猜疑に満ちた仮面舞踏会 4
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「『仮面舞踏会』へようこそ、お嬢様」
「えぇ、ご機嫌よう」
さて、『仮面舞踏会』の2回目だ。初回はシステムに慣れるのと情報収集だけで終わっちゃったから、ある意味今回からが本番となる。
というかそもそも、最終的な目標であるウェルブラート辺境伯を発見できていないんだから……彼を見つけない限りはどうしようもない。
というわけで、今日はウェルブラート辺境伯を発見しつつ、私を監視する何者かを特定したい。
一応、そのための仕込みもしてきたもんね。
今回私は、ドレスを一新してきた。
素材にダイハードメガランチュラの糸を使う際、デザインも変えてきたのだ。同じドレスを着回すのもね……。
ただし、使っている仮面は一緒だ。普通は仮面の模様なんて気にしないけど、前回から私を監視していた人達には、その仮面だけで私だと分かるだろう。
あとはこう……どうにかなれ!
「お嬢様、一曲どうですか?」
「えぇ、ぜひ」
私に向け、優雅に手を差し出した男を見て、私はその手を取る。体躯が大きくてイケボ……けど目的のウェルブラート辺境伯ではないらしい。
……とりあえずは、目立たないようにして空気に馴染まないとね。
ダンスホールへと踏み出し、音楽に乗せてゆっくりと足を運ぶ。上手く偽装できてるからか、それほど特筆するほどでもないダンスだ。
けどそれに嫌そうな雰囲気すら出さず、むしろリードしてくれる男性。うーん、紳士だねぇ……。
「お嬢様、あなたはどうしてここへ?」
「私、身体があまり強くなくて……今日は調子が良さそうなので、お父様に連れてきていただいたのです」
「それはそれは……では快気祝いですね。存分に楽しみましょう?」
「えぇ、よろしくお願いしますわ……♪︎」
さも当たり前のように、私の口からすらすらと嘘が吐き出される。声色も変え、何も知らない無知な少女を演じながら。
お陰で、この男性は信じてくれたのだろう。本当に優しげな声でそう言い、私をリードしてくれる。
ぅっ……なんかすごい罪悪感が……もし機会があれば埋め合わせするね……。
しかし、この会話も誰が聴いているのか分からない。だから私は、わざと嘘の情報を流したのだ。
もし私の話をそのまま信じたら……貴族令嬢でありながらダンスが中途半端にしか踊れないのは、病弱であまり立ち歩けなかったから。
そして、『仮面舞踏会』に参加できるほどの家でありながら、病弱な娘がいる……それだけで、貴族にとってはスキャンダルだ。
しかも、その父親もこの場にきているらしい。情報を得るのにはちょうどいい機会だ。
こうして私の話を信じた何者かは、情報を得ようと居るはずもない私の父親を探して奔走することになるだろう。ヘイト値は現在12%、結構減ってきたわね。
「この曲は、かの有名なロエナ・ブランウェンの名を広めるきっかけとなった一曲で───」
「すごい……博識ですのね……!」
「えぇ、小さい頃からこういったことには興味がありまして……」
「珍しいですわね。大抵は、剣の訓練に奔走する時期だと思うのですが……」
「はは、よく言われます。やはりおかしいてすか?」
「そんなことありませんわ! 好きなものは人それぞれですし、私も音楽が好きですもの……♪︎」
「そう言ってくれるとありがたい」
普通に会話しながらも、穏やかな時間が過ぎていく。あぁぁぁ……心苦しいけど、この人も利用させてもらおう。
「それで、アドラステア原生林というところには、『ランパード・カメレオン』という珍しいモンスターがいて───」
「たしか、周囲の景色に溶け込んで、見えなくなってしまうモンスターですよね」
「その通りだよ、よく知ってるね?」
「私が寂しくないようにと、お父様が毎日色々な話を聞かせてくれたましたから」
「それは、良い父親ですね」
「はい……♪︎」
「その耳飾りも、父親から……?」
「いえ、これは私の友人から……『君に似合うから』と、贈っていただきましたの」
「そ、そうか……恵まれていますね……」
……なんだか落ち込んだ様子。
もしかして、こんなアクセサリを贈ってくれる相手がいるって分かったから?
心配しなくても、これ作り話だから……自分で製作依頼したやつだから……。いやまぁ、残念ながらNPCにはチャンスはないけど。
「ふふ……もっと色々な面白い話を聞かせていただけませんか……?」
「もっと面白い……なかなか難しい注文ですね」
そんな風に彼は苦笑いしつつも、彼が見てきたであろう冒険の話を色々と聞かせてくれた。
でも私もプレイヤーだから……彼が聞かせてくれた話は、ほとんど私も知っていた内容だった。
別にがっかりしたわけじゃないよ? 女子に『面白い話をして』と無茶振りされて、懸命に応えようとする彼は、100%善い人でしょ。
その姿がなんかこう、可愛いというか……意外と年齢も近そうだしね。
「そうだ。それなら、今日私が話した人の中に、面白そうな人が居ましたよ」
「面白そうな人?」
「えぇ、あの方です」
男性が指示した先に居たのは、縦にも横にも大きい一人の男性がいた。その人は両手にワイングラスを持ち、交互に飲み比べている様子。
仮面の下からは、蓄えられた白い髭が見えていることから、おそらくなかなかのおじいちゃんなのだろう。
そんなはしたない飲み方を……
「何と言いますか……個性的な人ですわね」
「えぇ、少し腹黒いところが垣間見えましたが、知識が豊富で独特の視点を持っています。外の世界を見たいお嬢様にはうってつけかと」
「なるほど……」
この男性が言うのであれば、少し話しかけてみようかな。
「……ありがとうございます、親切なお兄さん♪」
「っ!?」
小さく微笑んだ私は、彼の耳に顔を近づけてそっとそう伝える。ビクッと肩を震わせた彼は、それでも驚きに声を上げるのは耐えられたようだ。
……別に、彼を落とそうとしているわけではない。
長々と話をした後に、何かを耳打ちして別れる……見ようによっては、何かを企んでいるようにも見えるだろう。
特に、私を監視している人達にとっては。
というわけで、ヘイト値は現在10%。
少しだけ彼の方にヘイトを押し付けられたようだ。
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