対PKクラン戦 16
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目の前で暴れる私を振り払うように襲い来る二本の腕を避けまくり、デコイを生み出しては眼球に攻撃を集める。
途中、あの超強力ブレスを撃とうとしてきたのを、私のチャージ100%消費【ドゥルガースマッシュ】と、Mr.Qの【グラン・ペネトレイション】を叩き込んで口を閉じさせたら内部で爆発。
それですらダメージはほとんどなかったんだけど、半狂乱になって私を狙ってきたからむしろ楽になった。
回避は得意だからね!
ダークエルフを狙わないのならこっちのもんよ。
ヘイトを稼いではデコイを生み出し、コカパク・トラリの視界を塞ぐこと約10分───ダークエルフの集落の中心で、眩いばかりの光が弾けた。
祭壇の上には小さく、しかしまるで太陽のように煌々と光を放つ棒状の魔力の塊が浮いている。
ダークエルフのリーダーらしきその女性は、その棒状の魔力の塊を掴むと、弓に番えてコカパク・トラリへとその先端を向けたのだ。
弓自体も特殊なものなのだろう。魔法陣の形を歪め、弓の形にしたかのようなその弓は、青白く幻想的な光を放っている。
その威容に恐ろしさを感じたのは、私だけでは無かったようだ。
「ギュロロロロロロロッ!」
私が離脱するのと同時、叫び声を上げたコカパク・トラリ。直後、地面から、そして自分の身体から分離するように無数の土偶を生み出し始めた。
「くっ……これでは狙いが……!」
「私達が射線を開けるまで待てる!?」
「無理だ! せっかく集めた魔力が霧散してしまう!」
「そうよね……まさか、咄嗟にこんな最適な返しをしてくるなんてねっ」
強力無比な『祭壇儀式魔法』も、当たらなければ意味はない。人海戦術のごとく生み出した身代わりで、魔法を避けようというのだ。
……いや、最初から対処を知っていた? としたら、かつての封印も、同じ方法で───
「どうする!? もう一度準備しても良いが、お前達が持たないだろう!?」
「いや───」
私は素早くUIを開き、アビリティのリキャストを確認する。【サードギア】の効果を使いきり、【トップギア】が使用可能! 【メタバース・ビジョン】使用可能! 【スリップストリーム】使用可能!
『禍ツ風纒』の効果量最大! ファルコンとスピカさんの演奏バフもあり!
「最高にお誂え向きじゃない……! 【ファイナルゼーレ】!」
【アイドリングルーティーン】に乗せ、効果を倍増した【ファイナルゼーレ】を使用する。
『禍ツ風纒』の効果で残りHPが1となっている私は、【ファイナルゼーレ】の効果を最大限発揮し、全ステータスが約200%上昇する!
効果時間は僅か30秒……充分よ!
「大丈夫、撃って!」
「ちょっ……!」
Mr.Qから『ネグロ・ラーグルフ』を引ったくった私は、握り心地を確かめながらそう叫ぶ。
「っ!? だがっ……」
「時間がないわよ!」
「ギュロロロロ───」
コカパク・トラリが口にチャージした光は、今までの比ではない。自ら生み出した土偶ごと、辺り一面を吹き飛ばすつもりのようだ。
放たれれば、防ぐ方法はない。
「ええい、信じるぞ……!」
破滅の光を前に半ばやけくそ気味のダークエルフは、弓を引き絞って狙いを定め───
「【窮極の神技───」
私が【アンシェヌマン・カトリエール】を使わなかった理由……それは、単純にアビリティを持っていないからだ。
アビリティがなくても充分なスピードを出せるようになった私は、だったら……と、未来へと投資することにしたのだ。つまり、覚醒システムの利用である。
【アンシェヌマン・カトリエール】に使用された【グリッサード・プレシピテ】、【グラン・カブリオール】、【トゥール・アン・レール】、【グラン・ジュテ】の4つと、【レール・アン・ドゥオール】、【ドゥヴァン・デブーレ】、【クロワゼ・デリエール】、【マキシーフォード】、そして【神技──韋駄天】の9連覚醒!!
身を包む黄金の輝きは、窮極の証。
模倣ではなく……神の現身たる技の極地。
宿すは神速の権化。
アビリティリキャスト一週間にも拘わらず、効果時間はわずか5秒の神の顕現。
しかしその使い手にとっては、永遠にも等しく───
「ふっ……!」
ダークエルフの女性が、祭壇儀式魔法の矢を放つ。
まさに閃光のごとき速度で放たれた魔法の矢は、しかし無数の土偶がコカパク・トラリを守らんと殺到し、その行く先を塞ごうとする。
その直後───
「───【韋駄天】」
───世界が停止した。
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