お前らは一線を越えた……!
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比較的小さな会議室に集まったのは、ティターニアちゃんはもちろん、《専属秘書》の私と、《女王の盾》お非~リアさん。
その他数人の、ティターニアちゃんが信頼を置く国政の重役達だ。しかし、ライカンさんの姿は無い。
物々しい雰囲気の中、ティターニアちゃんの第一声は───
「まず、この場での話は全て、絶対に他言無用じゃ。たとえ自身が信頼する相手であっても話してはならん」
箝口令だった。
それほどの内容なのだろう……重役達も、ゴクリと唾を飲んでティターニアちゃんの次の言葉を待つ。
「結論から言うと───奴は、ウェルブラート辺境伯は死罪。罪状は、大量殺人、禁術の行使、そして武力誘致……他の者と共謀し、国家転覆を謀った罪じゃ」
「「……はっ?」」
今、間抜けな声を出したのは誰?
……私か。
私とお非~リアさんの、プレイヤー2人だった。
他の人達は、そのあまりにも予想外の大罪に、声すら出せず唖然としていた。
そりゃそうでしょ。
大量殺人?
禁術の行使?
挙げ句の果てに、国家転覆?
『仮面舞踏会』で私に愛想よくしていた裏で、そこまでの大罪を犯してたっていうの?
「順に説明しよう。事の始まりは、およそ一年前じゃ───」
およそ一年前、数人のプレイヤーがダークエルフの集落を発見したところから始まる。
そのプレイヤーはダークエルフの存在を秘匿し、以降、今現在に至ってもダークエルフの集落の場所は判明していない。
「待った。ダークエルフって? エルフとは違うの? しかも、プレイヤーが関わっているの?」
「話の途中で止めるでないわ、カローナ……」
「ご、ごめん……でも気になっちゃって」
「まぁ良い。エルフ族とダークエルフ族は別物じゃぞ。元々は同じ祖先を持つ一族であったが、遥か昔に分岐し、それから交わることなく各々文明を営んでおる……という文献が残されておる」
「なるほどね……」
ってことは、そのプレイヤーというのは、ミカツキちゃんとは別人か……。
ま、それもそうか。
ミカツキちゃんがアネファンを始めたのは1、2ヶ月前って言ってたしね。
「そして、そのプレイヤーがダークエルフと関わっていく中で、彼らが住む地の何処かに、『古の獣』なるモンスターが眠っていることが判明したらしい」
「封印されてる系のモンスターかしら」
「だとしたら、まさか……」
「うむ、当然其奴らは、その『古の獣』の復活を目論んだ。ただ、プレイヤーの力だけでは上手くはいかなかった」
「そこでウェルブラート辺境伯ってことね……」
「そうじゃ。話を持ちかけられたウェルブラート辺境伯もまた、『古の獣』の力を欲した。プレイヤー達に様々な支援を行う代わりに、希少な素材等を融通して貰っていたようじゃな」
「それが他の貴族の人達にも波及して、ユーセスティア男爵も素材を持ってたってことね」
なるほどね……プレイヤーの中に、NPCと協力して何らかのクエストを進めようとしていた人がいたってことだ。
それ自体は悪いことではない。
問題は……その内容だ。
「事が大きく動いたのは、堕龍の討伐に伴う天蓋の崩壊……やはり、環境的にも精神的にも、モンスターと最も近い環境に身を置くウェルブラート辺境伯は、新たな脅威の出現を大いに恐れたのじゃ」
脅威に立ち向かうには、更なる力が必要となる。ウェルブラート辺境伯は、プレイヤーと共謀し、『古の獣』の復活を急いだ。
「復活させる方法を知っていたと?」
「いや、それは不明じゃったが……魂の復活じゃ、行き着く先はろくでもない魔術であり───先ほど皆に伝えた奴の罪状、『大量殺人』と『禁術の行使』に繋がる」
「あぁ───」
最悪だ。
『封印の解除』だとしても『魂の復活』だとしても、相応の対価が必要となる。
その対価というのはつまり、ダークエルフの───
「エルフやダークエルフは、余程の事態がない限り、他の種族との交流を極端に嫌う。故に私も彼らの集落の位置を把握しておらず、連絡手段もないままじゃった……」
「そして、その『余程の事態』に陥った時には、外部に助けを求めることもできず……ってことなのね」
「……うむ、エルフやダークエルフは存在を知っておきながら、把握しようとしなかった私のミスじゃ」
「…………」
息を限界まで吐き出し、その後限界まで吸い込む。スッと頭から血が降りて思考がクリアになり、集中力が劇的に上がる。
私が気持ちを落ち着けるために行う、いつものルーティーンだ。
怒りでどうにかなりそうな気持ちを沈め、ひとまず現状把握に努めることにする。
私はあまり人のプレイスタイルに文句をつけたくはないけど……これはダメだろう。すでに多くのNPCが被害を受けていたのだ。
一線を遥かに越えている。
「辺境伯に加担した幾人かの者には、すでにライカンが対処に向かっておる」
「それでライカンさんがいなかったのね……じゃあ、あとは関わったプレイヤーが問題ね」
「そのプレイヤーは誰なのか分かっているのですか?」
「辺境伯曰く、『髑髏會』と名乗ったらしい」
「っ!?」
「あぁ……くそっ!」
珍しく怒りを露にしたお非~リアさんが悪態をつく。
『髑髏會』といえば、PKクランの名前だったはず。以前私を襲ってMr.Qに返り討ちにあった3人組も、確か『髑髏會』のメンバーだったはずだ。
「カローナ様を奴らが襲ったあの時、実行犯だけでなく全員を掃討しておけば……!」
「……プレイヤーには私の威光も通用すまい。さらに何度でも甦るのであれば……大戦力で心ごと叩き折るしかあるまいな」
「お任せください、ラ・ティターニア様。プレイヤーの不始末は、我々プレイヤーで拭います」
「じゃあ私とお非~リアさんで、対髑髏會の戦力を集めればいいのね?」
「そうですね……連絡の取れる相手は居ますか?」
「Mr.Q、スターストライプさん、セレスさんはすぐに連絡がつくと思うわ」
「1位、2位、5位か……頼りになるメンバーだ。では私は、3位と4位……カサブランカとダイヤモンドに声をかけましょう」
「カサブランカさんとダイヤモンドさんって、あの? あの2人、そんなに強いんだ……」
まぁたしかに、カサブランカさんには完全敗北したからなぁ……。余計に【恋人】で初見殺ししたのが申し訳ない……。
「ではお互いにメンバーを集めるということで……ただし、『髑髏會』のものに悟られないように」
「分かったわ。……ところで、お非~リアさんに頼みたいことがあるんですけど……」
「何でしょう?」
「できるんだったら、カサブランカさんを紹介してほしいなって」
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