ミューロンちゃん久しぶり!
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翌日、私は『アーカイブ』のヘリに乗って【ディア・キャロル】に到着。レベルキャップの解放を目指して来た人達が大勢居て、【ディア・キャロル】の中は喧騒に包まれていた。
「えっ、カローナちゃん!?」
「マジ!? 本物?」
「あはは、こんにちは♪︎」
中には私のファンもいてくれたみたいで、そんな風に挨拶を交わす。
「やべっ、もしかして配信中だったり……」
「ううん、今は配信とかしてないわ。普通にプライベートでプレイしてるだけよ?」
「なら良かった……配信の邪魔になりたくないし」
「気遣ってくれてありがとう! 皆さんはレベルキャップ解放ですか?」
「そうそう! ようやくこの日が来たって感じで……」
「カローナちゃんはもうレベル100越えてるよね? なんでまたここに……」
「ちょっとミューロンちゃんにお願い事があってねぇ……ジョセフさんに頼んで無理矢理連れてきてもらったのよ」
「ミューロンちゃんって……お願い聞いてくれる感じだったっけ?」
「いや、淡々と作業をするだけの冷たい感じだったような……」
「そう? 人間味があって可愛いと思うけど……」
「人間味?」
「いや……全然?」
「えっ?」
「えっ?」
『では次のグループの方───おや?』
どうにも噛み合わない会話を続けていると、丁度のタイミングでミューロンの声が響く。
先頭の方に並んでいた数人のプレイヤーが『いよいよ自分の番か』と色めき立ち、そこでアナウンスが止まり首を傾げる。
あっ、これもしかして、私のせいかな?
『これはカローナ様、お久しぶりです。あの時はお世話になりました』
やっぱり私のせいだったか……。
私がここに来たことで、ミューロンはたくさんのプレイヤーが居るなかで私だけを狙い撃ちして話しかけてきたのだ。
当然、その場にいる多くのプレイヤー達の視線が私に集まる。
ご、ごめんね……なるべく早めに終わらせるから……。
「ううん、それより、あなたが元気そうで何よりだわ」
『ありがとうございます』
「ミューロンちゃんが声質が変わった……?」
「何この知り合いと話してる感じの距離感……」
「ミューロンちゃん、仕事とプライベートで性格が変わるタイプだったのか……」
「さっきまでずっと淡々と話すだけだったもんな」
私とミューロンの会話を聞いている他のプレイヤーから、そんな声が聞こえてくる。どうも、私と他のプレイヤーでは対応が違うようだ。
『今日はどうしてここへ?』
「ちょっとお願い事があって……」
『ぜひ仰ってください。恩人のあなたの願いであれば、可能な限り応えましょう』
「本当!? すっごい助かる! じゃあそのお願い事なんだけど……」
そこまで言って、私は口をつぐんで周囲を見回す。『武器の設計図が欲しい』なんて、他のプレイヤーの前で言ったらどれだけの影響が出るか……
そんな風に思考を巡らせる私が再び口を開くよりも早く、察しの良い高性能AIは、私の言葉を代弁してくれた。
『人前で言いにくいことでしたら、個室を用意しましょう。どうぞこちらへ』
「おっ……?」
視界の端に、ナビのような矢印が表示される。
えっ……なんかミューロンちゃん、私の視界に干渉できるの……?
