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アネックス・ファンタジア ~V配信者による、神ゲー攻略配信日記~  作者: 風遊ひばり
第五章 ~猜疑に満ちた仮面舞踏会~
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猜疑に満ちた仮面舞踏会 8

評価・ブックマークありがとうございます!


 ダンスで黙らせるしかあるまい!


 なんて息巻いたはいいけど、私は今目立つわけにはいかない。私にヘイトが向かないように、なおかつすごいダンスを見せつける。


 この青年という隠れ蓑があれば、そんな矛盾も可能にして見せよう!



「さぁ、参りましょう」



 曲に合わせ足を踏み出し、ダンスボールの中心へ———



「君はいったい……」



 リードは私だ。

 彼の手を引き、肩に置いた手で動きをコントロールする。青年が漏らした驚きの声は、昨日と今日とで、私の動きがまるで違うからだろう。



 私は、自分の身体を、どのタイミングでどう動かせば周囲の視線を集められるかを完璧に理解している。であれば、彼をリードして、彼が注目を集めるように動かす(・・・)ことも可能だ。


 流石に私と同じレベルとまではいかないけどね。

 私が100%だとすると、リード有りでも再現度は80%ほど。それでも、注目を集めるには十分すぎる。



「なんと美しい……」

「どうして……彼から目が離せないのでしょう……」

「相手の女性の存在を忘れそうになってしまうな」


「ふむ……あれほどのダンスを踊れる若者もいるとはな……」



 いい感じに彼に視線が集まっているようだ。私の存在を忘れるぐらいにね。私のダンスのヤバさ(・・・)に気づいているのは、一緒に踊っている彼だけだろう。



「君はどうやってこれほどの……」


「ふふ、驚きましたか?」


「あぁ、今までの人生で一番ね……」


「驚きすぎでしょう」


「これでも多少の経験はあるからね……でも、このダンスが一番だと確信ができるよ」


「それは良かったです……♪」



 現在のヘイト値は46%。

 私と彼とのダンスが見える位置にいる人々は、誰一人例外なく私達に注目しているようだ。


 そして、周囲の皆がこちらを見ているということは、私の方からも見やすいということ。


 ワインを片手にこちらを眺めるウェルブラート辺境伯。

 食事が並ぶテーブルの付近と音楽隊の付近に、私を監視する人が一人ずつ。


 そして、人々の間を縫って私に近づいてくる偏屈爺さんの姿。



 さて、作戦決行だ!



「ごめんなさい……今から起こることに、あまり驚かないようにしてくださいね」


「えっ……? 何を———?」



 彼の目を見つめながらそう伝えた後、スイっと視線を横へ。

 つられて彼の視線が横に流れた瞬間の出来事だった。



「どうし———はっ!?」


「なんじゃ、儂では不服か?」



 彼が私から視線を外したその瞬間、私は偏屈爺さんと入れ替わったのだ。あまりにもスムーズで、一瞬で、自然すぎたから、一緒に踊っていた彼ですら、その姿を見てから初めて気づいたほどだ。



 40%以上あったヘイト値は、そっくりそのまま彼と偏屈爺さんへと移り、現在2%。音楽隊付近にいる監視者の視線も外すことに成功し、現在私を見ているのはたった一人のみだ。


 そして、その一人の位置も把握済み。



 【クロワゼ・デリエール】起動。

 微増するヘイト値を2%に戻しつつ、自然で、かつ滑るような動きで人々の間を抜け、ウェルブラート辺境伯へと接近。


 私のリードが無くなったことで動きが変わり、そして青年が男性同士で踊っていることに周囲も気づき始めたようだ。ウェルブラート辺境伯も、隣にいる胡散臭そうな男性に何やら話している。



 【変転コンバージョン】発動。

 MPを消費し、耳飾り『アモル・ノワール』の結晶部分に毒が生成される。“恋人ザ・ラバーズ”の催眠成分を改良した、強力な自白剤だ。



 ウェルブラート辺境伯がワインを飲み、一息つく。

 そして喋り出すその瞬間———周りへの注意が最も薄くなる瞬間だ。



 その一瞬のタイミングを狙い、ダイハード・メガランチュラの糸を引く。

 私から少し離れた位置にあるディナーエリアで、仕掛けられていたフォークが宙を舞う。


 たとえどれだけ鍛えられた者であっても、目の前に物が飛んで来たら目を閉じてしまう。それは生物である限り逃れようのない反射(・・)だ。



 突如として向かってきたフォークに、監視者は反射的に目を閉じる。


 監視者が目を閉じた一瞬と、ウェルブラート辺境伯の注意が薄くなる一瞬が重なり———



 ———ヘイト値0%。

 その瞬間、私は【変転コンバージョン】で生成した自白剤を、ウェルブラート辺境伯の持つグラスへと混ぜ入れた。











「初めまして」


「おぉ、これは麗しきお嬢様だ」



 私はワイングラスを片手に、ウェルブラート辺境伯へと話しかける。私の姿を見て気分を良くしたのか、ウェルブラート辺境伯の声が少し上ずる。


 分かりやすい性格だなぁ……ティターニアちゃんと話してた時はそんな感じしなかったのに、『仮面舞踏会ラ・クンパルシータ』では素が出るのかな?



「お父様に連れられてここに来たのですが、右も左も分からなくて……おじ様は慣れていらっしゃる様子でしたので、何かお話ができたらと……」


「ふむ……ならば私はまさにうってつけというわけだ」


「ありがとうございます! では、お近づきの印に……」


「うむ」



 私がグラスを差し出すと、ウェルブラート辺境伯は自身が持つグラスを軽く当てて乾杯し、互いにグラスを呷る。



「面白い話を聞かせていただけるのなら、会場を抜け出しませんか? 二人で、こっそりと……」


「……うむ、言う通りにしよう」



 ———チェックメイト。







『ユニーククエスト: 猜疑に満ちた(ラ・クンパ)仮面舞踏会ルシータ をクリアしました!』


『称号: 《仮面舞踏会ラ・クンパルシータ特別会員》 を獲得しました』


『ダンサー系隠し最上位職業(ジョブ): 影面舞踏姫シャドウ・マスカレード を獲得しました』


お読みくださってありがとうございます。

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