頂上決戦 前編
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『Mr.Q vs スターストライプ、決闘開始!』
開始を告げるアナウンスが鳴り響くと同時、Mr.Qは漆黒の剣、『ネグロ・ラーグルフ』を手が届く範囲の地面に突き刺し、左腕にバックラーを装着しているものの、両手が空いた状態にする。
対するスターストライプさんは、クラウチングスタートのように姿勢を低くし、左手を地面に付いた前傾姿勢となっている。右手はぼんやりとアビリティエフェクトを纏い、何らかのアビリティを準備しているのが分かる。
その状態で互いに睨み合い、タイミングを伺う2人。
「意外と静かに始まったけど……緊張感あるわね」
・これだけトッププレイヤーになると、下手に動いたら一気に終わるからな
・意外とすぐには動かないんやね
・カローナちゃんはどう見る?
・つーか剣握らないんや
「うーん……今距離が10m以上空いてるし、剣を使う距離じゃないもんね。スターストライプさんはとにかく間合いを詰めたい、Mr.Qは近付けたくない。剣はいざという時の保険……かな」
・スターストライプは明らかに突っ込んでくる体勢だしな
・真っすぐ来るなら見切りやすいし、Mr.Qなら弾けるのでは?
・セレスちゃん×イシュタムのチートコンボを除けば、スターストライプは瞬間火力ランキング1位だぞ
・軌道が分かるからと言ってそのままぶつかるには怖い火力だよな
・ならカウンターの準備か?
「スターストライプさんだったら、カウンターを仕掛けても当ててくれないかもね……私がMr.Qの立場だったら……魔法の発動で身体を隠しながら、スターストライプさんを動かすかな」
『自分から動く』のと、『相手に動かされる』のでは天と地ほどの差だ。だから魔法の発動でスターストライプさんを動かして、逃げるのならそれまで。
向かってくるなら、操糸術で牽制して一戦……かな。
そんな風に視聴者さんと話していると、ついに動き出したようだ。
先手はMr.Q。
最初の一手は……私の予想通り、魔法の発動だった。
Mr.Qの目の前に、彼の身体を隠すほどの魔法陣が現れる。それを見たスターストライプさんは即座にスタートを切り、その加速を【アクセルダイブ】の移動攻撃へと繋げ———
スターストライプさんが一歩だけ横にずれた直後、一瞬前まで彼がいた場所を、黄色っぽい矢が通り抜けていった。
おそらく、Mr.Qが放った『麻痺効果』を持つ魔法矢だ。ミカツキちゃんも使っていたそれを、魔法をキャンセルして魔法陣が消えるまでの1秒の間にインベントリから取り出して放ったのだ。
そして、それを読んでいたスターストライプさんはいとも簡単に避けて間合いを詰めていく。
「今の避けるんだ……」
・判断が速い
・よく矢を放つタイミングが読めるな
・1秒で弓を取り出して矢を放つところまでいくMr.Qも大概
スターストライプさんが避けるのも当然だとばかりに表情を変えないMr.Qは、即座に糸を取り出して展開する。
「【アヴィス———」
「ふんっ……!」
「上手っ」
・地面を殴って回避!?
・糸が届……かないっ!
・完全に当たると思った
・下手したら数mmの神回避やんけ
『マリオネッター』の強力なアビリティ、問答無用で相手を縛り上げて行動不能にする【アヴィス・アラーネア】が発動する直前、スターストライプさんが地面を殴り、その反動でMr.Qの頭上を飛び越える。
【アヴィス・アラーネア】の有効範囲のギリギリ外をなぞるような、完璧な回避だ。
Mr.Qの【アヴィス・アラーネア】は不発。
その背後に着地したスターストライプさんの拳に、雷のようなエフェクトが纏わりつく。
その瞬間。
「っ!」
【アヴィス・アラーネア】によって絡めとられた『ネグロ・ラーグルフ』が、ものすごい勢いでスターストライプさんへと飛んでくる。
容赦なく眉間に向けて放たれたそれを、スターストライプさんは上体を逸らして躱し、高速の打撃アビリティ、【ブリッツ・インパクト】で———
対するMr.Qは、スターストライプさんが避けている間に取り出した『糸通し』を片手に【ラディエル・カウンター】で迎撃を準備していた。
そのまま突っ込めば、強力なカウンターによって手痛い反撃が来るが……
「ふはっ!」
思わず笑い声を漏らしたスターストライプさんは、【ブリッツ・インパクト】をわざと空振り。カウンターアビリティに当てないことで、反撃を回避したのだ。
腕を振り切った勢いで回転するスターストライプ。
互いにアビリティの不発で数瞬の硬直が入った後———
「【カラミティ・ストライク】!」
「【グラン・ペネトレイション】!」
ガード読みで放ったスターストライプさんの貫通攻撃アビリティ【カラミティ・ストライク】と、同じく貫通攻撃の【グラン・ペネトレイション】がぶつかり合う。
赤黒いエフェクトが弾け、周囲に衝撃波をまき散らすも、相殺が起こったことによって2人へのダメージは0だ。
ギリギリと鍔迫り合いをしていた2人は、互いに不敵な笑みを浮かべた後に離れる。
僅か十数秒の攻防。
たったそれだけで、見ている者全てに尊敬と畏怖を与えるほどのものだった。
撃ち、避けて、次の行動へ———一切無駄がなく、ノンストップで展開されるその攻防に魅入られたのは、私も同じだった。
お読みくださってありがとうございます。




