対PKクラン戦 7
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【“悪魔”】の効果は、『視認している任意の位置に、身体の全部または一部を転移する』というもの……逆に言えば、視界が塞がれていれば転移ができない状態となる。
『幻影のコート』によって顔を覆われたレグラッドは、転移効果を発動できず……そんな彼の顔面に容赦なく銃口を突きつけるカサブランカは、一切の躊躇いなく、引き金を引いた。
「くっ……!」
ドパァンッ!
2発分の銃声が重なり、一つになって響き渡る。マルズフラッシュを放ちながら打ち出された2発の弾丸は、咄嗟に間に滑り込んだレグラッドのタコ脚を穿つ。
「おい、弾丸が貫通しないとかどんな筋肉してんだよ」
「タコだからなぁ……!」
『幻影のコート』をもう一枚追加。一枚目を振り払ったレグラッドだったが、2枚目を追加されたことで、『まずはこいつから離れるしかない』と認識を改める。
視界がなくとも、パワーとリーチは変わらない……!
「舐めんな。相手の視界から外れたアサシンが遅れをとるかよ」
瞬間───カサブランカの両手に、アビリティエフェクトが迸る!
「なっ……!?」
まず現れたのは、何本もの糸のような暗器。捕えたものを一時的に空中に固定する能力を持つ暗器『エスパース・フィル』が12本、タコ足と両手足の全てを空中に固定する。
「ぐっ───」
直後、暗器『虚脱針』がレグラッドの身体に突き刺さり、強制的に1秒間の『ダウン』状態へと陥れる。たった1秒とはいえ、ダメージに関わらず刺しただけでダウン状態にする『虚脱針』は破格の性能だ。
さらに、直後にカサブランカが取り出した暗器、『タン・エギーユ』が深々とレグラッドの胸に突き刺さる。
細長い付け爪のようなその暗器は、相手のデバフ時間を延長する効果を持つ。その暗器の一撃を受けたレグラッドは、ダウン状態を5秒まで延長される。
ガクンと脱力したレグラッドの身体に突き刺さるのは、暗器『クラスター・ピスケス』。拳大の金属球が5つ、レグラッドの身体にめり込みながらキィィ───……っと小さな音を立てる。
「爆発する時点で暗器とは呼べないかもしれんけど……まぁ【ディア・キャロル】謹製の手榴弾だ。威力は保証するから安心してくれ」
「なっ───」
ドドドドドッ!
空気を震わせるような炸裂音が5つ、地面に小さなクレーターを作るほどの威力を撒き散らしながら爆発した『クラスター・ピスケス』は、レグラッドに無視できないほどのダメージを叩き込んだ。
『エスパース・フィル』を引き千切って吹き飛んだレグラッドは、ダメージエフェクトを散らしながら地面を転がった。
「ちょっ……カサブランカさん強すぎん……?」
私も高速移動しながらレグラッドの隙を狙っていたのだけど……カサブランカさんが暗器の大盤振る舞いであっという間に爆破したから、手を出すタイミングがなかったわ……。
私がカサブランカさんの隣に停止してそう声をかけると、カサブランカさんは特に喜ぶ様子もなく……今度はなにやら、赤い液体が入った注射器が握られている。
「まだまだ……あいつ、『パンドラウス・クラーケ』だろ? 単純なフィジカルスペックの高さに、再生能力もあると考えると……まだ生きてそうだよなぁ」
「まぁそうだと思うけど……その、明らかに配信では映せそうにないヤバそうな注射器はなんなのよ」
「これ? ん~……秘密兵器、かな」
「んぇっ!?」
一度注射器に目を落としたカサブランカさんはそう呟くと、おもむろに自分の首に突き立てた。
いやいや、そんなアグレッシブ注射ある!? 私驚きで久々に変な声出ちゃったよ!
躊躇うことなく中の液体を流し込んだカサブランカさんの身体から赤黒いオーラが弾け、ドクンッと鼓動のような音が一度、私にも聞こえてくる。
「暗器改め、秘薬『アドレナルブラッド・オーバードーズ』。効果は単純───」
「っ……!」
ふいに感じたプレッシャーは背後から。
瞬時に背後に転移してきたレグラッドの奇襲に、それでも私とカサブランカは瞬時に反応する───
って、あれ?
私の速度に、カサブランカさんが追い付いて───
刹那、カサブランカさんの両手がブレて見えなくなり、代わりに切断されたレグラッドのタコ脚が8本、宙を舞う。
「っ───」
私も、レグラッドすらも驚きの声を上げる間もなく、カサブランカさんが握る白刃の小太刀が宙に軌跡を描き……その場から消えたレグラッドに届くことは無く、宙を薙いだ。
その直後だ。
「ゴッ、ふっ……!」
カサブランカさんが横に繰り出した蹴りが、レグラッドの胴に突き刺さった。明らかに人の威力ではない蹴りによって吹き飛んだレグラッドは、再び弾き飛ばされて地面を転がる。
「『アドレナルブラッド・オーバードーズ』は、一定時間あらゆるパラメータを上昇するドーピング薬。3分待たず殺すぜ? PKさんよ」
まるで某戦闘民族のように全身からオーラを吹き出し、両手に小太刀を構えたカサブランカさんが獰猛な笑みを浮かべる。
そんな彼を見た私は───
(ここまで突き抜けた厨二病なら、一周回ってカッコいいかも……?)
そんなくだらないことを考えていたのだった。
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