焦がれよ 熱烈なる"恋人"、その身朽ち果てるまで
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『レアモンスター: ランパード・カメレオン の討伐に成功!』
「ふぅ……あ、コメントに全然反応できなくてごめんね?」
・えぇ……
・そんな簡単にカメレオンって倒せるっけ
・カローナ様、音で回り見えちゃうからカメレオンが色変えても意味ないのよ
・武器捨てる判断がくっそ早かった
「でも、思ったより強かったイメージよ」
実際、私の武器の中で最高硬度を誇る『蟹剛金箍』で【旋舞打擲】を使い、それでもスタミナが枯渇する直前まで殴り続けてやっと討伐できたのだ。
全く見えなくなるほどのステルス性能。
『蟹剛金箍』の殴打を何十発と耐える耐久力。
舌を使った高速の遠距離攻撃。
要素だけ見れば、結構なクソモンスターだ。私みたいに『反響定位』が使えて、かつ序盤で毒を入れて行動を封じないと苦戦する相手だろう。
「レアモンスターの看板に偽りなしといったところかな。私は運が良かっただけだしね。自分から毒食べてくれたし」
・それでもなんだよなぁ
・こういう爽快なところがカローナ様の配信のいいところ
・でも集中すると喋らなくなるところは相変わらず
視聴者と簡単に会話しつつ、ポーションでスタミナを回復。手放した薙刀も拾い上げつつ、カメレオンが落としたドロップアイテムを……
「えっ?」
「ウキッ?」
同じドロップアイテムを拾おうとした私と、どこからか現れた猿型のモンスターとの手が重なる。
まさにそれはラブコメのワンシーンのようで、思わず手を引っ込めて頬を赤らめ———
「———んなわけないでしょ! それ私のよ!」
「ウキャキャキャキャキャキャッ!」
・セルフノリツッコミは草
・ドロップアイテムを奪われるww
・アンガーエイプじゃん
・早速仲間を呼ぶ猿
私の抵抗も空しく、アンガーエイプはカメレオンのドロップアイテムを拾い上げると、近くの樹へと駆け上がりけたたましい声を上げる。
アップルさん達と一度経験があるから分かるけど、これはアンガーエイプが仲間を呼ぶ際の鳴き声だ!
もう少しすれば、あの大群がやってくる。
HPは……満タン!
スタミナは……回復済み!
装備……回収完了!
「とりあえず、囲まれないところに移動するわ!」
カメレオンの素材をもって樹々の間を飛んで移動するアンガーエイプを追いかけつつ、戦いに適した場所を探す。さすがに後ろからも狙われたら対処できないからね!
しかし……ドロップアイテムを奪うかね、普通。
向こうが怒るよりも先に、こっちが怒り散らかすんだけど。
……はっ、だからアンガーエイプ?
・カローナ様が何か思いついた顔をしてる
・この顔の時は、たぶんくだらないことを考えてるとき
・もっと喋って
「あなた達、ちょっとディスってない?」
走ることしばらく、ちょうどよさそうな崖を発見した私は、そこを中心にバトルを展開することに決めた。
崖を背にすれば、後ろから不意打ちされることもないからね。
「【千手夢奏】!」
「「「キャキャキャキャッ!」」」
視界を覆う程に増えたアンガーエイプへ、薙刀を振るう。
目の前に迫った3匹を、『払』でまとめて両断。
【トゥール・アン・レール】の回転で攻撃を受け流し、そのままの勢いで斬り倒す。
前回よりも私のステータスも上がってるし、装備の性能も良くなっている。
サクサクと討伐できて結構楽なんだけど……何か変だ。
「「「「「ギャギャギャギャギャギャッ!!」」」」」
「っ……こいつら、死ぬのが怖くないの?」
ここまでの攻防で、私に近づけば切り倒されると分かるはず。それに、アンガーエイプは比較的頭のいいモンスターだ。にもかかわらず、アンガーエイプは仲間が死んでいくのも気に留めない様子で突撃を繰り返す。
まるで、何かに取り付かれているように……
「っ!?」
「ブモォォォォォッ!!」
突然上から迫ってきた咆哮に、私は咄嗟に回避行動を取る。
上から降ってきたのはメガブルモス。
かなりの勢いで落ちてきたメガブルモスは、回避した私に当たることなく地面へと激突し、その命を散らしてポリゴンと化した。
「待っ……嘘でしょ!?」
回避できたことに安心する暇もない。
メガブルモスが降ってきた崖の上を見上げれば、同じように身投げを始める複数のメガブルモスが居たのだから。
ここで確信した。
こいつらは何かに操られている。じゃないと、自ら飛び降りなんてしないから。
【レム・ビジョン】、【マキシーフォード】、【レール・アン・ドゥオール】、【ドゥヴァン・デブーレ】、【セカンドギア】、【セカンドウィンド】、【無重力機動】!
「———”黒く、闇く、深く、蒼窮覆う黒の迦楼羅天”———『鴉天狗』起動!」
ありったけのバフを掛け、上から降り注ぐメガブルモスの大群の隙間を縫って上へ。ただの自由落下程度の速度で、私に当たるわけない!
【無重力機動】によるベクトル変更に空中ジャンプ、時には落ちてくるメガブルモスを足場に崖を駆け上がる。
崖を登り切った私は【アストロスコープ】を使って辺りを睥睨する……までもなく、そこに広がる異様な光景に目を奪われた。
眼前に広がる、無数のモンスターの群れ。
アンガーエイプを始め、メガブルモス、ディニクス・バリオリウス……多種多様なモンスターが種族を越えて犇めきあっていた。
「なにこれ……」
・なにこれキモい
・あっ(察し)
そこにいたモンスター達は、全てが怪しい光を目に宿しており、明らかに正気ではない。
そしてその中央、モンスターの群れが殺到するその場所には、真っ赤に華やぐ巨大な一輪の花が咲き誇っていた。
『燃えよ 焦がれよ 熱烈なる恋人 その身朽ち果てるまで』
『アナザーモンスター: ネペンテス・アグロー——“恋人” が出現!』
『エクストラクエストアナザーストーリー: 恋人の誘惑が開始されます』
「なっ———」
アナウンスによって正体が明かされたと同時、ネペンテス・アグローから漂う甘い香りに包まれ———
・っ!?
・ちょっ
・カローナ様何して……
・戻ってきてぇ!
私の記憶は、そこで途切れた。
お読みくださってありがとうございます。




