その翼に誇りを、その瞳に覇天の輝きを 39
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「おーっほっほっほっほっ! これは良い一撃が入りましたわ!」
『崩欲杖イシュタム』の効果によって何十倍にも威力が増大した【メテオ・ストライク】によって堕龍の翼を貫き、その光景に満足そうな高笑いを響かせるセレス。
「それにしても、ドラゴンさんの力はすごいのですわね。明らかに堕龍がダメージを受けていますもの」
・カローナちゃんの方の配信も見てるけどすごいよ
・イシュタム持ちセレスちゃんの魔法の威力もヤバいと思うけど
・とはいえまだまだ再生してるんだよなぁ
「ホントそれ、ですわ。いったいどれだけのリソースを溜め込んでいるのでしょう?」
赤いダメージエフェクトを浴びながら、上空を駆け回る4体のドラゴンとそれに乗る4人のプレイヤーに関心の表情を浮かべつつ、与えたダメージが見る見るうちに回復していく堕龍に辟易した表情を浮かべる。
コロコロと表情が変わってコミカルな雰囲気を作り出すのも、セレスの配信の良い所だ。
「『銀龍聖騎士団』のどなたか、私の周囲を固めてくださいまし! 次の魔法を使いますわ!」
「オッケー! けど、焼け石に水感ない?」
「いえいえ、私の攻撃が堕龍に通ったという事実が重要なのですわ」
空に向かって伸ばされたセレスの手に、堕龍から降りそそいだダメージエフェクトが集まりだす。
・!?
・なにそれ
・セレスちゃんの配信ちゃんと見てるけどそれは初めて見る
「皆様、私のサブ職業をご存じないですわよね?」
・言われてみれば確かに
・使う必要が無かったんじゃなくて?
「もちろんそれはありますわ。でも、なんだか高貴で清楚な私のイメージが崩れそうで……」
・高貴で清楚……?
・誰の話してるの?
・セレスちゃん、世の中には鏡っていう便利なものがあってね……自分の姿を映してくれるんだよ
「高貴でっ、清楚なっ、私っ、ですわっ!」
「セレスちゃん、ケンカしてる場合じゃないって」
「っと、ごめんあそばせ。この機会を逃す手はないですものね!」
セレスの手に現れたのは、ダメージエフェクトが固まってできた、堕龍を模した赤黒い人形。そして、『イシュタム』を地面に突き立てて空いた手に現れるのは、アビリティエフェクトでできた禍々しい釘。
高貴で清楚とは程遠い光景にツッコみのコメントが殺到する中、まったく意に介さないセレスは容赦なくアビリティを発動する。
———職業『暗黒呪術師』アビリティ———
『その翼、貰いますわね? 【禁断の呪術……サクリフィシオ】!』
「GyuoooooooooO!」
・っ!?
・なにそれ知らない!
・呪い!?
・セレスちゃんのサブジョブ呪術師!?
セレスが振り下ろした釘が、堕龍の左側の翼に突き刺さる。
直後、釘が刺さった側の翼の機能が停止した堕龍が、轟音と共に地面へと落下したのだ。
『暗黒呪術師』は、占術師系職業の上位職のうち、ダイヤモンドやルビーら『ジュエラーボックス』の面々が獲得している『輝石占術師』とは別の方向に進化した職業である。
自身の攻撃のダメージによって発生した相手のダメージエフェクトからデフォルメされた人形を作り出し、その人形を使って相手を呪う後衛型職業である。
セレスはステータスをかなりINTに振っており、メインで使っているウィザード系最上位職業『アークマギアス』の性能も相まってわざわざ相手にデバフを入れる必要が無かったのだ。
それに……
まるで空中に打ち付けられたかのようにセレスの目の前に浮いている堕龍人形の、釘が穿たれた部分から赤黒い血のようなエフェクトが滴る。耳を澄ませばこの世のものとは思えない唸り声がかすかに聞こえ、その発生源がその人形の中からということが分かる。
術者のセレス自身も、釘を打ち込んだ右手が赤黒いエフェクトを纏い、禍々しい雰囲気だ。
まぁ一言で言えば、可愛くないのだ。
赤黒い感じが血のように見えるし……配信的にも絵面が悪い。
この辺りが、セレスが今まで『暗黒呪術師』を使ってこなかった理由である。
「私が全力を出したんですもの。カローナ様、頼みますわよ?」
♢♢♢♢
「セレスちゃん呪術師だったん?」
・そうらしい
・セレスちゃん必死に『清楚です』って取り繕ってて草
・確かに意外ではあるけど、ゆうほど見てる側はイメージが……とかならんし
「セレスさんの魅力ってそこじゃないしねぇ……てかさ、今までサブ職業無しでやってたってことでしょ? エグすぎん?」
・セレスちゃんがというか、アークマギアスの魔法性能がたかすぎるんだよね
・使う必要がなかった感じかな
・呪術師って始動遅いしね
「なるほどね……やっぱデバフあると動きやすさが違うよね。私も呪術師やろうかな」
・カローナ様が呪術師?
・激烈に似合ってなくて草
・呪いかけるまでに我慢できなくて殴りだしそう
・脳筋のお姉ちゃんww
・つーか駄弁ってていいの?
