対PKクラン戦 9
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「くははっ、始まったぜ! 『モンスター・スタンビード』がよぉっ!」
カサブランカさんが放った弾丸に貫かれる直前、レグラッドが自身の命と引き換えにとある魔法を発動する。
黒い煙のようなものが溢れ、そこから滲み出るように現れたのは、数えきれないほど大量のモンスターの姿であった。
「チッ、面倒くさいっ!」
「『モンスター・スタンピード』って何!?」
「あれだよあれ! モンスターが大量発生するやつだよ! こいつら、スタンピードを強制的に発動しやがった!」
ダイヤモンドさんが悪態をつき、私が投げかけた疑問にMr.Qが投げやりに答える。
『モンスター・スタンピード』とは本来、自然的な原因によって大量発生したモンスターが、人々が住む街に向けて進行する現象である。
アネファン内でも数回発生したことがあるらしく、その時は『ゴブリン・キング』や『ネペンテス・アグロ―』の出現によって引き起こされたのだとか。
今となっては『ゴブリン・キング』は比較的簡単に討伐されるし、『ネペンテス・アグロ―』は出現率が低いため、スタンピードは起きていなかったらしいのだけど……
どうやらこのPKクランは、そのスタンピードを強制的に引き起こす方法を知っていたようであった。
そして何より、PKクランのメンバーは、魔法陣から溢れ出たモンスターに狙われていないようであった。
「くはははっ! 確かにこいつはすげえ!」
「こんなことができるなら、確かにこの国の支配ぐらいできそうだぜ!」
「さぁ形勢逆転だぜランカーどもよぉ! これだけの数のモンスターを何とかできるか!?」
『フォレスト・ウルフ』に『メガブルモス』に……様々な種類のモンスターが濁流のように波打ち、迫りくる。
あぁ、そうか……こいつらPKは、最初からこれを狙っていたのか。
大規模なスタンピードを起こして街を混乱に陥れ、その隙にティターニアちゃんに取って代わってこの国を支配するつもりだったのだ。
確かにそう考えると、ウェルブラート辺境伯にも利がある話だ。ティターニアちゃんが失脚すると、王座に座れる可能性も上がるのだから。あの時、ティターニアちゃんが言っていた『武力誘致』とは、このことだったのだろう。
けど、残念———
「いや、残念だったなPKども。モンスターが相手なら、どれだけ数が多くとも敵ではない!」
「Mr.Q、それ私の台詞!」
「あぁ? 何言って———」
「ってことでカローナちゃん!」
「はぁ……【進化の因子——“恋人”】!」
ドクンッ! と大きく鼓動が響き、私の姿が変化していく。髪が緑がかり、脚から根が伸び、頭の上にバラの花が咲く。
自身の種族を『ネペンテス・アグロ―』に変更し、特殊バフ『禍屬之典』効果を付与する。その能力は———
「再逆転……かな?」
「あぁ、くそっ……!」
私の目の前でピタリと動きを止めたモンスター達が、一斉に振り返ってPK達を睨みつける。
【進化の因子——“恋人”】は、モンスターを私の思い通りにコントロールすることを可能にするアビリティだ。細かい動きをさせることは難しいけど、突撃させることは容易い。
「行きなさい」
「「「「「グォォォォォォッ!!」」」」」
「ひっ……!」
「くそがっ! こんなところで……!」
私の号令に従い、モンスター達が一斉に踵を返してPKに襲い掛かる。私はその後ろから悠々と歩みを進め、たった一人で前線を押し上げる。
そして、【恋人】の効果範囲は魔法陣の場所にすら届く。
称するなら、『存在自体が範囲攻撃』とでも言うべきか。
魔法陣は今もなお絶え間なくモンスターを生み出し続けるも、出現した途端に私のコントロール下に置かれ、PKへと襲い掛かる。
「最後の最後でハズレを引いたか———」
誰のものかも分からないその言葉も、モンスターの慟哭に飲まれて消えていく。大量のモンスターの姿に隠れて見えないけど、鎧を砕き肉を引き千切る音が響き、いたるところで赤いダメージエフェクトが弾ける。
数十秒と立たず、PKは誰一人残らず消えていった。
「さ、流石カローナちゃん……」
「捕食させるとか容赦ねぇな……」
「べ、別に私が『捕食しろ』とか命令したわけじゃないからね! 引かないで!?」
いや、まぁ……こんな光景見たら、カサブランカさんやダイヤモンドさんが引くのも分かるけど……。
「って、そんなこと言ってる場合じゃないわよ! あと2分半ぐらいで効果が切れるわ。そうなると、モンスターのコントロールが効かなくなる!」
「OK、2分半で殲滅ね……この数を?」
「やるしかないでしょ!」
私は専用武器『ネペンテス・シナプス』を装備し、能力を解放。『ネペンテス・シナプス』は私の身体と一体となり、無数の蔦となってモンスターへと襲い掛かる。
辺り一面を覆い隠すほどのモンスターの数だけど、私の命令によって動かない状態だ。そして私やセレスさん、スターストライプさんと殲滅戦が得意なプレイヤーが揃っているから、2分強でも何とか———
「「「っ……!?」」」
直後、得も言われぬ強烈な悪寒に、ゾクッと背筋が泡立つ。それを感じたのは私だけではなかったようで、上位ランカーの全員が、一瞬動きを止めてある一点へと視線を向ける。
どす黒い煙を渦のように噴き出す、その魔法陣へと。
溢れ出るプレッシャーは、今までのモンスターの比ではない。空気が軋むほどのプレッシャーに、誰一人として視線を外せない。
その直後だった。
10mはありそうな巨大な黒い腕が、魔法陣から天を衝くように真っすぐ上へと、勢いよく出現したのは。
「おい、マジかよ」
Mr.Qが呟いたその言葉は、絶句する私達の内心を何よりも雄弁に表していた。
『レイドモンスター: コカパク・トラリ が出現!』
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