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恋なんて知らなかった 【前編】  作者: 湯川 柴葉
第五章 お姫様願望
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第46話 研究会の終結

毎日2話投稿予定(午前3時と午後3時に1話ずつ)

 火曜日の午後、いつものように近藤先生が研究室に来られて、院生たちと打ち合わせをしていた。そして、みんなが私の方を向いたと同時に近藤先生が立ち上がって、私の机までやってきた。


「先生、研究会は本日を持ちまして完了させて頂きました。色々と長い間ご協力いただきましてありがとうございました」

 近藤先生が挨拶されたので、私も立ち上がって挨拶を返した。そして、話ながら院生たちの打ち合わせデスクのほうに歩いて行った。

「お疲れ様でした。私は殆ど何もしなかったのですが、問題点は解決できましたでしょうか?」

「はい、流石は院生のみなさん、良く勉強していて、たくさん教えていただきました」

 

 院生の一人が「私たちも集中して論文を読んで整理できたので、いい勉強になりました。こういう機会を頂けて近藤先生にも感謝します」と挨拶。

「これは、どこかで必ず目を通しておかなければならない文献ですから、いい機会になりましたね」と纏めておいた。

 近藤先生がにこにこしながら私に聞いてきた。

「それでですね、矢野先生。打ち上げに、私からの(ササ)やかなお礼として、ケーキを皆さんにご馳走したいのですが、宜しいでしょうか?」

 院生たちが目を輝かして私をじっと見つめる。こんな顔されて否定なんてできるはずがない。

「近藤先生のお得意なケーキですね。ありがとうございます。……これからですか?」


「はい! 私たちがこれから買ってきま~す!」

 と数人が挙手した。

「矢野先生も、今日はご一緒に如何ですか?」

 近藤先生が私に聞く。

「じゃ、今日はご馳走になりますかね。私は何もしてないですけれどねぇ」

 私はにこやかにほほ笑んだ。

 近藤先生が買い物に行く院生にお金を渡して「好きなケーキを適当に」と言っていた。


 ケーキを買いに行った院生たちが戻ってくるまで、近藤先生と講習会の件について話をした。


「サンプルデータは金曜日に渡しておきました。それとお礼の食事会についても伝えておきました。要らないと言ってたのですが、それでは近藤先生が困るからと言って了解してもらっておきましたよ」

 少し恩着せがましく言っておいた。みんなの前で言うほうが誤解されにくいだろう。

「おお、助かりました。ありがとうございます。まあ、大分先のことになるのでしょうけどね」

 近藤先生が頭を下げてくれた。

「時期は分からないですけど、どこかで時間を作って作成するとか。USBを見て分からないところがあったら電話してくるそうです」

「データが上手くできてたらいいのですけどね」

「先生の作られたデータですから、大丈夫でしょう」


「講習会は3時間ですよね? 3時間となれば、火曜日か木曜日がいいですけどねぇ」

 近藤先生が、スケジュールについて聞いてきた。

「じゃ、参加する学生たちのスケジュールもあると思うので、時間調整は貴方たちに任せるわ」

 と院生に振っておいた。

 予め予定を組んでおけば、天野さんは何とかなるらしい。美人秘書の結心さんの予定は、何とかなるわよね。


 やがてケーキを抱えた院生たちが戻ってきた。誰かがコーヒーを淹れに立ち、机の上も片付けられた。

 いつもの賑やかな雑談風景になったのだが、近藤先生の嬉しそうな顔と言ったら、例えようもない程だった。

 それはそうだろう。十数人の女子学生に囲まれて、その上高嶺の花の私も座っているのだから、至福の時と言って良いはずだ。


「詩織先生、講習会には申し込んでないのですが、まだ参加させていただけるのでしょうか?」

 と院生の一人が質問した。

「大丈夫みたいですよ。先方の方針としては、プロジェクターを使って授業形式で講習会をしてくださるそうですから、制限はないでしょう」

「今、矢野ゼミ関係は結局12名になっています。近藤ゼミも13名です」

 纏め役の子が答えた。

「矢野先生、人数が結構増えましたので講義室を使用したいと思っていますけれど、それならもう少し他の人たちの希望も聞いてみますか?」

 と近藤先生。

「そもそも簡単な非公式の講習会ですので、天野さんの了解も必要でしょうし、学校の許可も必要になりませんか?」

 私は逆に質問した。

「そうですねぇ。先生の仰るとおりですねぇ。学校の許可は私が取り付けますけれども、無償の好意でお願いする講習会ですものねぇ」

 近藤先生が悩む。

「ですから、今回は、私たちだけでやりませんか? その後で、必要ならばきちんと正式な依頼をするほうがいいかと思います」

 私は結論を言った。

「わかりました。それでは、私たちの院生だけを対象ということにしましょう。先走りして申し訳ありませんでした」

 近藤先生が謝ってくれた。


 私がピシャリと筋論で結論を出して、近藤先生がサッと従ったのを見て、院生たちが一瞬静かになった。うん、これでいい。私が優位になってる。


「ところで、詩織先生、その天野さんて彼氏なんですか?」

 また院生が懲りもせずに聞いてくる。

「ノーコメントと言ったでしょ? あのねぇ、貴方たち、男性を見たら直ぐにそういう勘繰りを入れるのは止めなさいね」

 笑いながら睨んでおいた。この注意の仕方が難しいのだ。怖い顔をして同じセリフを言うのとは雰囲気が変わってくる。私だって気を使うのよ。

「そうそう、プライバシーだからね」

 近藤先生が私に援護射撃の積もりなのか言葉を添えた。


「近藤先生、その言い方もおかしいですよ。変な誤解を与える言い方になります。訂正して戴けませんか?」

 近藤先生にも注意する。

「え? これ、不味い表現なのですか?」

 近藤先生が慌てた。

「その言い方は、『質問に回答しない理由がプライバシーに該当する』という印象を与えます。すると、暗に彼氏だと言ったことになる可能性があります。だから、セクハラに該当するのではないですか?」

「申し訳ありませんでした! 訂正します。そういう類の質問は安易にしないようにしてください。……これでいいでしょうか?」

 近藤先生が恐縮して訂正。


「あはは、いいですよ。質問したのは私の院生ですから、あの質問そのものはセクハラとは解釈してないのです。そこに、男性の近藤先生が突っ込みを入れたからおかしくなったのですよ。男性にはピンとこないかも知れませんが、難しいですよねぇ」

「いや、無自覚な発言でした。なかなか難しいですねぇ」

 近藤先生がしきりに汗を拭いていた。

 院生たちは、私が次々と理論派で有名な近藤先生をやり込めていくので、驚いていた。近藤先生が可哀相に思ってしまったけど、ちょっと楽しい。

 でも、ケーキをご馳走してくれた先生を虐めたままでは拙いから、少し持ち上げておかないといけないわね。


「ところで近藤先生、あの研究は何に使われたのですか?」

 とにこやかに質問してあげた。

「ああ、実は、学科全体を見渡した環境を考えてみようかと思って、勉強してみたのです。いや、俄か勉強では学生たちのレベルに簡単には追いつけないことが分かりました」

 近藤先生が、ここでも汗を拭う。――ありゃ、質問の仕方を間違えたかも?


「そうですか。色々とご配慮下さいましてありがとうございます。それで、アクセスにも言及されたのですね?」

「いえ、思い付きのようなことで恐縮です」

 近藤先生は汗を拭いっぱなしになってる。

「とんでもないです。こちらこそありがとうございます」

 私は頭を下げておいた。もうここまでで止めておこう。



読んで頂きましてありがとうございます。


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