猜疑に満ちた仮面舞踏会 7
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さて、『仮面舞踏会』の3回目だ。今回もドレスを新調し、仮面だけ同じものを使って参加することにする。
最初の2回は情報収集に費やして、今回が勝負のつもりだ。
「お嬢様、ようこそ『仮面舞踏会』へ」
ってことで、少し遅れて私は参加。
昨日の青年に捕まると逃げられなくなりそうだから、その前にウェルブラート辺境伯の発見と、偏屈爺さんとの接触をしておきたい。
「おじ様、私と少しお話してくださらない?」
「おや、これは素敵なお嬢様だ。私で良ければぜひ」
適当に男性を捕まえて情報収集開始。
多少なりとも、有益な情報が得られることを期待しよう。
「それで、あの空に浮かんでいる浮島には、初めて見るモンスターがいてな」
「どんなモンスターなのです?」
「ロック・リザードに似ているが、奴よりもはるかに大きく、何より二足歩行だった」
「二足歩行って……」
「あぁ、いや、我々のように直立しているわけではないぞ? こう……後ろ脚で立って、前屈みの状態で歩く感じだな」
「もしかして……尻尾が長くて、翼が生えてるとか……」
「いや、翼は無かったな。鱗が非常に硬く、爪も牙も凄まじく強靭……何とか逃げ切ったが、なかなかに怖い思いをしたな」
巨大なトカゲっぽいモンスターで、翼は無いからドラゴンではなさそう。牙も爪も強靭……ってなると、どう考えても『恐竜』しか思い浮かばないんだけど?
まだ浮島には行ったことないけど、まさか恐竜らしきモンスターがいるなんて……。
『親愛なる────へ』でティラノサウルスは見たけど、あれはミューロンちゃんが作った個体だったんだっけ。
ってことは、その浮島にいる奴がオリジナルの可能性があるのか……
やばい、この人の話、面白いぞ?
新種らしきモンスターの話を聞いて、じっとしてられる配信者なんていないでしょ!
……いかんいかん、今は別のクエストの途中だった。
でもなぁ……このクエスト終わったら、いよいよ浮島にも足を延ばしてみるかな。
「———首尾はどうなっている?」
ふいに聞こえてきたその声を、私は聞き逃さなかった。
間違いない、ウェルブラート辺境伯の声だ。
位置的には、私の斜め後ろか……視界に入っていないのは不安だけど、怪しい動きをするわけにもいかない。
ひとまず会話は続けながら、耳は後ろのウェルブラート辺境伯の会話へと傾ける。聞くのと話すのを同時に熟すのは難しいけど、マルチタスクが得意な私なら何とかなる。
ひとまずこっちの会話を……
「そんな世界があるなんて、初めて知りましたわ……!」
「君はあまり外に出られなかったんだったね。もしよければ、連れて行ってあげようか?」
「でも、少し怖いですわ……戦うことなんてできませんし……」
嘘である。
行きたくてめっちゃうずうずしてるけどね!
「肉はたくさん用意できそうです。いつでも送りましょう」
「ありがたい。私の飼い犬は最近特に食いしん坊でなぁ……金がかかって仕方がないのだ」
「優秀な冒険者達に集めさせていますから、必要な分はすぐにでも集まりますよ」
飼い犬……?
この世界にも、ペットを飼うっていう習慣はあるのかな?
まぁ、私もカルラを連れてたりするし、そういうのもあり得るかもね。
「ふむ……確かに、興味があったとしても、少女を怖がらせてまで連れ歩くわけにもいかないか」
「お力になれず申し訳ありませんわ……」
「ふむ、なかなか面白そうな話をしておるではないか」
ふいに会話に入ってきたのは、聞き覚えのある声。
そちらを振り向くと、白い髭を蓄えた大柄な爺さんの姿があった。私の悪巧み仲間の偏屈爺さんだ。
「あら、ごきげんよう」
ナイスタイミング!
偏屈爺さんの方を向くついでにウェルブラート辺境伯の姿を視界の端に留めておき、偏屈爺さんを会話に引き入れる。
前回の騒ぎもあり、偏屈爺さんはあまり関わりたくないと思われている人物である。『仮面舞踏会』の場において、個人がどうこう言うのはご法度だけど、嫌なものは嫌だからねぇ……。
と言うわけで、私が何も知らない風を装って偏屈爺さんと会話を始めると、浮島の話をしてくれたおじ様は、スススッとフェードアウトして何処かへ行ってしまった。
これも狙い通りよ!
「……さて、これで気軽に話せるな。小娘、今日は何を?」
「あら、人聞きが悪いですわよ。私は『仮面舞踏会』を楽しんでいるだけですわ」
「言いよるわ」
「私はダンスを楽しんでいますもの。昨日、私を誘ってくださったお兄さま……また会えるといいのですけど……」
「ふん……お前も一丁前にレディと言うわけか……」
偏屈爺さんがクイッと親指で示した先、数人の女性に囲まれて困ったように頭を掻く青年の姿があった。
表情は見えないけど、デレデレしているに違いない。
なんかムカつく。
「ふはは、彼は随分モテるようだな」
「……なんか腹立つので、悪戯に協力してくださいませんか?」
♢♢♢♢
「お兄さま……♪」
「っ!? き、君はなぜそんなにも背後に現れるのが得意なんだい!?」
「お兄さまを驚かせようと思っただけですわよ」
背後から静かに近づいて、耳元でそう囁いてみた。
今回はよほど驚いたのか、青年は吃驚した様子でそう声を上げたのだった。
ふふ、してやったり。
「私をダンスに誘うと言ったまま、他の女性に囲まれてデレデレしているんですもの」
「違っ———ただ普通に会話をしていただけですから!」
「あら、この娘が先約と言っていた……?」
青年を囲んでいた女性の一人が、私を見てそんな風に声をかけてきた。アニメや漫画でしか見たことがないような、見事な金髪縦ロールお嬢様だ。
「初めまして———」
「田舎丸出しの娘に見えますが、あなたはこんな娘が良いのです?」
私のカーテシーを遮るように口を開き、青年にそう問いかける縦ロールちゃん。ほう、じゃじゃ馬お嬢様ですか……。
「そんな風に言うのは良くないと思いますよ?」
「事実ですわ。私の方が、よほど上手く踊れますのに……」
「……ふふ、それは聞き捨てなりませんわね」
私より上手く踊れると?
随分自信がありそうなお嬢様だ。
これはあくまでゲームだから、こんな風にバカにされても、『金髪縦ロールロイヤルお嬢様可愛ぇ……』としか思わないけど、ダンスの話となれば別だ。
ならば、ダンスで黙らせるしかあるまい!
「お兄さま、目に物見せてあげましょう?」
「……今度は急に強気になるね、君……」
今日は立場が逆だ。前回は青年の方からのお誘いだったけど……私が差し出した手に、青年はゆっくりと自分の手を重ねた。
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