対PKクラン戦 2
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『ドレッシング・エフェクター』のオレンジを指で弾き、呼び出した装備は『ラブリーチャーム』シリーズ。
この装備は、『|猜疑に満ちた仮面舞踏会』より前にヘルメスさんに依頼していたものだ。
『ラブリーチャーム』シリーズは全5部位。
胴装備
『ラブリーチャーム・スイートロゼ』
頭装備
『ラブリーチャーム・ビビアンルージュ』
腕装備
『ラブリーチャーム・ヴェルディグリ』
腰装備
『ラブリーチャーム・スノーホワイト』
脚装備
『ラブリーチャーム・ブーゲンビリア』
そして、魔法のステッキと言う名の打撃用棍棒、『ラブリーチャーム・マジカル☆ステッキ』。
"恋人"や黄金蝦蛄の素材を贅沢に使ったこの装備は、見た目以上に凶悪な性能を内包する。
その見た目というのが、淡いロゼ色を基調としたフリルのついたドレス、短めのフレアスカート、肘まで覆うオペラグローブ、花の髪飾りに腰の後ろに靡く大きなリボン。
そして先端にハート型の宝石があしらわれたステッキを持つ姿はまさに───
「魔法少女てww」
「うっさい! 目の前の敵に集中しろ!」
どこからか聞こえてきたMr.Qのふざけた笑い声に、私は思わずツッコむ。
いいでしょ魔法少女。
好きなんだよ昔から。
まぁ、この衣装は完全にヘルメスさんの趣味で作ってるものだけどね。私がこの衣装を着て戦っている姿を想像して、ヘルメスさんも閑古鳥の鳴くカフェで眼鏡をクイッとして喜んでいるだろう。
「ふざけやがって!」
どこか弛緩した空気を纏う私を見て頭に血が上ったのか、PKの一人が私に向けて剣を振りかぶった。
「【バニシング・ステップ】!」
「なっ……!?」
私はその場にデコイを残し、離脱。実体のないデコイに斬りかかって手応えなどなく、PKは勢い余って前のめりにバランスを崩している。
ほんの数秒の隙も、私には大きすぎる隙だ!
「【セカンドギア】!」
白い煙のようなエフェクトが脚から漏れだし、私のAGIはさらに上昇する。さらに『禍ツ風纏』を起動してステータスを上げつつ、【次元的機動】の機動力で一気に背後を取る。
そして───
「ラブリー☆ケツバット!」
「ゴッ、ハッ!?」
「魔法じゃねぇのかよ!?」
前のめりになっているPKのお尻を、【極量閃舞】でしばき倒す。分身して見えるほどのスピードで、僅かな時間に何発もの打撃を受けたPKは、ダメージエフェクトを弾けさせながら吹き飛んだ。
「私、魔法は【火魔法】一つしか覚えてないんだよね」
「魔法少女じゃなくて物理少女じゃねぇか!」
「おお、剣撃よりも鋭いツッコミね」
「ぐあっ!?」
横凪ぎに振られた剣の下を潜り、鳩尾をステッキ……と言うには大きい棍棒で突き上げる。衝撃が背中まで突き抜け、身体が硬直したPKのその身体に───
「【変転──ハート・トゥ・ライフ】」
「何っ……!?」
私がステッキを突き込んだ部分にバラの紋様が浮かび上がり、そこから伸びた黒い蔦の模様が、そのPKの身体に刻まれていく。
【変転──ハート・トゥ・ライフ】……ヘイト値を『誘惑の種』に変換し、攻撃を与えた相手に打ち込むことができる。
打ち込まれた『誘惑の種』はすぐに発芽し、時間経過ごとにそのHPを吸い取っていくのだ。
吸い取ったHPは私へと還元され、『禍ツ風纏』で削れたHPを補填していくのだ。うーん、一方的に搾取する鬼畜なループ……。
「くっ……デバフか……!」
継続的にHPが削れていくことに気が付いたPKは、慌ててインベントリから状態異常ポーションを取り出している。
【変転──ハート・トゥ・ライフ】は打ち込むのが簡単な分、解除も簡単だ。このPKの予想通り、状態異常ポーションですぐに治る。
「でも、私の前でそれは隙だらけじゃない?」
「っ───!」
インベントリを開き、状態異常ポーションを取り出し、飲む。隙だらけのその間に私は十以上の打撃を叩き込み、PKをノックバックで突き飛ばした。
地面を転がるPKの身体には無数のバラの紋様が浮かび、瞬時に蔦が伸びて全身を包み込んでいく。
そして、全身が見えなくなった頃———PKはプレイヤーサイズの大きな一輪のバラに変わり果てていた。
それだけでは終わらない。
そのバラは周囲に『誘惑の種』をばら蒔き、さらに周囲のプレイヤーに種を植え付け始めたのだ。
これこそが、対群生装備たる由縁。"恋人"の誘惑は次々と感染し、ついには辺り一面を飲み込むのだ。
「プレイヤーを設置型オブジェクトにするとかクソかよっ!?」
「あれに近づくなよ!」
「【バニシング・ステップ】!」
「っ!? また分身しやがって!」
「本物どれだ!?」
横から飛来した矢を、スウェーバックで回避。直後に【バニシング・ステップ】でヘイト値を全消費して無数のデコイを撒き散らした。
どれも本物に見えるデコイだ。遠目に囲んでいるアーチャーやウィザードには見分けがつかず、とにかくすべてのデコイに攻撃を撃ちこんでいる。
けど、残念。
【インビジブル・ステップ】を発動した私は、もうその場には居ない……!
「ぐぁっ!」
「なんだ!?」
「こいつ、いつの間にここまで……!」
声が上がったのは、後衛職のPKが集まっていた群衆のど真ん中。【インビジブル・ステップ】でヘイト値を0に固定したまま、私はPKの群れの中に突っ込んだのだ。
そのど真ん中で【極量閃舞】を発動し、周囲にいる無数のPKを殴り飛ばす。
「なんだこれっ!?」
「デバフか!」
「くそっ……!」
その全員に『誘惑の種』を植え付け、HPドレインを開始。そのHPを元手に『禍ツ風纏』がさらに効力を増し───
“恋人”は誘惑の花。
その花に魅入られたものは、命を賭して全てを捧げるのだ───
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