対PKクラン戦 10
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『レイドモンスター: コカパク・トラリ が出現!』
「おい、マジかよ」
私達が視線を向ける先、魔法陣から現れたのは、黒く禍々しい腕だった。それも腕だけで10mはありそうな巨大なもので、表面には何やら意味が分からない文字のような紋様が浮かんでいる。
その腕は次第に、ゆっくりと指を開き───
「全員退避っ!」
Mr.Qの悲鳴じみた叫びにハッと我に返った私達は、慌ててその腕から距離をとる。
直後───地面を削りながら横薙ぎに振り回された腕が、無数のモンスター達を巻き込みながら炸裂した。
ただ力任せのその一撃は、余波だけでも十分すぎる威力で……私はたたらを踏みながらもなんとか体勢を整える。
「セレスさん、大丈夫!?」
「大丈夫です、助かりましたわ!」
AGIが低いセレスさんは逃げ遅れそうだったから、私が蔦を伸ばしてセレスさんを掴み、無理やり退避させたのだ。ちょっと乱暴だったけど……まぁあれに巻き込まれるよりは、ね……。
と、安堵したのも束の間───戦況は、さらに悪化する。
巨大な腕は、巻き込んだモンスターを魔法陣に引きずり込んだのだ。
魔法陣は、まるで吸収でもするかのように大量のモンスターを飲み込み、より大きく、強く光を発生し始める。
「召喚したモンスターを自分で吸収してる……!?」
「っ!? そういうタイプかよめんどくせぇ……! 全員、モンスターをあれに吸収させるな!」
「なるほど、吸収すればするほど、この後出てくるやつが強くなるってわけね……!」
そう、これは謂わば、『コカパク・トラリ』の第一フェーズ。この間の吸収量によって、第二フェーズで出現する本体の強さが変化するのだ。
「本っ当、置き土産にしては酷すぎますわ! 【詠唱省略】、【アトミック・マントラ】!」
「妖仙流剛術───【禍震霆】!」
【恋人】の効果でモンスターを一ヶ所に纏め、そこに極大の雷を叩き込む。
パッと閃光がモンスターを飲み込み、一瞬遅れて轟音が鳴り響く。
妖気ゲージを30%も消費する【禍震霆】は、そこらの雑魚モンスターが耐えられるものではない。
一纏まりにされていた10以上のモンスターをまとめて消し飛ばすことに成功した……が、逆に言えば、それが限界だ。
「ごめんっ! 妖気解放状態が時間切れ!」
「俺も一旦下がる!」
声を上げたのは、私とカサブランカさん。
私は今の【禍震霆】で妖気ゲージが0になり、黒翼が散って『鴉天狗』が解除される。
そしてカサブランカさんは、『アドレナルブラッド・オーバードーズ』の効果が切れ、反動で動けなくなってしまっていた。
「おいおい、ここでカサブランカ離脱はキツいんじゃねぇの!?」
「レグラッド倒したんで許して……」
「もしこの戦いに勝てたら褒めてあげますわっ!」
「わぁい」
ぐったりしたカサブランカさんが、セレスさんに引きずられて後ろへと下げられていく。
軽口を叩きあってるぐらいだから大丈夫だと思うけど……実際、カサブランカさんは抜けるのは結構キツい。
アサシン系職業のダブル特効が強すぎて、アビリティも使わずに一撃必殺だからなぁ……。
まぁでも、彼がいなかったら私も【悪魔】を使ったレグラッドにやられてた可能性もあるし……後でセレスさんと一緒に褒めてあげよう!
『ドレッシング・エフェクター』の金を弾き、『魅惑の恋人』シリーズから、再び『ゴールデンアヴィス』シリーズに変更。
超重量の双頭剣アンフィスバエナを地面に突き立て、獰猛な笑みをモンスターの群れに向ける。
【恋人】の効果は残り1分!
「さぁ、もう一暴れするわよ!」
♢♢♢♢
グルングルンと独楽のようにアンフィスバエナを振り回し、触れたモンスターを一撃で斬り飛ばしていく。
あぁぁぁ、目が回るぅ……。重いから、一度勢いがついたら止まらないんだよねこれ……。
ブレイクダンスとかも全然得意なんだけど、結構目が回るんだよね。三半規管が敏感だからかも。
「カローナちゃん! 【恋人】はあと何秒!?」
っと、変なこと考えてる場合じゃなかった。
「あと10秒!」
「ギリッギリだなぁ!」
「初手で【ダブル・ディール】を使っていなければ、【アポカリプティック・サウンド】で一網打尽でしたのに!」
「仕方ないですよ、ゴッドセレス様。あの時点でスタンピードを読めた者などいませんから」
「でもこれなら間に合うネ!」
「悪は滅びる! それが世の常なのだからな!」
「ハヤト、もっと盛り上げて!」
「名前で呼ぶの止めて!?」
何だかんだと軽口を叩きつつも、やはり上位ランカー達の殲滅力は凄まじい。
ファルコンとスピカさんによって音楽バフが二重にかかっているとはいえ、Mr.Qもダイヤモンドさんもオウガさんも、一撃確殺。
スターストライプさんとセレスさんは、回転率は遅くても複数のモンスターを纏めて消し飛ばしている。
【恋人】でコントロールして無抵抗になったモンスターを、一撃で倒せないメンバーはいない。
「もうアビリティ切れるわよ!」
「OK、【グラウンド・ゼロ】!」
【恋人】が残り1秒。『禍屬之典』効果が切れる直前、一纏まりにしたモンスターの群れにスターストライプさんの【グラウンド・ゼロ】が直撃する。
巻き起こった爆発は容易くモンスターを飲み込み、塵も残さず消し飛ばした。
「さて、どうなる……?」
召喚された全てのモンスターが消え去り、静寂を取り戻す戦場に、Mr.Qの声がやけに木霊した。
【恋人】の時間切れに伴い強制解除された『ネペンテス・シナプス』を身体から分離し、次の戦闘に備える。
全員の視線が黒い巨大な腕に注がれる中───
一拍。
突然数倍もの大きさに魔法陣が巨大化し、そこから吹き出るように現れたのは、5本もの腕だった。
最初から出ていた腕と合わせて計6本の腕は、がっしりと地面を掴み、魔法陣の中から身体を持ち上げる。
歪に曲がりくねった二本の角。
4つの目。
下顎から上に向かって伸びる巨大な牙。
猪のような頭部を持ちながらも、6本の腕は人間の腕そのもので……それでいて蜘蛛のように腹這いの姿。
しかもデカすぎる。
腕一本で10mだ。全身が現れると、見上げるほどに大きい。
「ギュロロロロロロッ!」
どう見てもまともな姿ではないそのモンスターは、身体の奥底に恐怖を植え付けるような叫び声をあげ、こちらを睨み付ける。
「あぁ、これは確かに『古の獣』ですね……」
お非~リアさんのそんな呟きが、はっきりと私の耳に届いた。
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