対PKクラン戦 3(Mr.Q視点)
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「GO!!」
セレスちゃんの【メテオ・スラスト】によって『髑髏會』が混乱に陥った瞬間、俺は全員に突撃の指示を出す。
と同時に一番槍を務めた俺は、突撃する勢いのまま、まず一人を斬り伏せた。
致命傷を受けて崩れ落ちるPKからさっさと目を離し、バックラーと『ネグロ・ラーグルフ』を装着しながら、ギュルリと眼球だけを動かして周囲の状況を把握。
「よし」
読みを入れて思考を纏めた俺は、奥で弓を構えるPKへと狙いを定め、【アクセルダイブ】を発動する。
【アクセルダイブ】は、移動+斬り降ろしの剣術系アビリティである。移動効果には補正が付くため、普通に走るよりも遥かに速いのだ。
「くっ……」
「来やがれ勇者さんよぉ!」
弓を構えるPKの前に躍り出た、盾を持つPKが一人。俺の剣を受け止め、2対1の状況を作るつもりか?
まぁいいや、読み通りだ。
盾を持つPKが俺の前に現れたと認識した瞬間、俺の身体は自然に動いていた。
「「なっ……!?」」
驚きの声は、俺の下から。
【アクセルダイブ】の剣撃によって地面を叩いた俺は、ノックバック効果によって大きく跳ねて2人の頭上を飛び越えたのだ。
俺の避け方を予想していなかったのだろう。驚いた表情で上を見上げる2人は、極細の武器に気づいていなかった。
「ガッ!?」
「おいっ!」
彼らの頭上を飛び越えた俺が下に垂らしていた糸によって盾を持ったPKを絡め取り、【アヴィス・アラーネア】を発動。
対象を強く縛り上げ、行動不能にするアビリティによって盾を持つPKの自由を奪うと、バランスを崩したそのPKは弓を持つPKに凭れるように倒れ、2人の行動が制限される。
2人が重なるように倒れたその頭上……俺が出しておいた『糸通し』が2人に切っ先を向けており———
「【ロッソ・カンタロス】」
「っ———」
「ぐぁっ!!」
衝撃波を齎す操糸術系アビリティによって加速した『糸通し』が2人の心臓を正確に貫き、HPを0にした。
「次」
一瞬だけ【火魔法】を発動して即キャンセル、一秒間だけ現れる魔法陣の裏で弓を取り出し、奥で魔法を唱えていたPKへと牽制を入れておく。
「食らいやがれ!」
「ふっ……!」
弓を放った隙を突いて剣を振り下ろしてきたPKに対し、その剣を弓で受ける。ほんの少しの拮抗の後、流石に弓では受けきることができず、半ばから真っ二つに斬られてしまった。
「ハッ! 武器を失っ———」
「【アヴィス・アラーネア】」
弓が破壊され、ただの棒と糸になってしまった———そう、弓の弦は糸である。つまり、操糸術系アビリティが使用できる!
破壊された弓の弦がそのPKへと纏わり付き、締め上げ、行動不能にする。抜け出すまでに約十秒……一旦放置か。
「次」
明らかにこちらへと殺気を向けていたPKへと視線を向け、瞬時にインベントリから新しいショートボウを取り出し、最速最短で弓を引き絞る……
ちょっと待って、何その手の動き。片手?
弓じゃない。魔法じゃない。視線、半身、遠距離。
3連続する発砲音。
あーあーあー、ガンスリンガーか!
と頭に過った瞬間には、俺の身体は動き出している。
ガンスリンガーは使用する弾丸それぞれに威力が設定されており、物理系遠距離攻撃が可能なジョブである。
銃を持っているということは、レベルキャップは解放済み。しかも数少ない弾丸をここで切ってくるとは……なかなか良い勝負勘だ。
ただ、銃の扱いに慣れてないな?
銃口の延長線上に矢を置くように3本の弓を放ち……発射された弾丸を矢で撃ち落とす。甘い甘い、放つタイミングと軌道が分かり易すぎる。
撃ち出された弾丸を矢で撃ち落とすという離れ業を見せられてなお、相手の表情は変わらない。
いいぞいいぞ。
じゃあ、次はこうしようか。
弓術系アビリティ【クリムゾンギブリ】のチャージを一瞬チラ見せして相手の銃撃を誘発、即キャンセルして再び矢で弾丸を撃ち落とす。
リボルバーとはまた渋いね……。
相手が使う武器は、おそらく『マルズ・マントラ』。六発充填式のリボルバーだ。
「ほら、使っとけ」
「くっ……!」
弾丸を撃ち落とした直後、連続でさらに矢を2本放つ。
防がなければ致命傷になり得る矢だ。向こうも弾丸を使わざるを得ない。
連続する発砲音。互いの攻撃はどちらとも届かない。
俺はショートボウをインベントリに放り込み『ネグロ・ラーグルフ』を、相手は銃を投げ捨て糸を取り出した。
お次は操糸術?
