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アネックス・ファンタジア ~V配信者による、神ゲー攻略配信日記~  作者: 風遊ひばり
第五章 ~猜疑に満ちた仮面舞踏会~
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猜疑に満ちた仮面舞踏会 6

評価・ブックマークありがとうございます!


「お兄さん……?」


「っ!? き、君か……」



 偏屈爺さんとの話を終え、また別の人と一曲踊ってきた私は、最初に私をダンスに誘ってきた青年に静かに近づき、声をかけた。


 青年は私の接近に全く気がついていなかったようで、驚いて身体を跳ねさせていた。



「声をあげるのをよく我慢しましたね?」


「胆力には自身があってね……って、結構ビックリしたけどね」


「ふふ、面白い方……♪︎」


仮面舞踏会ラ・クンパルシータを楽しんでいるかい?」


「えぇ、とっても……あなたに教えていただいたあのおじ様も、とても面白い方でしたわ♪︎」


「それは良かった。普段の抑圧から解放されて、存分に羽を伸ばすと良い」


「はい……♪︎ ところで、あのおじ様があなたを呼んでいましたよ?」


「本当かい?」


「えぇ、何か急いでいる様子でしたけど……」



 嘘だけど。

 私と偏屈爺さんとで悪巧みをしただけで、別に彼を呼んだわけではない。


 ただ、少し利用させて貰うけどね。

 ……マジでごめん!



「分かった、すぐに行ってくるよ。そのあとにでも、また一曲どうかな?」


「えぇ、では隅でお待ちしておりますわ」



 再び私を誘った彼は、『わざわざ呼ぶなんて、なんだろう……』と呟きながら、偏屈爺さんの元へと向かう。


 私は会場の隅……全体を見渡せる場所へと移動し、タイミング(・・・・・)を図る。青年と偏屈爺さんがあと1、2歩の距離までくる、その瞬間を。



 そして───



(今……!)



 私はごく自然に……何気ない僅かな動きでダイハード・メガランチュラの糸を引っ張る。


 これは私のドレスを少しほどいて用意したものだ。そして、糸の反対側……床を這い、机の下を通って糸が繋がっている先は、青年の身体だった。



 一緒にダンスを踊ったときに、内緒で仕掛けておいたんだよね。バレないように。ただでさえ暗い会場で、床を這う細い糸を見つけられる人なんていない。


 そして、たとえ1ミリに満たない太さだとしても、ダイハード・メガランチュラの糸は人一人を支えるには十分すぎる強度だ。



「ぅわっ……!?」



 足を取られ、バランスを崩した青年は、目の前の……偏屈爺さんの胸へと、豪快に頭突きを叩き込んだ。



「……ほう、小僧……この儂にケンカを売るとは良い度胸だなっ!」


「ひぃっ! 違いますっ! これはっ、すみません!」



 わざとらしく(・・・・・・)張り上げた偏屈爺さんの声が会場に響く。そして、青年の情けない声も……


 静かな会場でそんな声がすれば、当然注目を集める。周囲の人々の目が、一斉に彼らの方を向き───



「……見つけた」



 私は思わず、小さくそう呟いた。


 私も彼らの方を向くように見せかけ、実際に見ていたのは周囲の視線の動き。


 周囲の人々の目が一斉に青年らへと向けられる中、2人だけ……視線が私に固定されていた人が居たねぇ?



 オッケー、姿や背格好は覚えたわ。本当は声も聞ければ良いんだけど……まぁ立ち居振舞いの癖で見分けはつくでしょ。


 ……とはいえ、まだウェルブラート辺境伯を発見できていない。作戦を決行しようにもできない状態だ。



 今のうちに、あの二人の視線を掻い潜る作戦でも考えておきましょうか……。


 偏屈爺さんにこってりと絞られる青年を遠目に見つつ、私は一人思考を巡らせた。












「はぁ……散々な目に遭ったよ、本当……」


「お怪我はありませんでしたか?」


「あぁ、怪我はない。大丈夫だよ」



 しばらく経った後、少しげっそりした様子の青年が戻ってきた。


 いや、ごめん……実はそれ、全部私のせいなんよ……。バレてはなさそうだけど。



 周囲の人達は、この青年を見てなにやらヒソヒソと話している様子。よしよし、良い感じに青年が視線を集めているようだ。


 ……私にも視線が来ないように気を付けようかな。壁を背に、【クロワゼ・デリエール】を使って視線を外し、青年の影に隠れる。


 これで大丈夫でしょ。



「しかし、こんな失礼なミスを……恥ずかしい……」


「ふふ、わたくしはあなたの慌てた姿が見られて面白かったですが……」


「勘弁してくれ……男ってのは、レディの前ではカッコつけたいものなのさ」


「あら、レディってわたくしのことですの?」


「あぁ、もちろんだ」



 わぁ、イッケメーン……。



「だとしたら、何も問題はありませんわね」


「え? どうして───」


「だってわたくしは、ダンスをご一緒した時からもう……」



 頬を赤らめ、おずおずとした様子で、そして言い切る前に羞恥心が限界に達したように目を逸らす。


 まさに生娘のように!

 ……いや、実際生娘なんだけどさ。



 もしこの場にMr.Q(クウ)がいたら、『あざとww』と笑っていただろう。


 だが、如何にも純情そうなこの青年には、間違いなくクリティカル! おらっ、現代日本の『あざと可愛い』を食らえっ!



「も、もしよければ、次回もまた私と一緒に踊ってくれないだろうか……!」



 ……勝ったな。


お読みくださってありがとうございます。

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