対PKクラン戦 12
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私達の存在を無視して、一心不乱にある一方向へと歩みを進めるコカパク・トラリ。
メンバーの中で一番足が速い私が、コカパク・トラリの向かう方向に先回りして何があるかを調査する役を引き受けたのだ。
もちろんMr.Q達もただ静観しているわけではない。攻撃も魔法も、デバフも効かないこいつをどうやって止めるのか……それを見極めるのか彼らの仕事だ。
というわけで、【セカンドギア】発動。コカパク・トラリの脇を抜け、私は一目散に森の中を駆け抜けた。
♢♢♢♢
私の今出せるトップスピードで走ること数分、周囲の様子が変わってきた。
所々に樹が伐られた跡だとか、明らかに人の手が入った景色が見られるようになってきたのだ。
そして───
「プレイヤー……じゃないわよね。NPCの集落?」
削った木材で組まれた柵にグルッと周囲を囲まれたその場所には、私が両手を広げても足りないぐらいに太い樹の上に小屋が……いわゆるツリーハウスがいくつも建てられていた。
こんな人里離れた場所を拠点にするプレイヤーなんていないよね、不便だし。
……というか、予想はできる。だって、ティターニアちゃんが言ってたし───
「っ……!?」
ふいに何処からか飛んできた矢を、私は瞬時にバックステップを踏んで避ける。
トッ──っと軽い音ながらも深々と地面に突き刺さったその矢は、なかなかの威力がありそうだ。
矢を避けた私は一息つく暇もなく、感じた殺気に顔を上げ───
樹の影から、ツリーハウスから……僅かに見えるのは褐色の肌と銀の髪。
間違いない、ダークエルフだ。
PK達はダークエルフを利用していたらしいから、PKクランの拠点の近くにダークエルフがいるとは思っていたけど……やっぱりこの集落は、ダークエルフの住処だったようだ。
そんなダークエルフ達は、私に対して鋭い視線を向け、弓に矢を番えていた。
「ちょっ……いきなり殺意が高いわねっ!?」
【バニシング・ステップ】起動!
200%のヘイト値を全て消費し、20体のデコイを生成。直後、雨のように降り注いだ矢がデコイを貫く───が、すでにそこから離脱した私にはダメージはない。
「帰れ人間! 素直に従わぬのなら殺す!」
良く通る鋭い声が、私の耳に届く。殺気は全く収まっておらず、今の台詞は脅しでも何でもないようだ。
「私はあなた達に危害を加えるつもりは───」
「そう言ってお前たち人間は何人もの同胞を連れて行ったのだ! 信用できるわけがないだろう!」
「ここに危険が迫っているのよ! 早く逃げないと───」
「撃てっ!」
「ちょっ……!?」
一人のダークエルフが声を上げ、再び周囲から無数の矢が放たれる。
『ドレッシング・エフェクター』の金を弾き、装備を『ゴールデンアヴィス』シリーズに変更。放たれた矢に向け、私は拳を握る。
「【ドゥルガー・スマッシュ】!」
一撃で12ヒットするアビリティで矢を迎撃!
オレンジ色の灯火から放たれる衝撃波が全ての矢を飲み込み、粉々に消し飛ばした。
「くっ……全員戦闘準備だ! これ以上奴らの好きにさせるな!」
「いやっ、違っ───」
取り着く島も無し。
慌ただしく動き出したダークエルフ達を眺めながら、私は頭を抱える気分だ。
しかし、そんな対応になるのも仕方がないだろう。PK達がダークエルフを騙して、何人も捕えて利用してきたのだから。
またこうして集落に来た私を、『ダークエルフを捕えに来た』と思って迎撃に出るのは当然の対応だった。
少なくとも、私や他のプレイヤーが何を言っても彼らは聞かないだろう。
とりあえずMr.Qへとメッセージを送っておく。ダークエルフの集落があったこと、話は出来なさそうなこと、攻撃で出迎えられたことなど……
Mr.Qからは、『了解。気を付けて』とだけ返信があった。ひとまず、私は私でできることをするしかないかな。
「とにかく私の話を聞いて! ここに『古の獣』が迫っているのよ!」
「古の獣……!?」
「どこでその名を……!」
おっ? 予想外の反応……ダークエルフは『古の獣』について何か知っているのかな?
「あなた達を襲ったプレイヤー達が復活させて、それがここに向かってるのよ!」
「そんな話が信じられるわけがないだろう!」
「そう言ってまた我らの住処を脅かす気なのだろう!」
「信じてはもらえないだろうけど、そいつがここに向かってきているのは事実なのよ! 今は私の仲間が食い止めようとしているけど、全く効かなくて困ってるの!」
「「「…………」」」
それを聞いてもダークエルフ達は弓矢を下ろすことは無く、しかし互いに顔を見合わせながら判断に迷っている様子。
ちょうどその時だった。
「っ……!?」
ズンッ───と、ものすごい衝撃で地面が揺れ、次いでバキバキと多くの樹が倒れる音が響いてくる。
私もダークエルフ達もビクッと肩を震わせ、最悪の事態を想像する。
そして───
「あぁ、そんなっ……」
「ギュロロロロロロロロロロロッ!」
樹々をなぎ倒しながら、徐々に見え始めた禍々しく黒い巨体。地の底から響くその慟哭が、誰かが漏らした絶望の声を飲み込んだ。
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