3つ目のプライマルクエスト
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『遥か古の夢よ、もう一度———』
『———八百万の妖を統べる幽世の大鬼は、再臨を望みて現世を跋扈する———』
『 妖面鬼 に遭遇!』
『プライマルクエスト: 百鬼夜行、彼岸の際にて再臨を願う を開始します』
「っ!?」
『プライマルクエスト』!? マジでっ!?
・はっ? ちょっ
・はぁぁぁぁぁぁぁぁあっ!?
・っ!?!?!?!?!?
・プライマルクエスト!?
・やりやがったぁぁぁぁっ!!
・神回確定
コメント用ウィンドゥが物凄い勢いで更新されていき、パッと見では確認できない程大量のコメントが流れていく。
しかし、そんなことに構っている余裕などない。
何せ『プライマルクエスト』は、数千万人がプレイする『アネックス・ファンタジア』においても、未だに2件……公表されている物では『ラウンド・ナイツ』のみしか確認されていなかった超激レアクエストである。
であるのだが……まさか私に発生するとは……。
すぐさま幼女の鑑定を行う。
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Name:妖面鬼
Lv:256
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「あはは……」
表示された結果に、渇いた笑いしか出てこない。私よりレベルが200以上高いんだが?
「えー……視聴者の皆さん、もうお分かりかと思いますが、たった今プライマルクエストが発生しました。いや、あの、マジで? 全くの偶然で私も信じられないんだけど……」
・二つ目?
・ヤバすぎ
・たまたま配信しているという奇跡
・プライマルクエストの発生条件公開したことになるけどいいんか?
・マジかマジかマジか
・カローナ様凄すぎる……
・↑マネできるならやってみろ
「何をさっきから見ておるんじゃ? む? これは?」
「うわっ!?」
突如真横から聞こえてきた声に、思わず肩を跳ねさせる。
一体いつの間に移動したのか、幼女……『妖面鬼』とやらが私のすぐ隣に来てコメント用ウィンドゥを覗いてきたのだ。
流れていくコメントに首を傾げたり、自動撮影モードのカメラを物珍しそうにのぞき込んだりと、歳相応のような可愛らしい反応をしている。
・のじゃロリばばぁ!
・あれ? 普通に可愛くない?
・今度は謎の幼女NPCのドアップ!
・いいぞもっとやれ
・prpr
・ぬっ……くっ、拙者にはカローナ様が、いやしかし……
・画面がもう尊い
「まぁ何でも良いわ。ところで……すまんな、プレイヤーよ。妾の飼い狐が迷惑をかけた」
「いえいえ! 可愛いワンちゃん……じゃない、可愛いキツネさんですねっ!」
「んふふ、そうであろう? 白銀の毛並みも見事なもの。妾の自慢の飼い狐よ」
「クゥン♪︎」
幼女がハクヤガミの喉を撫でると、ハクヤガミはイヌのような甘えた声を漏らす。これはこれですごく可愛い。
けど、なるほど、レベル162の化け物がペットですか……うーん、この。
とにかく、敵対しないように何とかしよう。
「さて、プレイヤーよ。ハクが随分と世話になったようじゃな。ハクもお主のことが気に入っておるようじゃし、どうじゃ? 詫びも兼ねて、妾の城に招かれてはみんか?」
「っ! 迷惑でなければぜひっ!」
「よろしい、ついて参れ」
ブォンッと、どこか機械的な音とともに目の前に円形の魔法陣が現れる。その魔法陣の向こう側には朱色に染まった幻想的な城が鎮座しており、まるで望遠鏡を覗いているかのような摩訶不思議な光景だ。
「これは……?」
「転移門じゃ。妾の城、『鬼幻城』限定ではあるが、直通の転移じゃぞ?」
「それはちょっと便利過ぎません?」
「そうであろう、もっと誉めても良いぞ」
カラカラと笑う妖面鬼を見ていると、どうしようもなくとある思いが募る。
———なんだろう、このポンコツ感は。
いや、レベルも高すぎるし佇まいにも隙がないから、多分めちゃくちゃ強いんだろうけど、話せば話すほど褒められたいだけの女の子に見えて仕方がない。
「ぁっ、そういえば、貴女のことはなんと呼べばいいですか?」
「……"妖仙"———八千桜 神楽、近しい者はカグラと呼ぶ」
♢♢♢♢
その後、荒れ狂うコメ欄をそっと閉じつつ、ちょうど良さそうなところで動画を切上げた。
動画映え的には続けたほうがいいかもなんだけど、流石にプライマルクエストの内容を垂れ流しにする勇気は私には無かったんだよ……。
「「「お帰りなさいませ、カグラ様」」」
カグラについて行くと、城の門の前には着物を着た大勢の使用人がズラリと並び、私達を出迎えた。使用人は猫耳と尻尾がある者、首がにょろにょろと長い者など、人間とは似つかない妖怪達ばかりだ、
「うむ。急で悪いが、今宵は客人が居る。部屋を用意してやれ」
「かしこまりました」
使用人の代表だと思われる、生気を感じないほどに青白い肌をした女性……おそらく雪女……が優雅に一礼し、他の使用妖怪達に指示を出していく。
「カグラ様とお客様……」
「あ、私はカローナと言います」
「ではカローナ様、こちらへどうぞ。お茶をお出ししましょう」
雪女さんについて行き、カグラ様と共に城の廊下を歩く。城と言っても和風なもので、内装は温かみのある木製で襖が整然と並び、ほのかにイグサのいい匂いもする。
「あの、カグラ様……?」
「ん? なんじゃ?」
雪女さんにつれられて城の中を歩く途中、私の一歩前にいるカグラへとこっそり声をかける。
「ここって、妖怪達の住処ですよね。人間の私が入っていいんですか?」
廊下の窓からチラリと外に視線をやると、活気がありながらもどこか寂しい雰囲気の城下町とさらにその外側の深い森。
さらにその外には、おそらく『ハクヤガミ』との戦闘でカギを手に入れたであろう冒険者達の戦闘音がかすかに聴こえてくる。
「というか、あの、妖怪さん達攻撃されてませんか……? その、カグラ様は人間に敵対とか……」
「なんじゃ、そんなことを心配しておったのか? 構わん、我らはそういう役割じゃ。報復など考えておらんよ」
……ん?今なんか、かなり重要なことを聞いたような……。
「お主を連れてきた理由ももちろんあるが、妾の好意だと思ってくれればよい。今日の所はゆるりと休むが良いぞ」
雪女さんが一室の襖を開けると、畳敷きの、高級旅館にも見劣りしない程素敵な部屋が目に飛び込んできた。
驚きと感動に言葉を失っていると、雪女さんは徐に布団を敷き始める。
えっ、マジ?
24時間を超えて滞在できるうえ、ここでリスポーン地点更新できる感じ?
ならお言葉に甘えて、ここを拠点にしちゃうよ?
カグラ様は無闇に戦ったりしません。
なぜなら、カグラ様が求めているのは戦う相手ではなく、この世界を──




