親愛なる————へ 15
評価・ブックマークありがとうございます!
『何かがおかしいモンスターがいる』───
それは、【アドラステア原生林】を攻略していたプレイヤーの幾人かから上がった言葉だった。
最初にそのモンスターが発見されたのは、アンガーエイプの群れの中。鳴き声も姿も、使ってくるアビリティすら、アンガーエイプそのものだ。
ただ、何かが違う。
アネファンに慣れたプレイヤーほど、その言葉にできないような違和感に悩まされていた。
次第に、同じ違和感を持つプレイヤーが数人現れた。しかし、それはアンガーエイプではなく、『メガブルモス』や『デウス・ゴアトルス』など……【アドラステア原生林】に生息するモンスターに、種類問わず発生しているというのだ。
結局その正体は分からず、ほとんどのプレイヤーは違和感を持ちながらも勘違いということで納得することにしているのだが……
その正体を明らかにしたプレイヤーが一人───それがゴッドセレスだった。
ゴッドセレスも違和感を持ったプレイヤーの一人であり、配信外での調査の末、一匹のモンスターに辿り着いたのだ。
『ランパード・カメレオン──"隠者"』───それが、違和感の正体だった。
元々、景色に溶け込み認識できなくなる能力を持っていた『ランパード・カメレオン』は、アナザーモンスターになることで『他のモンスターに変身する』という能力を備えることとなったのだ。
それも、ただ姿を変えるだけではない。アビリティやステータスすらも模倣し、存在そのものが対象のモンスターになっていると言っても過言ではない精度。
ただ、何に変身しようと中身がカメレオンであるため、隠しきれないズレがある。それが違和感の正体であった。
そこにいるのに、正体不明。決して姿を見せない変幻自在のモンスター。
故に『隠者』。
その正体を暴いた者には、同等の力が与えられる───
♢♢♢♢
「んんんんんんんっ! 最っ、高っ! 昂りますわぁっ!」
独りテンション爆上がりで身悶えするセレスさんと対照的に、私やヘルメスさん……果てはミューロンまでもが絶句し、思考停止に追いやられていた。
それはそうだ。
なにしろ、アビリティの発動後、セレスさんの姿が私……カローナへと変化したのだから。
私の目の前には、セレスさんの装備に身を包んだ私が、自分の身体を抱いて身悶えする姿があった。
なんだこれ。
理解が追い付かない……何を見せられているんだ私は……。
カローナは知る由もないが、セレスが使用した【進化の因子──"隠者"】は、180秒の間自身に特殊バフ『傑驥変幻』を付与し、別の生物に姿を変える効果を持っている。
たとえそれが、プレイヤーであっても、だ。
そしてその効果は、使用者が変身する対象をよく理解しているほど、強くなる。
ずっとカローナを見続けてきたゴッドセレスにとって、カローナを模倣することなど赤子の手をひねるように容易いことであった。
けどそれは、変身の対象となった者からすれば……
「ごめん、セレスさん……貶してる訳じゃないけど、ちょっと引く……」
「ストレートですわね!? カローナ様のようになりたいという願いが、ようやく叶いましたのに!」
「いや、そういうところがなのよ……」
私のようになりたいならまだ分かる。けど、見た目まで完コピされるとは思わないじゃんよ……。
「カローナ様には申し訳ありませんが、これは自撮り必須ですわね!」
あぁぁぁぁっ! 違和感がすっごい!
いつも見慣れてる私の姿なのに、装備も仕草も口調もセレスさんって!
しかもあんな媚びた感じの自撮りを……んぁぁぁっ! なんかむず痒くなってくる!
『姿形が突然変化するなど、生物として狂っています……理解不能』
「あら、さすがのAI様も混乱するのですね?」
『えぇ……ですので、データをいただきます。すぐにでも対応して見せましょう』
「できると良いですわ……ねっ!」
「ッ!」
セレスさんが放った魔法と、モデル《Almighty》の魔法がぶつかり合い、白いエフェクトとが弾ける。
同系統の攻撃がぶつかったことで、相殺が発生したのだ。対消滅するためお互いにダメージは無いものの、元々の威力が高いため、思わず目を瞑ってしまうほどの閃光が駆け抜ける。
そんなエフェクトの中を突破したモデル《Almighty》は、より鋭く凶悪になった爪を立ててセレスへと迫り───
「右腕、でしたわね」
「ッ!?」
直後、モデル《Almighty》は斬り飛ばされた右腕に驚愕しながら逃走を選択した。
ほんの一瞬の出来事。
それを為したセレスは、『仕返ししてやった』とばかりにどや顔を浮かべ、両手に握るレイピアの切っ先をモデル《Almighty》へと向ける。
職業『アークマギアス』専用、近接戦闘用装備───『白銀の姫騎士』。後衛職としての性能を残したまま前衛で戦えるようにと、以前よりヘルメスに特注して作ってもらっていたものだ。
「まさかこれを使うときが来るとは、思っても見ませんでしたわっ!」
4色のエフェクトを脚に纏ったセレスは、力強く床を蹴る。姿は掻き消え、そのまま一条の白銀の閃光となり───
お読みくださってありがとうございます。




