る『古の獣』とは大きく異なる」
アザミナさんが言うには、身体の大きさは同じぐらいであるものの、見た目が大きく異なるらしい。
ダークエルフの伝説に残る『古の魔物』は、四足歩行の姿で牙や爪、尻尾があり、今でいうオオカミのような姿らしい。しかし頭の上には黄金に輝く角が木の枝のように伸びており、王冠を被っているようにも見える……と。
「あまりにも姿が違いすぎません?」
今回現れたコカパク・トラリは、イノシシのような顔に人間の腕……そもそも六本脚だったし。まるでいろんな生物のパーツをくっつけてできたような……
「あっ」
「カローナちゃん、どうかした?」
「いや、その……コカパク・トラリの歪さというか不完全さって、堕龍に似てるなって……」
「「「「「あっ……」」」」」
あんな色んなものが混ざったようなぐちゃぐちゃな姿、どこかで見たと思ったら……。皆も納得したようで、ハッとした表情で顔を見合わせる。
「おろち、とは……?」
「コカパク・トラリよりもさらに巨大な……それこそ何倍もでかい化け物だよ」
「もしや、少し前に空に現れたあれか?」
「それのことだね。他の生物をくっ付けて出来上がった感じ……堕龍とコカパク・トラリって似てないかな?」
「確かに……」
顎に手を当てて小さく呟いたアザミナさん。
堕龍が生まれたのは『アネックス計画』が始まってしばらく経った後だから、その頃には『古の獣』は封印されているだろう。
つまり、堕龍が封印されている『古の獣』を取り込んでしまった可能性があるということだ。
「でもさ、堕龍って封印されている相手を取り込めるの?」
「それは分からないな……『封印』がどういう状態なのかにもよるし」
「封印の状態、ねぇ……」
「ま、今それを考えてもどうしようもないさ最悪ジョセフさんに投げればいいし」
「私としては、我々を襲ったような奴らが再びここに来るのは勘弁願いたいものなのだが」
「あー、それはたぶん大丈夫だよ。あいつらは多分、もう戦える元手がないからね」
『決闘システム』を使わずに野戦でPKを行ったとき、PKは倒した相手が装備していた武器や防具をそのまま手に入れることができる。
それがPKのメリットでもあるのだが……もしPKがキルされた場合、装備していた物はもちろんの事、インベントリの中までも全てロストするのだ。
つまり、今回私達が倒したPKは、今頃初期装備のみでリスポーンしているだろう。レベルが多少あっても装備なしの戦力低下は無視できないし、かといってPPが高ければNPCに冷遇される。
彼らはもう、ちゃんとした装備を買うことすら難しいだろう。
「ってことで、奴らがまた現れることはないさ。そんなことをするプレイヤーがそもそも稀だしね」
「それは良かった。……しかし、やはり我々は、もうこれ以上人間と関わりたいとは思わない」
「ま、それはそうだよね……」
「此度の事、改めて感謝しよう。しかし、悪いな……回復次第、この地を離れてほしい」
「……仕方がないか。ダークエルフ達との繋がりが得られただけでも良しとしよう……いや、得られたか微妙か……」
「すまぬな」
とはいえ、アザミナさんはこれ以上長く話したくはないと言った様子だ。私達は仕方なく……ほんっと~~~~に渋々、ダークエルフの集落を後にしたのだった。
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