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恋なんて知らなかった 【前編】  作者: 湯川 柴葉
第五章 お姫様願望
45/50

第45話 気持ちの整理と決断

毎日2話投稿予定(午前3時と午後3時に1話ずつ)

 大切なことだから、急に心が変わったとか固まったとか、もう一度しっかり心の内を見直しておこうということになった。

 天野さんが、優しく私を諭すように言って、傍で、結心さんも心配そうに頷いていた。


「もちろん詩織さんは子供じゃないのだから、僕らが口を挟むことではないと分かった上での話。ある意味急激な心の変化があった場合は見直して確認しておくのが望ましい。お節介なことかも知れないけどね」

 天野さんも、これだけ面倒掛けているのに見捨てず心配してくれているのがひしひしと伝わる。

「少しずつ心が傾いているなぁとは気が付いてたんだよ、私たち。でも、覚悟まで決めたと言われると、一応確認しとかないとね。私のことは置いといて」

 結心さんも、心配してくれているのが分かるから、その優しさが嬉しい。

「ありがとう。私も気が付いたのは昨夜のことで、今日の夕方前に近藤先生と話をしたあと心が固まったような感じだから、確認してくれると嬉しい」

 私も素直にお節介を有難いと思った。


「まず、徐々に気持ちが変わっていったことは、彼の計画どおりであることを認めなくてはならない。彼を褒めていいよね」

「私が言うのもなんだけど、そうなのよ。悔しいと思いつつ、認めてしまった」

「そうだよねぇ、鼻っ柱の強いクソ生意気な女を、美人だというだけで口説くかねぇ」

 天野さんの毒舌。

「え? そこまで言う? 本人の前で」

 私は抵抗する。

「本人の前だから言うのよ。お高く留まっている高嶺の花みたいなのに普通は手を出さない」

 天野さん、褒めてるの? けなしてるの?


「あら? 私は美人に入らないの?」

 ほら来た! これ、結心さんが漫才に参入してくるパターンなのよ。

「結心さんは美人で可愛いからね。意気投合したのだから、ノーカウントなの」

 天野さん、切り返しも上手い。

「あっそうか! じゃ、いいのね」

 結心さんはあっさりと引いた。珍しい。


「それと、もう1つ忘れてはならないことがある。それは、彼は学生の人気が高いこと」

 天野さん。

「え? それ関係あるの?」

 私は理解できない。

「プライドの高い詩織さんなのだから、人気が悪い人は相手にしない確率が高い」

 ん? 天野さん、これ褒めてる? けなしてる?

「なるほどなぁ……自尊心を満足させてくれたのか?」

 結心さんまで乗ってくる。


「そうかも知れないけど、彼の人当たりがいいとか、丁寧で優しいとかも感じたからよ」

 何だか近藤先生の肩を持つ私。

「あはは、そうなのよ。だからこそ、警戒感が薄らいできたわけなのよね?」

 天野さんは分かってたのだ。

「そういうわけで、好きになる下地は出来つつあったんじゃなぁ」

 結心さんも同調してくれた。

「まあ、彼の人柄は心配なさそうという感じだから、そこはいいよね?」

 と天野さん。

「うん」

 結心さんと私が合唱した。気が合うって素晴らしい!


「それで、ここからが本題なんだけど、彼も僕と同じ既婚者ということ。さっき、不倫になることも覚悟したと言ったよね、そこはどうなの?」

「そこなのよねぇ。でも、この前も話したけど、私たちが恋愛しようとすると、不倫になる確率は高くなってしまう。そこは仕方ないとしても、倫理観というか相手の奥様に申し訳ないと思わざるを得ない。だから、結心さんが言ってたように、もしもの時は迷惑を掛けないように別れる覚悟を持つしかないと思っているわ、私も。その覚悟をしたと言ったのよ、さっき」

