蘇れ 天樹に実る、生命の泉
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コカパク・トラリの再封印に成功した後、私達はダークエルフの集落の中に招かれ———る前に、アビリティの反動やなんかで動けなくなっていたお非~リアさん、カサブランカさん、セレスさんの3人を回収してきた。
身を挺して私達を守った3人なのに、放置されたら可哀そうだからね……。
PK達が彼女達にしてきた所業を考えると仕方がないことだけど、ダークエルフはプレイヤーをかなり敵視している。
けど、
「人間のことは嫌いだが、封印に協力してくれたものに矢を向けるほど、我々は落ちぶれていない。初めに疑ってかかってすまなかったな」
「気にしてないわよ! 経緯を考えれば、仕方がないことだしね」
「何人か倒れた者もいるのだろう? 我が集落で休むと良い」
「助かるわ♪ ……色々と話を聞かせてくれるのよね?」
「我々に分かることであればな」
「ありがとう!」
ダークエルフのリーダーらしき女性から言質を取った私は、案内されるままに大きめのツリーハウスへと向かう。
ここに集まって話をするということなのだろう。
♢♢♢♢
ツリーハウスに集まったのは、私、Mr.Q、スターストライプさん、カサブランカさん、ダイヤモンドさん、セレスさん、お非~リアさん、オウガさんの8人……つまり今回の作戦の首謀者と、ダークエルフのリーダーの女性。
ツリーハウスはそれほど大人数は入れないため、他のメンバーは外で待機してもらっている。
「まずは……我々の集落を守ってくれて感謝する。一族を代表し、私……アザミナが礼を言おう」
「こちらこそ、他のプレイヤーがとんでもないことをやらかしたみたいだ。プレイヤーを代表して俺が謝るよ」
そう言ってMr.Qはアザミナに向かって頭を下げる。プレイヤーを代表して、ね……まあ1位だし、代表にはなるか。
アザミナさんは、僅かに眉をひそめて肩を竦めるのみ。
『誤ったぐらいで許せるものではないけど、それをこの人に言っても仕方がない』と言ったところだろうか。
「さて……色々と聞きたいところだけど、まずは……あの化け物は何なんだ?」
皆が集まり、一息ついたところで、Mr.Qが早速革新へと切り込む。アザミナさんは質問を予想していたのか、小さく頷くとゆっくりと口を開いた。
「古の獣……コカパク・トラリは、この地を古くから守ってきたと言い伝えられている神の一柱なのだ」
その歴史は、『エルフ』という種族が誕生する以前にまで遡る。
原生生物の中でも始原に属する『古の獣』は、強大な力を持つと同時に、その力を周囲の生物に分け与えていったのだ。
その影響により様々なモンスターが生まれ、植物が発生し───そして、『エルフ』と呼ばれる文明種族が生まれたのだった。
この時生まれた『エルフ』は、現在存在するエルフやダークエルフの祖先にあたる種族で、魔法に長け、長寿を誇る種族だ。
エルフは、当時としては高い知識を持ち、文化的な生活を構築していった。そして。自身を生み出した『古の獣』を神として崇めたのだった。
文明を構築していくに従って『エルフ』は他の種族とも交流が増えていき、次第に肌の色が違うエルフも現れ始めた。それが、現在のエルフとダークエルフの分岐点なのだとか。
アザミナさん曰く、エルフとダークエルフの違いは『肌の色』と『思想』のみ。種族としての違いは何もないようだ。
「しかし、文明が起これば戦争も起こる。求めたのは土地か、それとも食料か……ともかく、幾度となく血生臭い戦争が行われてきた」
「まぁそうよね。現実の世界でも数えきれないほど戦争が起こって来たんだもの」
「ただ、命を奪い合う戦争は、『古の獣』の在り方と大きく異なる。その差異が『古の獣』に影響を与えたのだろう……『古の獣』は、徐々に周囲を攻撃し始めたのだ」
『エルフ』という種族そのものを作った神だ。その神を殺すことなどできるはずもない。
「そのころには、我々はエルフとダークエルフに分かれていてな……その二種族間の議論の末、最終的には『古の獣』を封印することに決定した。原初のエルフが残した秘術によってな」
「それが、さっきのアレなのね」
「うむ……しかし、それは問題を先送りにしたに過ぎない。だからこそ、我々はこれから先の戦争を無くし、『古の獣』が元に戻るまで見届けることを誓ったのだ」
命の奪い合いで……どす黒い悪意に蝕まれて正気を失ったのであれば、平和なる善意で満たせば元に戻るのでは、と先祖は考えた。
「そうして我々は、自然と共に平和な文明を築いてきた……はずだった」
「「「っ───」」」
ピリッ───と空気が張り詰めるのが分かった。その原因は、当然アザミナさん。まるで許しがたい敵に出会ったかのように、彼女の目にははっきりと怒気が宿っていた。
「『古の獣』が封印されたのち、エルフは突然。我々ダークエルフを追放しようとしたのだ。『神を封印しては呪われる』とな」
「えっ……」
確かに秘術を用いて封印を施したのはダークエルフであったが、その決定は二種族間の慎重な話し合いの元で行われたことだ。ダークエルフからすれば、後からいちゃもんを付けられたのと同じである。
「それだけであればまだと良かったのだ……その時だった、エルフとダークエルフの子供たちが大勢、不審な死を遂げたのは」
アザミナが喉の奥から絞り出したその声は、晴らされることのない恨みが籠っているようだった。
「当然、ダークエルフは何もしていない。第一ダークエルフの子も亡くなっているのだからな。しかし、エルフは『これが呪いだ』とダークエルフに糾弾し、怒り故か恐怖故か……エルフとダークエルフとの間で戦争が起こった」
「そんな……」
「子供達の死すら、エルフが我々を貶めるための狂行に過ぎない。私が生まれる遥か前の話だ。……それから数えきれないほど年月が経った今も、我々はエルフと一度も交流をしていないのだ」
ふぅ……と小さく息を吐いたアザミナは、怒りの表情を浮かべ、それでいてある種の決意を浮かべる目で言い放つ。
「我々は、エルフを絶対に許さない」
『プレイヤー名: Mr.Q、オウガ、お非~リア、カサブランカ、カローナ、ゴッドセレス、スターストライプ、ダイヤモンド に対し、スペリオルクエスト: 胎動する世界樹 が開始されます』
『陽と陰は、常に生命の泉と共に───』
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