その翼に誇りを、その瞳に覇天の輝きを 28
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「いやー、死んだ死んだ」
・軽っww
・カローナ様でも避けきれない弾幕って……
・また時間かかりそうな相手だな
・配信始まる前からやってるのを考えると、そろそろ3時間?
「そうなるわね。こんなに長く連続配信することないから、さすがに疲れてきたわ……って愚痴こぼしたらダメか。視聴者さん達もまだまだついてきてくれます?」
・もちろん!
・四六時中見守ってるからよぉ……
・ストーカーかな?
「というか皆さんはアネファンやらないんですね? せっかくのスペリオルクエストなのに……」
・アネファン自体はやってるけど弱くてなぁ
・V配信者に鼻の下伸ばしてる俺らがあんなの相手に活躍できるわけないだろ
・他のプレイヤーと協力とか、考えただけでもゲロ吐くわ
「……なんかごめん」
鬼幻城の一室にリスポーンした私は、休憩がてらコメント欄に返事を返す。
リスポーン地点の登録が鬼幻城になってるから、またここから堕龍のところまで移動するのを考えると……あれ? 鬼幻城って、マップでいうとどの辺りにあるんだろう?
そう思って視聴者さん達と雑談しても、マップ上には表示されていないらしい。
こりゃまた何か設定がありそうだ。
ここに住んでる妖怪に聞いたら何か分かるかな?
とも思ったけど、不思議なことに、今鬼幻城には誰も居なさそう。
梵天丸さんか、カグラ様の代わりの誰かがいてもいいんだけど……
まぁいいや。
考察するのそんなに得意ではないし、とりあえずカルラが来るまで待って、向こうに戻ったらカグラ様にでも聞いてみようかな。
それからおよそ数分後、帰ってきたカルラと一緒に【アーレス】まで座標転移し、『アーカイブ』のクラン拠点へと戻った私は、待っていたジョセフに出迎えられた。
「ご苦労。例のものはどうだったかね?」
「なんとか回収できたわよ。はいこれ」
「大変結構。少し休んで欲しい……と言いたいところだが、新たな問題が発生した」
「えぇ……今度は何なの」
「『ファフロツキーズ』という現象をご存知かね?」
「え? まぁ知ってるけど、それがどうかしたの?」
『ファフロツキーズ』とは確か、通常ではあり得ないものが空から降ってくる怪奇現象のことだ。
世界の至るところで魚だったりカエルだったり……中では生肉が降ってきたなんて話もある。
でもそれになんの関係が……いや、まさか。
「それも堕龍の『天候操作』の範囲内……?」
「そのまさかだよ。カローナ君が石像を奪取したと思われるタイミングでアナウンスがあってね。堕龍のモードチェンジと共に、広範囲にモンスターの雨を降らせ始めたのだ」
「えぇ……」
窓から外を眺めると、確かにモンスターが空から降ってきていた。
大きさはプレイヤーより少し小さいぐらいか。
色々な生物のパーツをぐちゃぐちゃに引きちぎって繋ぎ合わせたかのような歪な姿は、小型の堕龍といった様子だろう。
そんなモンスターが、さすがに雨粒ほどの密度とはいかないものの、参戦しているプレイヤーの数を越えそうなほどひしめいている。
「それが問題の一つ目」
「まだあるの?」
「無論。二つ目は、この雨の範囲が広いこと。すでに【アーレス】の街中に到達したモンスターも確認した」
「……ということは、そこに住んでるNPCもピンチ?」
「そういうことだな。幸い降ってきているモンスターはさほど強くはない。街の衛兵NPCでも対応は可能だが……数が多くなるとどうなるか」
「助けて~、カグラえも~ん」
「っふ、情けない声を出すでないわ」
・草
・の○太くんきた!
・困ったときのカグラえもん
・カグラ様を笑わせるとは
・カローナ様とカグラちゃんって仲いいよね
・むしろカグラ様がカローナ様のこと好きなんじゃね
・百合展開来た?
「さすがに妾だけであれをどうにかするのは無理じゃな」
「そんなぁ」
「だが、手を貸すことはできるかの」
え、マジ?
冗談半分で言ってみただけなのに、ホントに手を貸してくれるなんて。
自分で言っておいて、なんだか悪い気がしてきた。
「でもどうやって? カグラ様は堕龍を何ともできないって……」
「何、妾が直接手を出さなくてもやりようはある。それに……そろそろ『逢魔ヶ時』じゃからの、言ったじゃろう? 我ら妖怪にも、あ奴を殴る権利があると」
日が沈み、夜の帳が降り始めた空を見て、カグラ様がニヤリと口元を歪めた。
『逢魔ヶ時』———もともとは『魔物に出会う危険がある怪しげな時間帯』という意味がある。今ほど科学が発展しておらず、幽霊や妖怪が信じられていた頃から使われている言葉だ。
凶兆を示すその古語は、今現在に至っては風流を表す言葉でしかない。
しかしここは『アネファン』の世界で、カグラ様がこの場に存在するように妖怪も存在するのだ。
であれば『逢魔ヶ時』とは、現世と幽世が重なり———妖怪たちが跋扈する魔の時間となる。
「『万の鬼が行く逢魔ヶ時』とは誇張表現じゃが。万とまではいかなくとも、百の鬼が行く夜じゃ。“開け、幽世の門”よ」
カグラ様のその言葉と共に、カグラ様の後ろに悍ましい雰囲気の扉が現れる。
突然の事態にその場にいる全員が後ずさりする中、その扉がゆっくりと開かれていく。
漏れ出すのは、強烈な威圧感。
この世のものではないそのプレッシャーに気圧され、全員が冷や汗を垂らす中、扉から現れたのは———
「ようやく吾輩の出番か、待ちくたびれたのである」
「いや、あんたかよ!」
———梵天丸さんだった。
すごいプレッシャーだからどんなヤバい妖怪が現れるかと思ったら、まさかの顔見知りと言うね。期待して損した。
しかし、出てくるのはもちろん一人ではない。
文字通りの『百鬼夜行』なのだ。
梵天丸さんにも引けを取らないオーラを放つ大妖怪たちが次々と扉の向こうから現れる。
そして最後の一人、純白の毛並みを持つふわふわな尻尾と狐耳が美しい麗人が現れたところで、ようやく扉が閉まり消えていった。
人も、人ならざる者も、等しく入り乱れる逢魔ヶ時。
奪われし空を求め、その翼に誇りを。
目指すは覇天。根堅洲國の使者は、氷輪の下にて跋扈する。
カグラ率いる大妖怪99人と《名誉妖怪》であるカローナ合わせ、総勢100人。
『百鬼夜行』、ここに成就す。
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