第13話
「あなたが私の婚約者ですか、お兄様」
俺は、急なお兄様呼ばわりに戸惑うしかなかった。え?初対面だよね?初対面の相手をお兄様って…。人懐っこいのか?
「お、お兄様って俺のことか?俺はレント・アルグリア。一応、よろしく。君がこの国の王女様なのか?」
すると、俺に向かって王女の傍にいた護衛らしき女性が怒鳴りつけた。
「貴様、ナツメ様に向かって君とは何様のつもりだ!いくら婚約者になる者とはいえど、入籍していないうちからの無礼は万死に値するぞ」
「モノカ、いいんですよ。私の婚約者を殺しちゃダメですからね」
「いえ、冗談ですよ。あまり図に乗らないように軽く脅した程度ですから」
俺は一瞬、本当に殺されるんじゃないかとひやひやしたが、途中からよく考えると殺されるのを免れて追放されればアリスに会うことができるんじゃないかと考えて期待していたが、冗談だと聞いて正直ガッカリした。
「すみません、私の従者が。申し遅れましたが、私はナツメ・ネロク=アカシマ。第18代目の王女になります。不束者ですが、何卒よろしくお願いします」
彼女はそう言って微笑んだ。確かに、王族の娘というだけあって容姿はカンペキ。俺よりも年下みたいだが…。俺は決して屈しはしない。早くこの縁談をへし折ってアリスに逢いに行くという崇高な使命が俺にはある。
「それで、ナツメだっけ?俺と何か話しておきたいこととかはあるか?」
「そ、それなら一度中庭に行きましょう。今すぐお茶とお菓子を用意させるので、少しお待ちください」
そう言って、彼女は慌ただしくもと来た道を戻っていった。モノカと呼ばれた従者の女性もそれに続いて去っていった。
俺、本当にこのまま結婚づることになるのか?夢の中に現れた愛梨沙と約束したよな?アリスを幸せにするって。告白もしたし…、けど、やっぱりファーストキスをティアに盗られたことにまだ少し納得できない。
俺は一体、この先どうなっちまうんだぁぁぁぁぁ!?
「あ、あの…、大丈夫ですか」
心の動きが体の動きに表れていたのか、ナツメが心配そうに声をかけてきた。
「ああ、大丈夫です。それで、中庭に移動するんだっけ?」
「はい、そうです。こちらへ…」
俺がナツメについて行くと、そこには巨大な噴水と綺麗な花畑の広がる広大な中庭。…中庭?が現れた。
「あの、こちらにお座りください」
俺はナツメと向き合う形で屋根の下にあった1つの丸テーブルを囲んだ。
「あの、ちょっと質問したいことがあるんだけどいいかな?」
「あ、どうぞ」
「さっき俺のことをお兄様って呼んでたけど、俺こう見えてまだ12だよ!?明後日で13だけど。今、君っていくつなの?」
すると、またもや従者が腰に携えた剣を抜刀して俺を睨んだ。
「貴様!!ナツメ様にお兄様と呼んで頂けることはこの世界のどんな宝よりも尊く、そして感謝すべきことだぞ!それだけでは飽き足らず、ナツメ様の歳を聞き出そうとは…。婚約者だろうが何だろうが、貴様はやはり万死に値するぞ!しかし、ナツメ様から貴様を殺すなと命令が出ているから殺さないでやる。ナツメ様を一生敬い、崇拝し、感謝し続けることだ」
正直、この従者めんどくさい。何で容赦しちゃうかな。そこまで言うなら早いところ国から追放してくれよ。
「質問にお答えしますと、私は17歳です。意外、ですよね。どうしても初対面の人からは魔法学校や冒険者学校に通っている歳だと勘違いされやすいので慣れています」
まさかのアリスよりも年上!?これが、いわゆるロリバ…失敬、ロリお姉さまか。
「私があなたをお兄様と呼びたかったのはですね、その、い、異世界から来たと言っていた人から聞いた面白い物語から由来するんです。私、実は冒険譚が大好きでして、この世界とは違う異世界のものが特に。その物語に出てくる女王様は主人公の少年と結婚することはなかったんですが、主人公はちょっと異常人でしたが王女様のことを溺愛していましたし、王女様も主人公のことを慕っていました。私は、もしもその2人が結婚していたらと妄想する時間が一番幸せです。私は、あなたとその妄想の2人のようにラ、ラブラブになりたくて…」
うん。もしも俺が鋼の意志を持っていなかったとしよう。きっと俺はこの娘のことを好きになっていただろう。顔を真っ赤にしながら俯き気味に、そして時々目を合わせて来ようとするその話し方、ちょっとヲタクっぽいところを吐露しているにも関わらずその可憐で、華奢で、愛らしい振る舞い…。俺でもちょっと揺らいでしまったレベルだ、きっと今までも俺以外の男を何人射止めてきただろう。…こんなことを考えてると愛梨沙に祟られるんじゃ!?
「そうですか。俺はあなたのことをナツメさんと呼べばいいですか?」
「いえ、ナツメと呼び捨てにしてください。それと、ここには無理やり連れて来られたでしょうけど、お兄様に好きな方はいたんですか?」
「…はい。前世と今世に1人ずつ」
「前世!?もしかして、お兄様も転生者なんですか!?…詳しく」
俺はアリスとのこと、愛梨沙とのこと、俺がどう転生してきたか等々を日が沈むまで話し続けた。




