”恋人”は、花の香りに誘われて 1
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【ユピテル】にてポーション類の買い込みをしたのち、カルラを伴って再び【アドラステア原生林】へ。
カルラに運んでもらって上空へと昇り、【アストロスコープ】によって眺めるその視界には、『ネペンテス・アグロー——”恋人”』を中心に、様々な種のモンスターが群れを成しているのが見えた。
「さすがに、あのモンスターの群れを突破してから本体狙いはちょっと厳しいかな」
・うわぁキモい
・上から見ると余計にキモいな
・初手から本体狙い?
「うーん……カルラ、ちょっと向こうで作戦会議しましょう?」
「ワカッタ」
カルラに連れられ、“恋人”から離れた、安全そうな場所へ。普段は突撃して行動を覚えるタイプの私だけど、さすがにあの群れに突撃する勇気と自信はないからね。
周囲にモンスターが居なさそうな岩場に、【ユピテル】で買ってきた『組み立て式テント』を設置。性能によって2~10回分の簡易リスポーン地点を作ることができる優れ物だ。
ちなみに私が買ってきたのはリスポーン10回分。お財布になかなかのダメージでした……
「あいつが出す臭気がヤバいから、カルラは離れた場所から竜巻みたいなのであいつの全体を包めない? 臭気を上空に飛ばしてしまいたい」
「デキルケド……MPガスグニナクナル」
「まぁそうよね……ここにポーションをたくさん置いておくわ。MPが切れそうだったらここに戻ってきて自由に使って? あ、ただし最悪カルラだけでも逃げられるように【座標転移】一回分のMPは常に残しておいてね?」
「ワカッタ」
“恋人”が堕龍と同じように、他のモンスターを捕食して回復するタイプだと仮定すると、ある程度は群れのモンスターを間引きしておきたいんだけど……それをやろうとすると時間がかかりすぎる。
「というわけで、ファーストアタックの目標は周囲に集まってるアンガーエイプの殲滅。あいつが居るだけで、どんどん取り巻きが増えてくるからね」
・確かに
・ファーストアタックって、死ぬ気満々じゃん
・やっぱり脳筋じゃん
私はちゃんと考えたうえで突撃してるから脳筋じゃないって。
計画的無計画ってやつよ。
♢♢♢♢
「ふっ……!」
カルラに“恋人”の上空まで連れてきてもらい、落下と同時に息を止め、【グラン・ジュテ】で下へ加速、【兜割かち】を“恋人”へと叩き込む!
「ッ———!」
“恋人”が操る蔦を斬り裂く。
ん? 意外と柔らかいのかな?
私の腕ほどに太い蔦を一本斬り落としたところで、周りを取り巻くモンスター達が私に気付いたようだ。全てが赤い異様な光を目に宿しており、そんな目が一斉に向く光景は……ちょっと怖い。
【マキシーフォード】、【ドゥヴァン・デブーレ】起動!
AGIにバフを掛けつつ、迫りくるモンスターを足場に上空へ逃げる!
離れていく私の背後で、強力な風が“恋人”を包み込むのが分かった。カルラが起こした竜巻が“恋人”を包み、放たれる臭気を遥か上空へ巻き上げているのだ。
私の予想は正しかったらしい。
ファーストコンタクトから息を止めていた私は、今のところ操られていない。
やっぱりあの能力は、臭気を吸い込むことによって発動するギミックらしい。
そして、たった今カルラが竜巻で臭気を吹き飛ばしてくれたおかげで、ひとまず戦える環境が揃った!
「「ギャギャギャギャッ!」」
「【トゥール・アン・レール】!」
比較的身軽なアンガーエイプ数匹が、犇めきあうモンスターを足場にジャンプして私に迫る……が、回転を生み出す【トゥール・アン・レール】によって薙刀を振るい、一刀のもとに切り捨てた。
モンスターのごった返す喧騒の中、私は自分の耳に意識を集中する。
アンガーエイプの鳴き声は特徴的だ。私なら、この中から鳴き声でアンガーエイプの位置を割り出すことも可能なはず!
「っ!」
「ギャッ———」
【グラン・ジュテ】の残りの空中ジャンプを使って接近、メガブルモスの陰に潜んでいたアンガーエイプの首を貫いて討伐する。
次!
「ブモォォォォォッ!」
「【無重力機動】!」
「グギャッ!?」
私に向けて牙を振り上げるメガブルモスを目視、【無重力機動】で円を描くようにその横をすり抜け、次のアンガーエイプを斬り裂く。
他のモンスターは全部無視だ無視!
カルラのMPも限界がある、尽きる前に片を付けないとね!
そんな風に大立ち回りを繰り広げ、アンガーエイプを次々と切り倒していく。このまま順調に進んで行くと思ったけど……そう簡単に行くはずもなかった。
「っ!? 【木ノ葉舞】!」
「ピョォォォォッ!」
アンガーエイプの鳴き声ばかり傾聴していた私は、背後に迫っていたヒクイドリの攻撃に反応が遅れてしまった。
背中にヒットした直後、【木ノ葉舞】で何とか受け流したけど……私の低いVITでは大ダメージ。何より、急遽回避を取ったことによって私が頭の中で組んでいたチャートが崩れ始める。
「くっ……!」
私が移動した先にいたメガブルモスを、【クロワゼ・デリエール】で回避。そのまま【グラン・カブリオール】の大ジャンプで上空へ———
「ゴァァァァァッ!」
「っ!?」
一度体勢を整えようと空中に逃げたけど、私はそのモンスターの存在に気付いていなかった。
『デウス・ゴアトルス』———巨大なプテラノドンのような有翼系モンスターの嘴が、私の身体を捉えた。
これは無理っ、抜け出せない……っ!
ガリガリと削れるHPは、あと10秒程度で尽きるだろう。
ならせめて……!
「“黒く、深く、闇く、蒼穹覆う黒の迦楼羅天”———『鴉天狗』、起動!」
妖気解放を行い、『鴉天狗』モードへ。
私を咥える『デウス・ゴアトルス』の嘴を、喉を両手で掴み———空中を踏みしめて加速する!
「“妖仙流柔術”———【小夜嵐】!」
「ゴアァァァァッ!」
渾身の力を込めて下へ、『デウス・ゴアトルス』の巨体を叩きつける!
私の身体ごとだから、もはや逃げることは不可能だけど……だったらせめて他のモンスターも巻き込んでやる!
凄まじい勢いで投げられた『デウス・ゴアトルス』は、その巨体ゆえに多くのモンスターを巻き込みつつ、地面へと激突する。
轟音と赤いダメージエフェクトが周囲を覆う中、巻き込まれた私もHPが0となり、ポリゴンとなって消えていった———
お読みくださってありがとうございます。