 と私の気持ちを表明した。

「でも、まだ彼を凄く好きになったわけじゃないでしょ? 本当に好きになってから別れを決断するって難しいことだよ」

 天野さんが私の決心を試す。

「そう言われると、今の段階では何も言えないけど、それを決断する覚悟を含めて決めたの」

 私も揺るがぬ気持ちを決意表明した。


「きっと、家族が亡くなったときよりも辛いし悲しいよ。だから今の決意が本物なら、日記でもなんでもいいから記録して、その時に読み返すことができるようにしておいたほうがいいと思う。それほどの辛さだと覚悟するべきだ」

 天野さんは厳しい。

「それ、私にも言ってるのよねぇ」

 結心さんがしみじみと言った。

「君は既に決断してくれた。今更、それを確認する必要なんてない。僕は、その時が来ないよう必死に努力する。僕だって、別れは辛い」

「うん、ありがとう」

 結心さんは天野さんの手をぎゅうっと握り、彼の目を見詰めた。


「実はね、僕も東京にいたころ、色々な事情で彼女と別れることになってね。車で彼女の自宅まで送っていって、彼女がこちらをずっと見送ってくれていたのをルームミラーで確認すると、涙が溢れてきて運転をできなくなって暫く車を止めて泣いていた経験がある。どちらも好きなまま別れたのだから辛かったよ」

 天野さんの過去が1つ暴露された。まあ、天野さんは、そういう経験をたくさんしているのだろうな。――それ、自業自得って言うんだよ。


「まあ、恋愛と言うものは楽しくて幸せな反面、悲しくて辛いこともあるんだと、詩織さんも覚悟しておいてね」

 と天野節。

「はい」

 私は素直に返事をした。


「さて、そうすると、覚悟を決めてから好きになるかどうかを考えるということだが、それはいいとしてどうやって付き合い始めるの?」

 天野さんが次の難問を問いかけてくる。


「あのね、私は、自分からは積極的に近付く積もりはないのよ。放っておいても、あちらからあの手この手で言い寄ってくると思うのよね」

「凄い自信じゃなぁ! 流石、高嶺の花と自負するだけのことはある。優位性を保つ為の恋の駆け引きなんじゃな?」

「当然よ。あれだけ計画的に口説かれて、その通りになっているのよ。その上こちらから言い寄るなんて死んでもしないわ」

「そうだ! お姫様モードなのだ!」

 結心さんが気勢を上げる。


「要するに、口説かれてあげるのね?」

「高嶺の花を口説くのは簡単じゃないのよ。だって彼は世間の常識から考えたら妻帯者よ?  普通なら口説けない立場なんだから」

「確かにそうだ」

「美女と野獣って言葉があるけど、あれはきっと、高嶺の花には誰も寄り付きにくいのに、馬鹿な野獣が口説いたら成功したという事例よ」

「わはは、確かに、そうとしか思えない」

 天野さんが笑い、みんなで笑ってしまった。「あの先生は野獣なんか」と。


「それでね、そうやって、少しずつ口説かれていく中で、少しずつ教育していくのよ。私の思うようになって貰うの」

「おお怖いわ、高嶺の花は」

 天野さんがお道化(どけ)てみせた。

「それが、優位を保ちながら恋愛する私の方針なのよ」

「男性と付き合った経験がない女性の台詞とは、とても思えない。……貢物が必要ですか? 姫様」

「私に尽くしてくれたら良いわ」

 


「そういえば、近藤先生が『ご馳走するから4人で食事に行こう』って言ってたよ」

「それ貢物なんか?」

 天野さんが笑う。

「これは講習会のお礼。そもそも彼が頼んできたことだもの、当然よ」


「まあ、僕たちはご馳走して貰うよりも、二人だけのデートで食事したほうが楽しいけどなぁ」

「うん、私もそうだよ。でも、詩織さんが前に進むためには、その儀式がきっかけとして必要かも知れないねぇ」

 結心さんは優しい。

「じゃ、詩織さんのために行ってやるかね?」

「そうだね、仕方ないからね」


 もう、この二人はこうやって遊ぶのが好きなのだから、この際我慢しよう。



読んで頂きましてありがとうございます。


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