なかなか楽しめそうだなぁ!
取り出した『ネグロ・ラーグルフ』が、相手の操糸術によって弾かれ、宙を舞って地面に突き刺さる。ただ、剣は囮。右手の剣を弾かれながらも、左手はすでにインベントリから糸を取り出しているのだ。
続いて迫る操糸術を、こちらも操糸術で対応。左手の糸をぶつけつつ右手にも糸を装備、左右の手を振り合い、糸をぶつけ合う。
ただの糸と侮ることなかれ。ステータスとアビリティ仕様によって裏打ちされた操糸術の威力は、剣撃とさほど大差無し。
5m程の距離を空けて向かい合った私と相手との間で、ムチを撃ち合うような炸裂音が何度も響く。当然、操糸術同士のぶつかり合いの音だ。
———きっかけは、別のPKによる横やりだった。
「隙だら———ぐはぁっ!?」
「っ!?」
操糸術を打ち合う俺を隙だらけだと思ったのか、PKの一人が斬りかかってきて……それも視界に入っていた俺は、すぐさま外側から糸をぶつけて迎撃。
ノックバックを受けたそのPKがよろけた先は、先ほどまで糸で打ち合っていた相手の操糸術の軌道上だ。
「ぐべらっ」
潰れたカエルのような声を上げながら俺と操糸術PKの2人から攻撃を受けた横やりPKはダウンし———
「くっ……!」
それに隠れて俺が【ルージュ・カラブローネ】を準備し始めたのを、操糸術PKは目聡く見抜いたようだ。即時に【ルージュ・カラブローネ】を準備し、放ってくる。
【ルージュ・カラブローネ】は貫通攻撃だ。
対処するならば、同じ貫通攻撃をぶつけるしかない。つまり、相手の対応は正解であった。
「けど、ちょっと急いだなぁ?」
「はっ……!?」
相手の【ルージュ・カラブローネ】と同時に発動した俺のアビリティは、【ロッソ・カンタロス】。
俺は【ルージュ・カラブローネ】を0.1秒でキャンセルし、【ロッソ・カンタロス】に切り替えていたのだ。そして、俺の糸の先には『糸通し』が括りつけられている。
そんなに驚くなよ。
これぐらい読み筋であってほしいところだ。
【ルージュ・カラブローネ】と【ロッソ・カンタロス】を比べれば、前者の方が準備時間も硬直も長い。だからこそ、相手がアビリティを放つまでの間に、地面に刺さっていた『糸通し』を回収できたのだ。
いくら貫通攻撃とは言え、糸であることには変わりない。剣をぶつけたらどうなるか。
「当然、切れるよな」
「くそがっ……!」
ビチッ! と音を立てて糸が切断されてアビリティは無効化、相手は硬直に襲われる。この隙を逃す術はない。
前方にダッシュしながら瞬時に糸を引いて右手で剣をキャッチして装備、その勢いを【アクセルダイブ】前方移動に繋げ、数mの間合いを一気に詰める。
相手は硬直が解けた直後、切れた糸を投げ捨てて腰に提げた短剣を抜き、間合いを詰めた俺との衝突に備える。
「いいね」
「少しは口を閉じやがれ……!」
短剣の間合いの数歩外で【アクセルダイブ】をキャンセル、反転して手元を隠しながら範囲攻撃アビリティ【ウェーブスラッシュ】の準備をチラ見せ。
相手は次手の選択肢を迫られるが……ロングソードと短剣では、前者の方が遥かに威力が高い。つまり、アビリティをぶつけ合っても、俺の【ウェーブスラッシュ】は防ぎきれないのだ。
ガードをしようにも、その隙に【アヴィス・アラーネア】を食らうのがオチだ。だからガードの選択はあり得るはずもなく、必然的にアビリティ準備を中断させるしかなくなる。
瞬時にそこまで判断し、間合いを詰めてきたのはさすがの判断力だが……残念、もう詰んでる。
「がっ!?」
踏み込んできた瞬間、その足を斬り飛ばす。俺はアビリティをエサに相手の接近を誘発し、すぐにキャンセルして剣撃を放っていたのだ。
足を失ってダウンする相手へ容赦なく【アヴィス・アラーネア】を発動。糸でグルグル巻きにし、完全に動きを封じる。
「これでチェックメイト……ってね」
「 」
首を斬り裂いてHPを0にする。
それなりには楽しめたけど……まぁ、スターほどの奴はいないか。
いや、元から期待してなかったけどね。
お読みくださってありがとうございます。




