”恋人”は、花の香りに誘われて 2
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何回ゾンビアタックしても、倒すどころかダメージを受けた様子もないボスってな~~んだ?
クソボスだよ、クソボスっ!
なんだこれ、本当に私の攻撃効いてる!?
すでに5回のリスポーンを経た私は、再び"恋人"へと吶喊しながら悪態をつきかけ……あわてて息を止める。
カルラが臭気を飛ばしてくれてるとはいえ、接近したら吸ってしまう危険性も高い。
それに、今は配信中だしね。
配信で悪口流したら炎上しちゃう。
相手は植物だからか、"恋人"本体からの攻撃は激しくない。周囲のモンスターにさえ気を付ければ、私はほとんどダメージを受けなくなった。
私自身かなりの数間引きしたし、"恋人"が自己再生のために捕食してるし。
それにしても……回復速度が速すぎるのよ!
せっかく蔦を切ったのに、目の前で新しく生えてくるんじゃないわよ!
ニョキッ♪︎ じゃないわよ! 喧嘩売ってんのか!?
まぁいいや……『魔皇蜂之薙刀』ならスパスパ斬れるし。単純にDPSが足りてないだけ……って、致命傷じゃん。
それにまだ問題はある。それは───
「ゴァァァァァァッ!」
───こいつだ。上空から襲ってくる、『デウス・ゴアトルス』。
カルラが臭気を飛ばしてくれてるお陰で、周囲には広がっていないけど……たまたま上空に来た『デウス・ゴアトルス』が臭気を吸って、私に襲いかかってくるのだ。
意外と強いんだよねこいつ。
「ふっ……!」
「ゴアァァッ!」
私に向けて急降下してくるゴアトルスの嘴の先に、『魔皇蜂之薙刀』の突きを合わせて【木ノ葉舞】を発動。
宙返りの要領でゴアトルスの頭の上へと回った私は、急降下する勢いのままゴアトルスを地面に叩きつける!
ゴシャァッ! っと激しい音とダメージエフェクトが弾け、ゴアトルスの嘴から鈍い音が漏れる。
ラッキー!
その嘴、貰うわね! 【旋舞打擲】!
分裂して見えるほどの速度で『魔皇蜂之薙刀』をゴアトルスの嘴へと叩き込む。
頭から激突したゴアトルスは、脳震盪で動けない様子。
その数秒があれば十分!
バキンッ!
音を立てた嘴が砕け、宙を舞う。
素材となった嘴を一旦放置、薙刀を引き絞り、狙うは嘴が砕けた後の傷口だ。
「【グラン・ペネトレイション】!」
「ッ———!」
・ひえっ
・カローナ様それはエグイ
・傷口に刃物を突っ込むのはやめたげてぇっ!
赤黒いエフェクトを纏う刺突がゴアトルスの頭部に吸い込まれ、軽々と貫いて後方へと突き抜ける。断末魔すら上げることなくその命を散らしたゴアトルスが、力なく地面に崩れ落ち———
「ちょっ……!?」
そのゴアトルスに殺到した“恋人”の無数の蔦がその身体を絡めとり、本体の元へと引きずり込む。
これだ。
私がモンスターを倒すと、その度に捕食を繰り返して“恋人”はリソースを回復していく。
モンスターを捕食することによる驚異的な回復速度と、そのモンスターを用意するための催眠能力。最強モンスター談義で『ネペンテス・アグロー』の名が挙がるのも頷ける。
ただ、“恋人”本体の性能は低い。
斬撃は特に効くから、『魔皇蜂之薙刀』で攻め立てればいずれ討伐はできそうだ。
それまでに私が生きてたらね!
ゴアトルスの嘴を回収しつつ、息を思い切り吸い込み……そして止める。
【サードギア】! からの、【グリッサード・プレシピテ】!
地面を砕くほどの踏み込みと同時、私の身体は“恋人”と交差してその後方へと駆け抜ける。一秒にも満たないその間で複数回の斬撃を受けた“恋人”の茎は大きく斬れ———
「ゴァァッ!?」
「ブモォォォッ!」
「またこれだよ……」
・全く削れてる気がしない
・進んでる気がしない分キッツいなこれ
・相手強くない?
瞬時に二体のモンスターを取り込んで、切断されかかっていた茎が繋がっていく。手ごたえがない分、逆に不毛な戦いだと思ってしまう。
【グラン・カブリオール】と【無重力機動】を使用して、宙返りしながら“恋人”へと最接近。狙いは、最も特徴的な花弁の部分だ。
幾重ものエフェクトを纏い、凄まじい勢いで空中を翔ける私は薙刀を振るい———
「っ!」
私の軌道を塞ぐように殺到した蔦に邪魔され、【グラン・ジュテ】を使って空中でバックステップを踏む。私の速さと『魔皇蜂之薙刀』の切れ味なら、捕まったとしても割と簡単に抜けられると思うけど……息が続かない。
蔦の対処に手間取って、呼吸が限界になったら終わりだからね。安全マージン、これすっごく大事。
しかし……花弁を狙った途端、予想以上に反応してきたわね……。ということは……弱点、そこなのね?
お読みくださってありがとうございます。




