病葉の舞う孤島 6
評価・ブックマークありがとうございます!
このクエストが終わった後の続きがまだまだ全然できていませんので、書くために更新頻度がさらに遅くなるかと思います。
すみません(_ _)
「いや、強すぎます……」
「マジでそれ。結構強い相手のはずなのに、一方的にボコボコじゃん……」
村人の避難を終えたアップルとオレンジが見たものは、危なげなく『呪われた亡者』を追い詰めるカローナの姿だった。
スピードで優位を取っているとはいえ、行動が次の行動に繋がり、流れるようにコンボを叩き込むその姿はまるで……
「格ゲーというより、詰め将棋だね」
「詰将棋?」
「あぁ、攻める手にある程度のパターンがありそうだなって」
アップルさんの呟きは的を射ていた。
『こう来たらこう返す』のさらに上、『こう返すしかない状態に陥れてこう詰ます』の連続はカローナが目指す戦闘スタイルの究極形であり、それ故に対人型の戦闘では無類の強さを発揮する。
それこそ予想外の挙動をしない限り、端から勝ち目などなかったのである。
そう、人型ではあり得ないような挙動をしない限りは。
♢♢♢♢
「Gyaoooooooo!!」
「っ!?」
空気を震わせるような咆哮に、思わず顔をしかめる。
と、同時。
ビキビキと何かが割れるような音と共に『呪われた亡者』の姿が変化していく。
二足歩行だった姿は四足歩行に。
全身を覆っていた黒紫の鱗のような外骨格が徐々に削げ落ち、代わりに背中に生える翼が肥大化していく。
翼が生えた狼というべきか。
よりシャープになった体は、先ほどまでよりもスピードがありそうだ。
「もしかして、私にスピード勝負を挑もうと?」
「Gyaoo!」
「おっ……!?」
ごめん、思ったより早かった!
一息に飛び込んできて、私の首に牙を突き立てんとする『呪われた亡者』を、反射的に【木ノ葉舞】で弾く。
が、完全に受け流しきれなかったのは、相手が思ったより早かった上予備モーションがかなり小さかったからだ。いや、【レム・ビジョン】があったら余裕だったかも。
体勢が完全に崩れていない『呪われた亡者』が振るった爪が、バックステップを踏む私の首を掠めて宙を斬り裂く。
……やけに私の首を狙ってくるわね。
ここが弱点だと分かっているのか、それとも何か別の目的があるのか。
私の首にあるものなんて、カグラ様に貰った鈴か、『禍ツ風纏』か……
それじゃね?
「ッ!!」
『禍ツ風纏』を首から外し、上へと投げ上げる。すると、予想通りに反応を示した『呪われた亡者』は、『禍ツ風纏』を奪わんと地面を蹴って飛び上がる。
が、
「私から目を離すのは悪手でしょ」
「Gyaoooo!?」
【旋舞打擲】!
無秩序に放たれたブリリアンドール・スイーパーの乱打が、『呪われた亡者』の身体を打ち据えて叩き落す。
なんで『禍ツ風纏』を狙っているかは知らないけど、折角カグラ様から貰ったものを渡すわけないでしょ!
弾き返した『呪われた亡者』が着地するのを見つつ、落下してきた『禍ツ風纏』をキャッチして装備、そのまま発動!
特殊強化状態『禍ツ風纏』となり、HPと引き換えに私の全ステータスは上昇する!
「Gyaaaaa!」
「ふっ!」
再び飛び掛かってくる『呪われた亡者』の懐へブリリアンドール・スイーパーを突き入れ、もう一端を地面に当て、てこの原理で後ろへ投げ飛ばす。
有効打が入ったため妖気ゲージが少し上昇し、たった今100%に到達。
いいや、ここでやっちゃおう!
「“黒く、深く、闇く、蒼穹覆う黒の迦楼羅天”———『鴉天狗』!」
口からはすらすら呪文が漏れ出すが、頭の中では【ウェーブスラッシュ】を発動。詠唱中に迫ろうとする『呪われた亡者』を突き放し、変身に要する時間を捻出。
そして、今回はそれだけではない。
右手で【ウェーブスラッシュ】を放つ間に、左手で開いたUIを操作し、装備を変更。
———それは、妖気解放状態でのみ装備可能な特殊装備。その名も———
「『妖仙之姫』シリーズ、初公開よ!」
・あっ、あっ
・あぁぁぁ!?
・巫女服!?
・カローナ様の巫女コスとか尊死……!
・腋! さらし!
コメントを見て、ちょっと恥ずかしくなる。
そうなのよね……この服、服の下がさらしになってるくせに、肩回りがっつり開いてるのよね。
動く度に脇もさらしもチラチラ見えてしまって、視聴者がまたおかしくならないか心配だ……いや、手遅れか。
上の服、袴、腕を覆う部分、靴下、髪飾りの5部位全てを合わせ、『妖仙之姫——戦舞装』という名称である。
ちなみにこれは、カグラ様からの贈り物。
プレイヤーメイドでは作れない、精巧なものとなっている。
落ち着いた朱色と白が鮮やかで、大昔の某有名シューティングゲームの『空を飛ぶ程度の能力』を持つ巫女さんと似た服だ。さすがにスカートではないし、髪飾りもリボンではないけどね。
「カローナさん!」
「おっと」
私がコメントに気を取られている間に、『呪われた亡者』は逃げ始めていたようだ。オレンジちゃんの呼ぶ声が響く頃には、すでに10m以上離れている。
なんて……私が悠長にその様子を眺めているのは、スピードで圧倒的優位に立っている自信があるからだ。各種バフによるステータスの上昇、『禍ツ風纏』、鴉天狗の解放。
そして———
白い煙のようなエフェクトと共に、【セカンドギア】の効果が切れる。けどそれは同時に、さらにもう一段階上のアビリティが使用可能となった合図。
【セカンドギア】を使ったからとて、それはまだ2速。当然3速もあるに決まっている!
「【サードギア】!」
「Gyao?」
次の瞬間、『呪われた亡者』の身体がふわりと宙を舞う。数十mの距離を一瞬で0にした私の【妖仙流棒術——風花】によるパリィ効果で、『呪われた亡者』の走る勢いを受け流したのだ。
『鴉天狗』の解放により妖仙流アビリティの使用制限が解除された私は、むしろここからが本番だ。
まぁ、相手が生きてたらだけどね?
「【妖仙流柔術———」
宙に浮く『呪われた亡者』の首を無造作に掴む。今回はあの時とは違う。再現版ではない、本物の———
「———小夜嵐】!」
それはかつて、梵天丸さんから初めてこの身で受けた『妖仙流』の技だ。あの時、訳も分からずにリスポーンした私の恐怖を味わうが良い!
一瞬の停止、直後の轟音。
まさに『瞬く間』と表現すべき刹那の間に地面へと叩きつけられた『呪われた亡者』は、断末魔を上げることなく砕け散る。
静けさが辺りを支配する。
地面が陥没し、砂煙が舞い、あまりの音に何が起こったのかと村人たちが家から顔を出して様子を窺う中……沈黙を破る人物が一人。
「よーっす、ようやくログインできた……って、もしかして終わった……?」
満を持して登場したのは、バイトが終わってたった今ログインしてきたグレープさんだった……!
お読みくださってありがとうございます。




