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アネックス・ファンタジア ~V配信者による、神ゲー攻略配信日記~  作者: 風遊ひばり
第六章 ~我、陽陰相見えて調和を望む~
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対PKクラン戦 4(オウガ、スピカ視点)

評価・ブックマークありがとうございます!


「クソッ、逃げるぞ!」


「Mr.Qの相手とかやってられるか!」



 拠点が崩壊し弾き出されたPK達は、仲間の一人がMr.Qに斬り倒されたのを見て瞬時に負けを覚悟して逃げ出した。


 下っ端の彼らにとっては、『設置型対物理障壁』を一撃で破壊したゴッドセレスも、アビリティでもない斬り降ろしで一人を撃破したMr.Qも、引くほどの脅威だった。



 Mr.Qが暴れ出した位置とは反対側、一目散に逃げだしたPK達の前に、一人のプレイヤーが降り立つ。



「悪党ども、そこまでだ!」



 プレイヤーの名はオウガ。

 こそこそと逃げ出そうとするPKを駆逐すべく現れた、正義の味方(・・・・・)だ。



「なっ、何だっ!?」


「だせぇ台詞吐きやがって!」


「貴様らの罪を精算する時が来たのだ! 行くぞ、【変身】!」



 オウガはカードのようなものを取り出し、腰に装着していた変身ベルトへと差し込む。瞬間、オウガの全身が眩い光に包まれ、ほんの数秒で変身を完了した。


 オーラのようなエフェクトを全身から漲らせ、赤い全身スーツに身を包んだオウガがそこに立っていた。



 オウガの職業ジョブである『マスクドヒーロー』。

 専用装備である『変身ベルト』を起動することで特殊状態『変身』となり、アビリティが使用可能となるのだ。


 また、特殊効果として、変身時のエフェクトや戦闘中の効果音など、仮〇ライダーさながらの戦闘が可能となる。



 そして『変身』中、いくつかの条件を満たすことで強力なバフが付く。相手のPP(ペナルティポイント)が高いほど、『変身』中にロールプレイをするほど……そして、戦闘に参加して(・・・・・・・)いないメンバー(・・・・・・・)が多いほど───つまり、守るべき者が多いほど強くなる。



「って言っても、今は守るべき者はいないんだけどね……」


「何ぼそぼそ言ってやがる!」


「おらっ、死ねぇ!」


「っと、ロールプレイが大事……だぜ!」



 オウガは、何とPKが振り下ろした剣を腕で受け止める。ギィンッ! と、到底人の身体から出る音とは思えない音を響かせ、オウガはPKの剣を弾き返した。



「なっ……!」


「とうっ!」


「ぐっ!?」


 スーツを着ているとはいえ、素手で剣を弾かれるとは思っていなかったPKは、その隙にオウガのパンチを受けて大きく弾かれた。



「さぁ、懺悔の時だ!」


「待っ───」



 オウガのパンチ一発でバランスを崩し、致命的な隙を見せたPKへ、オウガの【バースト・ストライク】が炸裂する。


 驚異的なジャンプで飛び上がり、空中から突き刺すように繰り出されたそのキックは、ライダーキックよろしく謎エネルギーによって加速し、爆発のような音とエフェクトを撒き散らしながらPKを飲み込んだ。



 地面を抉るほどの爆炎を背に、オウガは振り返って声を上げる。



「悪党どもよ、覚悟するがいい……マスクドヒーロー、オウガが相手だ!」



        ♢♢♢♢



 戦場には似合わない、緩やかな旋律がその場に響く。清流のように踊る弓がG線上をなぞり、ヴァルハラに捧ぐハーモニーを奏でていた。


 奏者はスピカとファルコン。

 方向が違えど、ミンストレル系の最上位職業(ジョブ)を持つ二人である。その二人が、とても初めてとは思えないほどのコンビネーションで一つの音楽を作り上げているのだ。



 味方全体にかかるバフの量は、想像を絶するものになっていた。



 そんな中、涼し気な表情で演奏しているスピカは、隣でヴァイオリンを奏でるファルコンに対し、底知れぬ恐怖を覚えていた。


 どう考えても、道理に合わないのだ。



 楽器の扱いは、長く練習を続けるほどに練達していく。自分も、他のプロ奏者もそうだった。何十年も演奏を続け、ようやくトップへと上り詰めた。


 上り詰めるのに、何十年もかかった。

 なのに───


(まだ高校生でしょ? どうして……どうしてこの子は、そんな音が出せるの?)



 たった一つの音で、旋律で、メロディで、肌が泡立つほどに心を揺さぶられる。至るまでに何十年もかかったその境地に、僅か15歳ほどの少年が辿り着いている。


 余裕でプロレベル?

 冗談……そんなレベル、遥かに超えている。


 この子が世に出れば、どんな楽団も血眼になって入団を求めるだろう。億越えの契約金の提示もあるだろう。



 『エトワール・フルーグ』としても、この子の実力を知ったまま逃すことなんてできない。世界に名を轟かせるべき、類まれな天才だ。



(……私もそんな風に生まれたかった。理不尽な才能ね……)



 血反吐を吐いて積み上げてきたものが、一気に崩れ落ちるような感覚。しかし、これほどの演奏を聴けるのならと、どこか心が震える感覚。



 彼の表情を見れば、自然で可愛らしい笑顔だ。『演奏が楽しくて仕方がない』と言わんばかりに。



(……そうね、今は余計なことを考えている暇はない。才能に満ちたこの子を導くのも、先人の役割……だものね)



 ファルコンの音を聞き、それに寄り添うように音を奏でる。ふと彼と目が合い、互いに微笑み、旋律を奏でる。


 今は勝つための演奏を……そして、この天上に至るほどの演奏を、心から楽しもう───



(ま、それはそれとして……終わったらスカウトかしらね)


お読みくださってありがとうございます。

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