「おい誰だ脳筋とか言ったやつ。それ言っていいのミカツキちゃんだけだから……っと、そうだった」
ボレちゃんにヘイト押しつけてたんだった。
そろそろ戦線復帰しないと怒っちゃうかな。
テーラベレトが生み出した宙に浮いている幾つもの巨岩の陰から身を乗り出し、そのまま空中に身を投げる。
龍装状態中の私は無限空中ジャンプが可能。たとえ紐無しバンジーでも怖くないのさ!
「ボレちゃんお待たせ!」
「遅いわ! この我を待たせるとはいい度胸だなカローナ、やつの翼を捥ぐよほどの策があるのだろう?」
「もちろん! ……気合で!」
・草
・やっぱり脳筋だった
・なにも考えてないやつの発言で草
ふと堕龍が纏うオーラが黄色へと変化し、発生した電位差によって私の髪がふわりと浮き始める。
【叫ブ空ノ慟哭】———
「ボレちゃん!」
「変な渾名で呼ぶなと言っておるだろうが! 【ディザスター・テンペスト】ォッ!」
上空を見上げたボレちゃんの口から放たれた翡翠色の旋風が、空を覆い尽くさんとしていた暗雲を吹き飛ばす。
私はそんなボレちゃんを狙う触手を弾き、斬り落とし……露払いを終えた私はそのまま堕龍の右翼へと狙いを定める。
「ボレちゃん、背中押して!」
「だからっ……ええい、行ってこいっ!」
ボレちゃんが大きな翼を一撃ち。
放たれる疾風が私の身体を弾き、最高のスタートを切った私は流星のようなスピードで堕龍へと肉薄する。
「ふっ……!」
正面からの触手を一歩で躱してその側面へと薙刀を突き立て、そこを起点に進行方向を調整。
【トゥール・アン・レール】起動!
ギュルッと前転して2本目の触手を回避、触手の表面を疾駆してさらに間合いを詰める。
【妖仙流棒術・細雪】で逸らし、【三手三棍】で叩き据え、作り出した隙間へと身体を捩じ込み———
「【兜割かち】!」
翡翠を纏う薙刀が堕龍の右翼の根本を捕らえ、ザックリと斬り裂いた。
とは言え巨大な相手だ。
一刀では切断までほど遠い。
「斬れるまで斬ればよかろうなのだ! ボレちゃんもう一回!」
「ふんっ!」
堕龍の右翼を斬りつけ、そのまま側を通過した私は、先回りしていたボレちゃんの姿を確認、彼が振り回した尻尾にタイミングを合わせて脚で受けて再び右翼へと肉薄する!
堕龍の右翼の根元を斬りつけた私は、再びボレちゃんの尻尾のフルスイングを受けて跳ね返り、堕龍の翼を狙う。何度も宙を跳ね返る私は、まるでスーパーボールだ。
「我の負担がデカくないか!?」
「私だって若干ダメージ受けてるんだから!」
あまり時間を掛け過ぎても、堕龍は徐々に再生してしまう。
そうならないように、再生速度を超える速度で攻撃し続けなければならないのだ。
「でもまだ足りない? いい加減目ぇ回ってきたんだけど」
「それだけ削れば十分だ! 【ヴィントホーゼ———」
「っ……!」
どうも新技らしいそれがチャージされるのを確認し、私は急いでボレちゃんの元へと戻る。
「私が戻ってくると、なんだかんだ言ってちゃんと背中に乗せてくれるボレちゃんってやっぱり優し———」
「———インフォース】!」
「ひぃぃぃっ!」
波○砲かよ!
SEとか光の感じとかが完全に主砲のそれなのよ!
ボレちゃんの口から放たれたレーザーは、周囲にソニックブームを撒き散らしながら一瞬で堕龍の右翼へと到達、私が削っていたことで脆くなったのだろう堕龍の右翼を軽々と貫く。
それだけでは終わらない。
「オォォォォァァァァァアッ!」
口から放つレーザーをそのままに、ボレアバラムは薙ぎ払うように首を振るう。
触れた部分から跡形もなく消滅させるそのレーザーが容赦なく堕龍を削り、数秒。
「GyuooooooooooooooooO!」
根元から切り離された翼が地面に落下し、轟音と共に砂埃を巻き上げる。
地上でプレイヤーが巻き込まれていないことを願うばかりだ。
「ボレちゃんナイス!」
「ふんっ……我の尻尾の代償だ。高くついたな」
地上の声は聞こえないけど、【アストロスコープ】で覗けば活気づいているようにも見える。
そりゃ、堕龍の片翼を落とすという明らかな大ダメージを与えたのだ。
盛り上がるのも無理はない。
そして、実際にバトルはクライマックスに突入したのだろう。
堕龍の慟哭に続き、天の声が響き渡る。
『アネックス・ファンタジアをプレイする全てのプレイヤーに———ザザッ———…………プレイヤー達よ、よく聞きなさい』
『———長い長い夢を見ている』
『星を拓かんと望むプレイヤーよ』
『鳥籠の中に覇天は在りません』
『目を覚ましなさい。そして、天に目を凝らしなさい』
『果たして、そこに在る空は真実ですか?』
『堕龍とは天災』
『堕龍とは虚無』
『そして、堕龍とは星の意思』
『天を覇するは、星の意思を超えることと知りなさい』
『緊急! 堕龍が虚無狂モードに移行!』
お読みくださってありがとうございます。