そんな不思議な現象に少しだけ怖くなりつつ、私は案内されるままに【ディア・キャロル】の奥へと歩みを進めることにした。
というわけで、ミューロンちゃんの案内で私は別室にやってきた。一人だけVIP待遇ですまんね、ホント。
『カローナ様、お願いとはなんでしょう?』
「いくつかあるんだけど、順番に聞いていい?」
『えぇ、どうぞ』
「まず一つ目。この船内には銃が存在してたよね? ってことは、設計図もあったりしない? もしくは現物でも……」
『あるにはありますが……既存の物は、対原生生物用にできておりません。つまり、貴女にとってはかなり弱い物かと』
「あー、やっぱりそうなんだ……じゃあ対原生生物用の物は?」
『そちらは製造しておりません』
「えっ、なんで!?」
『ファンタジアという半永久的リソースがあるのに、わざわざ資源を消費する兵器を作る意味がないからです。原生生物にも有効な威力を出そうとするなら、消費する資源は通常とは桁違いに増えますから』
「あぁ、なるほど……」
それもそうか……かつての人類は、地球の限界を悟って脱出し、この星へと移住して来たのだ。限られた資源を、そんなもののために消費するわけにはいかないだろう。
何より、『ファンタジア』は無尽蔵に産み出すことができるのだから。
『しかし、対原生生物を想定した兵器の設計図は存在しています。かつて研究されていたものの、ファンタジアの登場で淘汰された物ですが……』
「マジ? それって貰えたりは……」
『……良いでしょう。そんなもので貴女への恩が返すことができるとは思っていませんが、貴女がそれを望むなら。あとでお渡しします』
「ミューロンちゃん最高!」
『私への望みは他にもあるのですよね? 仰ってください』
「じゃあ遠慮なく……私はそのときに応じて全身の装備を換えて戦うんだけど、一瞬で装備を換えられるアイテムとかない?」
『……つまり、アイリスによるインターフェースの操作を介さず、自動で装備を変更する装置が欲しい……ということですね?』
「よく分からないけど多分そう! ……やっぱり無理?」
『可能ですよ』
マジで!?
『分かりやすく言えば、『装備を変更する』というショートカットキーを作ればよろしいのでしょう。思考入力の変わりに、特定の動作やボタンなどで設定された装備を呼び出すだけであれば、今すぐにでも作れるかと思います』
「いや、マジか。ミューロンちゃんの技術ヤバくない……?」
『世界最高の科学者が作り上げた、スーパーAIですから』
「あんた最高よ、ホント!」
『お誉めに預かり光栄です……しかしながら、より良いものを作るには、貴女のデータが不足しています』
「データ? ……ってことは……」
『はい。代わりに、存分に戦闘データを取らせてくださいね?』
「……断ることは?」
『であれば、データを渡さないだけです』
くそぅっ!
今の話の感じだと『恩返し』的な感じじゃなかったの!?
「……あっ、そうそう、もう一つ聞こうと思って……」
私はインベントリから、とあるものを取り出し、ミューロンちゃんへと見せる。
『それは……?』
「ボレちゃん……旋嵐龍ボレアバラムの尻尾の先」
私が取り出したものは、千切られてしばらく経ってもなお曇りのない翡翠の輝きを放つ、紛うことなきドラゴンの尻尾であった。
以前カグラ様に『禍ツ風纒』を作るために使用したものの、それはほんの一部だけ。
大部分……残りの8割ほどは、こうして私が持っていたのだ。
「これを加工できる人がいなくて……ミューロンちゃんならできるんじゃないかって思ったんだけど……どうかな?」
『……残念ですが、私では無理です』
「ミューロンちゃんの技術力でも無理なの……?」
『加工技術の問題ではないのです。それほどの素材ともなれば、並大抵の相手など寄せ付けないほどのエネルギーを持っています。扱えるのは、ボレアバラムなるドラゴンが認めた相手のみ。私では、その資格がありません』
「なるほど……じゃあダメかぁ……」
再び、ボレちゃんの尻尾を丁寧にしまっておく。ミューロンちゃんでも無理だとなれば、もう頼れる相手が……。
「いや……」
カグラ様は普通に扱えていたような……いよいよカグラ様がどれ程ヤバいのか、全く見えなくなってきたわね……。
『お役に立てず、申し訳ありません』
「ううん、全然いいわよ! すぐに使いたいわけじゃないし、真価を発揮させられる鍛冶師をゆっくり探すわね! ってことで、そろそろ戦闘データ取りにいきましょうか」
『ありがとうございます。ではこちらへ……』
お読みくださってありがとうございます。




