閑話 学校祭に向けて
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ひとまずジョセフさんに頼んでみたところ、明日には【ディア・キャロル】に連れて行ってくれるとのこと。
スペリオルクエスト『親愛なる————へ』をクリアした後、『アーカイブ』はそのストーリーをまとめ、一般公開した。
それと同時に、レベルキャップ開放の需要はかなり高いため、ヘリを使ってプレイヤーを【ディア・キャロル】へと送り届けるシャトルバス的な活動を続けているのだ。
予約はかなり先まで埋まっているとか。そこに無理矢理捻じ込んでくれるとは……第一発見者の特権はありがたいね、ホント。
そんなわけで、私は学校に居るにも拘わらず、『今日はやることないなぁ』と考えていたり……
「じゃあ、今から体育祭の種目決めやるぞー」
「「「ついにこの時が来たか……!」」」
担任の先生の掛け声に反応し、やる気満々の男子達が活気づく。夏休みも終わり、学校祭の時期が近付いてきているのだ。
文化祭、体育祭と二日間にわたって開催される学校祭は、一年の中でも一大イベントだ。文化祭でのクラス企画と体育祭でそれぞれ順位が決まるため、優勝を目指すクラスごとの仁義なき戦いが毎年繰り広げられるのだ。
私のクラスも例に漏れず、学校祭ガチ勢であった。
「うし、じゃあお前らの好きに決めてくれ」
「よーし、じゃあ皆に聞いてくぞー」
生徒に丸投げした担任に代わって、クラスの陽キャ男子の一人が指揮を執り始める。
「競技の中でポイントが高いのは『100m走』と『400mリレー』……男女どっちも一位ならかなり有利になるな」
「男子は陸上部がいるからいいとして、女子は速い人いる?」
「加奈子ちゃんって100mだと何秒ぐらい?」
「私? ん~……11秒台は出せそうだけど」
「よし、勝った」
「はっや!? えっ、最強じゃん?」
「いやいや、流石に世界記録よりは全然遅いからね」
「なんで一人だけ世界と戦ってんの?」
「そのまま女子400mリレーもいけない?」
「多分行けると思うけど……他の競技が厳しくなるわよ?」
「いや、ポイント高い二つで1位確定なのはでかい。じゃあ次は騎馬戦……」
「騎馬戦は俺らに任せな!」
「おっ、お前らは……ラグビー部!」
「障害物競走———」
「俺の出番か?」
「お前は……カバディ部!」
「台風の目———」
「フッ……俺達の出番か……」
「お前らは……アルティメット部! カッコいい!」
「ムカデ競争———」
「ついに力を解放する時が……!」
「お前は……漫画研究会! 期待できね~っ!」
こうして次々と出場競技が決まっていくのだった……なんかこの学校、珍しい部活多くない?
♢♢♢♢
「お姉ちゃん」
「あれ、隼翔? 珍しいじゃん、こっちに来るなんて」
帰りのHRが終わった後、部活に行く準備をしていると、私に話しかけてきたのは弟の隼翔だった。
「あー、弟君じゃん! やっほー♪」
「お姉さんに会いに来たの? それとも、うちらだったり?」
「お、お姉ちゃんに用があって来たんです!」
そして、速攻でうららちゃん達に絡まれる隼翔。
なんで満更でもなさそうな顔してるのかしら?
あんたは萌香ちゃんと結婚しなさい!
これは私が発破かけるしかないかな……。
「で、どうしたの? わざわざ2年生の教室まで来て」
「お姉ちゃんにお願いがあるんだけど……文化祭の日って時間ある?」
「えっ、なに? 私と一緒に文化祭回りたいの?」
「えっ? それは嫌だけど?」
「そこまでハッキリ拒絶されると傷つくって知らない?」
「だってシスコンじゃないし……」
「最近私の弟が反抗期な件…………冗談はさておき、私あんまり時間無いわよ?」
クラス企画でやる『カレー屋』のシフトもあるし、ダンス部でのステージ発表もある。それを理由に『一緒に回ってほしい』という誘いを断れてはいるものの、なかなか忙しいのだ。
ということを説明したのだが……
「どうしてもお姉ちゃんじゃなきゃ無理で……実は、オーケストラ部のステージ発表でバイオリンやってほしいなって……」
「そういえば隼翔ってオケ部だったわね……バイオリンならあんたが居れば十分じゃない。というか、他の部員は?」
「それが十分じゃないから頼んでるんだよ……」
「んん? ちょっと話をずらしたわねぇ……何か隠してない? 正直に言ってみ?」
「……発表予定の曲のバイオリンをやるには、他の部員の技量が足りてない」
「わーお、ド直球」
「お姉ちゃんが言えって言ったんじゃん!」
「そこまでハッキリ言うとは思わないじゃない……そりゃ隼翔と比べたらダメでしょ」
「ついてこれるの、お姉ちゃんぐらいでしょ? だからお願いしてるんだって」
「まぁそこまで言うならやるけど……後でオケ部の人達に恨まれたりしない?」
「僕から言っておくから大丈夫……だと思う」
「ま、文句言われたら全部隼翔のせいにするわね」
こうして、私は急遽オーケストラ部の助っ人としてステージに立つことになった。
昔使ってたドレスとか引っ張り出さないとダメかな……今さら着れるかなぁ。
「というわけで、上手くいきました」
「ナイスだ隼翔!」
僕から『加奈子が了承してくれた』という知らせを受けたオーケストラ部の先輩達は、揃って歓喜の声を上げた。
というのも、僕がお姉ちゃんにした説明は半分嘘で、実際は『加奈子も楽器を演奏できる』と知ったオーケストラ部の先輩達が『何とかして一緒に演奏したい』と言い出したのがきっかけだ。
弟なら頼みやすいだろという理由で、今日いきなり頼みに行かされたのだった。
こうして四条姉弟による夢の共演が実現した訳なのだが……
(観客みたいな気持ちでいるからダメなんだよなぁ……)
加奈子に言った、『他の部員の技量が足りない』の部分が本当であることは当然明かせるわけもなく、そっと心の奥にしまっておく隼翔であった。
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