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恋なんて知らなかった 【前編】  作者: 湯川 柴葉
第一章 ある日突然
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第5話 理論派の天野さん

毎日2話投稿予定(午前3時と午後3時に1話ずつ)

 理論派を自称する天野さんの説明は続く。細かい説明は要らないのに。詳しい理由も要らないのに。まあ、分かり易いと言えば、分かり易いのかも知れないけどね。


 不倫の定義みたいな話のあと、また、好きか嫌いかの話に戻った。好きか嫌いかの判別は本能でするというのだ。


「だからね、女は子宮で考えるとか言われるけど、別に子宮じゃなくていいのよ。これはね、相手の男の子供を産みたいと思うか? という女性の持っている本能的な選別能力と言ってもいいかも知れない。もう、今の時代に、そんな能力があるのかは疑問だけどねぇ。ともあれ、本能的な感覚で、どう感じるのかが、今の時点では大切なの」


「本能的な感覚?」


「そう! つまりね、抱かれたいと思うか? いや、あんたのレベルに合わせてもっと初歩的な表現をすると、その男に抱き締められたいか? ということ」


 おお! ストレートな表現! うん! それなら何となく分かる気がする!

「あ、それなら、抱き締められたいと思いません! ……むしろ、気持ち悪いかも」

「あんた、今、僕の顔見て言うたじゃろ?」

「え? いやいや、違います! ……って、……見てました……。けど、これ天野さんのことは片隅にもありませんでしたから、安心してください! あれ? 安心してはおかしいか?」


 だって、近藤先生は、今、ここにいないのだから、仕方ないじゃない! なんで、ここで突っ込むのよ!

「あはは、分かっとるわ。ちょっとからかってみただけじゃ」と天野さんは面白そうに笑う。


 ふー、油断も隙もないわね、この人は。

 

「要するに、好きでも嫌いでもないけど、抱きしめられたらと想像するなら気持ち悪いと感じる。……ということじゃな?」

「そうね」

「言うとくけど、好きでないのに抱き締められると想像したら、普通は気持ち悪いと思うけどな、純真な女の子は。……あんたの歳だとどう思うのかは、男性経験の差が影響するかな」

「なんて言い方をするのよ。……でも、そうかも知れないわね」

「つまり、好きじゃないと強調したかったのね」

「別に強調したかった訳じゃないわよ。……まあ、嫌いでもない。だって、良く知らないもの」

「それでいい。そういう答えが聞きたかったんじゃ」


 なるほど、これで、私の心がしっかり見えたということで、あとは対処方法よね。それを聞きたいから相談したのだもの。


「それで、私はどう対処したらいいの?」


「慌てるな。その前に、さっき彼のことをヤリ手やなぁと言ったでしょ? その説明をしておこう。――お茶のお替わりちょうだい」


 う~ん、まだ、前提となる話が続くのか? 天野さんが何を考えて質問したり説明したりしているのか、皆目分からない。

 これが、対処方法を決めるために必要なことなの? 私、少し疲れてきたかも知れない。天野さんの頭の中では繋がってるのだろうから、まあ、大人しく拝聴しておくことにする。


 ヤリ手という意味は、あの先生が帰り際に言った、私が焦ったあの一言「好き」を含む表現についてだった。

 シャーロック・ホームズが帰り際に振り返って、さりげなく質問する、あの手口と同じだというのだ。なるほど、そう言われてみると、確かにそうだ!

 仕事の話が済んで帰るときだから、こちらが無防備になった瞬間、とんでもない発言をしたから、私はパニックになってしまったのだ!


「普通に突然言われても驚く内容には違いないけど、言うだけ言って、さっと姿を消されると、『今のは何?』って驚くから印象は強くなるよね」

「はい! もういないのに、おろおろしてしまった」


「でね、これには、ドッキリ以外に、もう1つの効果があるのよ。まあ、効果という単語を使っていいのかは微妙だけど。このやり方そのものが、別の意味を持っていると言ったほうがいいのかも知れないのだけど、何か分かる?」


 え?そんなハイテクニックな口説き文句だったの?

「……うーん、分かりません」

「そうだよねぇ。だからこそ、どう対応したらいいのか悩むことになったのだと思うよ。結論は出ているにもかかわらずね」


 天野さん、いつの間にか岡山弁じゃなくて、標準語風になってる。


「このパターンは、もし君に振られても、冗談として誤魔化すことができるわけなのよ。例えば、『あ、ごめん! 紛らわしい表現して誤解させてしまったね。愛してるとかそんな意味じゃなくて、美人だと言いたかっただけ。お話できて楽しかった、というような意味合いだから、気にしないでね。別に交際してくれとかそういうのじゃないから安心して』と誤魔化すことができてしまう。つまり、逆の立場から考えると、返事に困る。対応し難いのよ」


 なるほど! そんなことになるのか!

 つまり、『私も好きです』と答えれば成功だし、断られても自分が傷つかないように誤魔化せる。あっ、そもそも断られないのよね? 求愛してないもの。――それって、ダメ元発言?

 だから、一方的に言って、ニコニコしながら、さっと出ていったのか!


 恐るべし! 中年男!


 天野さんは、あっという間に全容を解析して詳しく教えてくれた。この先輩、ひょっとして人畜無害みたいな雰囲気なのに、プレイボーイなのかしらん? 毒牙にかからないように気を付けなくっちゃ。――「あっという間に」っておかしいわよね。だって、説明が長かったからねぇ。


「なんか変な顔してるなぁ。何を考えてるのかな?」


 え? 心を読まれてないよね?


「あ?! え~と、騙されないように気を付けよう! って、考えてた」

 ――そのまま正直に言ったよ。誰って言ってないもの。

「まさか、僕のことを言ってるんじゃないよね?」

「えっ? 違いますよ! ……う~ん、含まれるかも、テヘヘ」

「ひどい奴じゃ! こんなに優しい男なのに。……では、ここまでを整理して纏めてみるかね」

「はい、お願いします」


「つまり、詩織さんとしては断りたい。そもそも、不倫になるから対象外だし、好きか嫌いかと言われれば、気持ち悪いと思うほう」

「そうです!」

「相手は、突然、紛らわしい言い方をして好意を伝えて慌てさせ、詩織さんの心を揺さぶってきた」

「はい」

「職場の同僚というか上役みたいな立場の人に下手な対応はし(にく)いから、どうやって穏便に消火するかを教えて欲しい」

「そのとおりです! 教えてください!」

 やっと、ここまで辿り着けた。長かったなぁ。疲れた。早く教えてください!



読んで頂きましてありがとうございます。


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