対PKクラン戦 11
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「あぁ、これは確かに『古の獣』ですね……」
お非~リアさんのその呟きが、妙に私の府に落ちる。
歪に曲がりくねった二本の角。4つの目。下顎から上に向かって伸びる巨大な牙。
猪のような頭部を持ちながらも、6本の腕は人間の腕そのもので……それでいて蜘蛛のように腹這いの姿。
しかも見上げるほどに巨大なその姿は、とてもではないがまともなモンスターには見えない。
「ギュロロロロロロッ!」
物理的衝撃を伴ってるほどの慟哭を上げたコカパク・トラリが、眼下の私達へと視線を向け、一拍───
ガパリと開いた双顎のその奥に、太陽と紛うほどに煌々と輝くエネルギーを生み出した。
「全員退避!」
「いやっ、間に合わ───」
退避を叫んだMr.Qの声も、絶望に染まった誰かの声も掻き消し、ほんの一瞬のチャージで破滅の一撃が放たれる──!
「【ブレイザブリク】っ!」
───切り札を切ったのは、お非~リアさんだった。
相手の巨大さと口の奥に見えた輝きから、『このアビリティでなければならない』という直感だ。
それはかつて、堕龍の【崩天】すら凌いで見せた究極の聖域。何者も通さない、絶対の城壁と化す!
「ギュロロロロロッ!」
「おぉぉぉぉぉぉっ!」
お非~リアさんの聖域と、コカパク・トラリのブレスが拮抗する。
白い衝撃波を辺りに撒き散らしながら、いっそ幻想的な光景作り出していた彼らの拮抗は、徐々に崩れ始める。お非~リアさんが押し返し始めたのだ。
そして───
「ふっ……!」
「ギュラッ!」
ブレスと聖域が消えたのは同時。
バチンッと音を立て、コカパク・トラリの顎がノックバックによって跳ね上がり、それと同時にお非~リアさんが脱力して崩れ落ちたのだった。
【ブレイザブリク】は超絶的な防御力を誇る代わりに、HPやスタミナ、その他のステータスすら消費して防御力を発揮するアビリティだ。
コカパク・トラリのブレスを受けきったことで、お非~リアの全パラメータは1にまで低下している。
実質的な、お非~リアの戦闘不能を示していた。
「っ……貴女達を……守ることはできたようですね……」
「お非~リアさん! 本当に助かったわ!」
「最高にカッコいいですわよ!」
「ンッふ……恐悦至極……!」
私とセレスさんに口々に賞賛されたお非~リアさんは、ニチャッとした笑顔を浮かべるのをギリギリで耐え、何とか取り繕う。
そんな彼はオウガに引きずられて後衛へと下がり、カサブランカと共に大人しくしていることにする。
その隙に地面を疾駆するのは、白と金の鎧に身を包んだMr.Q。右手に白銀の剣を、左手に漆黒の剣を握った彼は、すでに『エクスカリバー』の起動状態だ。
「【グラン・ペネトレイション】!」
白銀の輝きに赤黒いエフェクトを混ぜたその一撃は真っすぐにコカパク・トラリへと突き刺さり———
ギィンッ! と激しい音を立て、Mr.Qのエクスカリバーが弾かれる。
「はっ? ノーダメ!?」
Mr.Qの叫びが響く。
そう、今の一撃で、コカパク・トラリへのダメージは皆無だったのだ。エクスカリバー起動中+逆境状態+貫通攻撃にも拘わらず。
「チッ、検証が要るな……! セレスちゃん!」
「お任せあれ! 【アトミック・マントラ】!」
白銀の杖を振るい、コカパク・トラリの足元から勢いよくマグマが噴き出る。腹這い状態のコカパク・トラリの胴に直撃し、その熱量を撒き散らす。
が、それだけの威力の魔法攻撃に包まれながらも、しかし何の影響もなくコカパク・トラリは無傷だった。
「魔法もダメージ無しですわ!」
「デバフも入らん! キツいぞこれっ!」
セレスさんに続き、ダイヤモンドさんからも泣き言が入った。ダイヤモンドさんは、彼の持つメイン職業『魔導騎士』とサブ職業『輝石占術師』によって、武器に魔法を付与し、一撃入れるだけで複数のデバフを追加する戦法を取っている。
しかしそんな彼の攻撃も、そしてデバフも、コカパク・トラリには通用しなかったのだ。
「ギュロロロロッ!」
「っ!? えっ……?」
ゆっくりと足を振り上げたコカパク・トラリを見て、私も含めて全員が身構える……が、そんな私達には目もくれず、コカパク・トラリは全く別の方向へと顔を向け、足を踏み出した。
「あれ? 私達を無視した?」
「……よく分からんが、こちらを狙ってこないのなら検証を進めるチャンスだ。明らかにギミックボスだからな」
「物理も魔法もデバフも効かないとなると……あとは何ができますの?」
「……いや、そもそも倒せる相手かも分からん。ハクヤガミみたいに、別の方法で戦闘を終了するタイプかもしれないからな」
「それだったらすっごく面倒くさいんだけど……」
ギミックを解かないとダメージが入らない相手なのか、それともMr.Qの言う通り、システム的に倒せない相手なのか……
何にしてもヒントがなさ過ぎて分からないのよねぇ。
ズシンズシンと地面を揺らし、私達とは全く関係のない方向へと歩みを進めるコカパク・トラリ。……どうして私達を狙わない?
「確認は必要だな……カローナちゃん、お願いしていい?」
「何かしら?」
「こいつが俺らを無視して向かってる先、何かあると思わない? 先回りして見てきてくれない?」
「ま、そうなるわよね……いいわよ」
『ドレッシング・エフェクター』の『黒と金』を弾き、全身を『冥蟲皇姫』シリーズに変更。【変転】でバフをかけ、クラウチングスタイルに。
「じゃ、何かあったらメッセージ送るから」
「お願いね」
「オッケーッ!」
地面を蹴り、一気に加速!
一定の方向に進行し続けるコカパク・トラリを追い抜き、私は鬱蒼とした森の中を駆け抜けた。
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