対PKクラン戦 8
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赤黒い稲妻のようなエフェクトを迸らせ、ニヤリと口元を歪めるカサブランカさんは、さながら某戦闘民族のようにオーラを纏っている。
さらには両手に小太刀を構えて二刀流になっている姿は、厨二病プレイヤーなら垂涎必死。これでランキング3位っていうんだから、世の中って広いよねぇ……。
「くっ……そがっ!」
「うわっ」
「あー……タコだから再生するよね……」
怒りに表情を歪め声を荒げるレグラッドは、その気合と共に切断されたタコ脚を再生した。ズルッ! と一気に生えてきたタコ脚は、どことなく私の【恋人】の蔦の再生と同じ雰囲気を感じる……。
そして、ダメージはかなり受けているにもかかわらず、レグラッドは堪えた様子はない。『パンドラウス・クラーケ』に変化したことによって、その生存能力も身に着けているようだ。
「打ち合わせの時間はない、合わせてくれ!」
「任せて!」
「それと、相手の視線をよく見て———来るぞっ!」
「視線? あっ———」
なるほど、カサブランカさんが言おうとしていることは分かった。つまり、こういうことね?
レグラッドの姿が消えるのと、私が『ドレッシング・エフェクター』の赤を弾くのは同時。全身を『魅惑の恋人』に換装した私は、片手にヴィルトゥオーソを構え即座に後ろにダッシュ!
そして———そこにちょうど現れたレグラッドへと刃を突き出す!
「なっ!?」
転移先を読まれて驚いた?
ふふ……あんた、さては【悪魔】を使い始めてまだ日が浅いな? 転移先を視線で確認してしまう癖が直せてないわよ!
そう、カサブランカさんの言う『視線をよく見て』というのは、その視線の動きによって転移先を読めるということなのだ。
誰よりも視線の動きに気を付けてきた私なのだ……予備動作が分かれば転移なんて怖くない!
「ふんっ……!」
私のヴィルトゥオーソが突き刺さる直前、連続転移によって再び消えたレグラッドは……そっちか!
即座に転移先を読んでそちらへと移動を開始する私を、少し離れたところに現れて怒りの表情で睨みつけるレグラッド。
———すでに彼の視界から、最強の暗殺者が消えていた。
「ぐぁっ!?」
私にも劣らないスピードでレグラッドの背後に回ったカサブランカの小太刀が、レグラッドの胸を貫く。『隠密』と『クリティカル』のダブル特攻に加え、『アドレナルブラッド・オーバードーズ』によってダメージが跳ね上がった一撃は、レグラッドのHPを一気にデッドラインへと押し込む。
まだまだぁ!
一撃離脱でその場から離れるカサブランカさんの代わりに、私は地面を滑るように移動してレグラッドの視界の端へと入り込む。
ミスディレクションの逆だ。
私は、私に視線を集める動きも完全に把握している!
強制的に私へと視線を向けさせられたレグラッドは、地面ギリギリから浮き上がるように【穿旋蜂壊】を放つ私に対し、転移をせずに迎え撃たんとタコ脚を捩じり合わせる。
と言うか、転移できないのよね? 私が地面を這うように移動したことで、レグラッドの視界には狭い範囲しか映っていない。しかも、映っているのは地面ばかりだ。
「おらぁっ!」
「よっ……とっ!」
レグラッドの【穿空拳】を放つ直前、【穿旋蜂壊】をキャンセルして【バニシング・ステップ】を起動!
その場に残したデコイが【穿空拳】に貫かれ、消えていく———
「読めてんだよ!」
「チッ、今のを避けるか……!」
直後、その場から消えたレグラッドは、ギリギリのタイミングで背後からのカサブランカさんの一撃を避けた……といっても、ノーダメージとはいかなかったようだ。
タコ脚を三本斬り落とされながらも、前方へ数m移動したことによって致命傷は避けたようだ。
即座に連続転移によって、カサブランカさんの目の前に現れるレグラッド。そのタコ脚にはアビリティエフェクトを纏っていて……
「させるかぁっ!」
カサブランカさんとレグラッドの間に割って入った私は、カサブランカさんに重ねるように【バニシング・ステップ】を起動!
レグラッドがデコイを貫いた瞬間には、すでに私もカサブランカさんもその場には居ない。
デコイが崩れて消えていくその横、本物の私の姿を捉えたレグラッドは、私の視線誘導によって視線を吸い込まれ———
「ごフッ———」
再びのダブル特攻による一撃がレグラッドの身体を貫き、致命的な一撃を叩き込んだ。
「タコの心臓は3つある……だっけ? これで3つ目だな?」
「くそが……理不尽野郎め……」
「素直に普通のプレイをしていればよかったのにな」
「はっ、クソくらえ———」
ガクンッと脱力してその場に膝をつくレグラッドは、喉から絞り出すようにそんな言葉を吐き出す。それに呼応するように徐々に【悪魔】が解除されていく……
「———俺は俺の矜持に従うだけだ……!」
【悪魔】が解除される直前、転移によってレグラッドが移動した先は、崩れたクラン拠点の跡地。そこに残されていた瓦礫を押しのけ、その下から現れたのは———
「くそっ……!」
両手の小太刀を【ウェポン・リロード】によって二丁拳銃に変更したカサブランカさんが、居合のような速度で発砲する。
「時間稼ぎは十分達成した! これが『髑髏會』が求めた力———」
カサブランカさんの弾丸がレグラッドの頭部を貫くのと、レグラッドが瓦礫の下の魔法陣を起動したのは同時だった。
HPが0になり、消えていくレグラッドのポリゴンですら飲み込んだその魔法陣は、禍々しく輝き煙のようなエフェクトが漏れ出てくる。
数拍———溢れるように生み出され始めたモンスターが、次々と魔法陣から駆け出した。
「くははっ、始まったぜ! 『モンスター・スタンビード』がよぉっ!」
『髑髏會』の誰かが上げたであろうその声は、次々と生み出される大量のモンスターの慟哭に飲み込まれた。
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