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恋なんて知らなかった 【前編】  作者: 湯川 柴葉
第五章 お姫様願望
43/50

第43話 緊急会議で心の整理

毎日2話投稿予定(午前3時と午後3時に1話ずつ)

 天野さんと結心さんが手を繋いでやってきた。まあ、実際は手を繋いでなかったのだけど、私の目には手を繋いでるように見えたのよ。

 いつものとおり、コーヒーを、結心さんが天野さんのと2つ持ち、私が自分のを持ってソファに座った。


「忙しいのに、いつも無理を言ってごめんなさいね」

「大丈夫よぉ、ちゃんとデートしてきたからね。って、今もデート中や」

 天野さんが笑う。結心さんも笑う。もう! 貴方たちは遠慮って言葉を知らないの?

「先に近藤先生から預かったUSBを渡しとくね。『急がないから3か月以内くらいでお願いします』って」

「分かった。どこかで暇を作って仕上げるよ。取り敢えずは中身を見てから考える」

 天野さんは事も無げに答えた。

 

「ごめんなさいね、要らぬ仕事を増やしてしまって」

 私は、本当に申し訳ないと心から頭を下げた。

「分析方法とかの詳細も中に入っているの?」

「あ、それ確認するのを忘れた」

「ええよ、中身を見て必要だったら電話するわ」

 優しいわねぇ、天野さん。結心さん、いい人と恋人になれて良かったね、と思った。

 何となく、天野さんは、いつも余裕綽々なのだ。

 天野さんの優しさって、この余裕から来るものなんだろうなぁ。

 ――いつも、先が見えてるんだろうなぁ。


「さて、それで緊急会議って話だったけど、何事なの?」

 天野さんが、言葉の割にはゆったりと喋る。

 ――まあ、私に緊張感がないせいなのだろうけど。

「昨夜、いつものように、今回の流れを振り返ってみてたのよね。そしたら、私はひょっとして、もう口説かれてしまっているのではないだろうか? と不安になったの。それで、緊急会議を招集しないといけないと思ったのよ。昨夜のことね」

「それでも、電話は朝一番じゃなかったけどな」

 天野さんが()いてくる。


「貴方たちの都合もあるだろうから、よほどの緊急事態でなかったら、午後に電話するわよ」

「そりゃ、ご配慮ありがとうごぜぇますだ」

「そしたら、今日の午後4時頃だったかな? 近藤先生が研究室に来られたから、打ち合わせなんかをしてたわけ。そのあと電話したのよね」

「なるほど、そのときはもう緊急事態でもなくなったの?」

「緊急事態には違いないのだけど、まあ、新しい事実も見えてきたから。それも含めて伝えようと思った」


「なるほど、じゃ、時系列に従って説明してもらったほうが分かりやすいのかな?」

「うん。そうする」

「まず、さっきの『もう口説かれてしまっている』ということから、聞かないといけないねぇ」

「え~と、それは、昨夜の結論なので、その結論に至る過程から説明しないと分からないよね」

「確かに。でもね、急転直下のどんでん返しみたいな結論に対する感想を先に言わせて貰うと、僕たちはこうなるかも知れないと予想してたから驚かない」

「さっきも食事しながら、そんな話をしてたのよ」

 結心さんが笑う。


 え~! この人たちには隠し事できないの? 心の中を見透かされてるの?

「まぁ、心の内を聞いてあげるから、乙女の懺悔をしなさいよ」

 天野さんがニヤニヤする。

「え~? そう言われると話難いなぁ。分かってるんなら、説明してよ」

 反発してみせる。


「相談しようとする立場の人間の台詞じゃないなぁ。……ええけどな。端的に言って、何度も顔を合わせていると、この人でもいいかなと思い始めたのでしょ? 僕らが良い人みたいと言ったのも影響してるよね? 安心感みたいなことで」

 天野さんが簡単に言ってしまった。


「えぇ~! 本当に見えてるんだ。そんなに分かり易いの? 私の心は」

「まあ、単純だからねぇ」

 天野さんがケラケラ笑う。……もう! ひどい!

「それでもまあ、最初から、きちんと本人の口で順番に説明してね。心の整理にもなるでしょうから」

 結心さんが優しく言ってくれた。


「最初はパニックになってしまった。でもそれは近藤先生の策略だったと確信しているって、前にも言ったよね」

「うん」

「研究会を開催するように上手く仕向けられて、近藤先生が頻繁に研究室へ来るようになって話す機会も増えた。すると、少しずつ警戒感が薄らいでいった」

「それが彼の狙いだったしね」

 天野さんが指摘する。

「そして、貴方たち二人が会ってから『大丈夫』だと言ってくれて、一遍に警戒感とか忌避感なんかが消えてしまった。ここまでは貴方たちの想像どおり」

「そうね」


「近藤先生の計画どおりに進んでいるようで、正直に言うと悔しかったの。なんか彼の手の平の上で踊らされてるみたいな無力感というか、そんな気持ち」

「わかるわ、その気持ち」

 結心さんが相槌を打ってくれた。

「それで、昨夜じっくりと自分の心の中を覗いて整理してみたわけなの」

「凄いじゃない。自分の心を冷静に見られるのは大したもんや」

 と天野さんが言う。これ本当に褒めてる? 馬鹿にしてない?


「まず最初に気が付いたのは、何だか知らないけど、いつも近藤先生のことを考えてること」

「ほぉ!」

 天野さんが大きく頷く。

「自分では、この事件のことを考えてるのだと思ってたのね、最初は」

「そうじゃなかったのね」と結心さん。

「そう。漠然とだけど、具体的なことを考えてたのではなくて、何となくぼーっと彼のことを考えてたことに気が付いた」

「ふんふん。恋せよ乙女」

 結心さんが頷いてくれる。


「あの事件以来、私の心に近藤先生が()みついたというか、……いつも気になってたのは、彼の策略のせいだけどね」

「そうだと思うねぇ。だから、彼はヤリ手だと言ったのよ」

 天野さんが言う。

「え? 気が付いてたの?」

「うん。だけど、それを言うと先入観で余計に洗脳するようなこととなるから言わなかった」

「そうなんだ」

 私は脱力してしまった。


「でも、それは自分で発見できたんだよね?」

「うん。でも遅かった」

「もう1つ言うと、前に『嫌いじゃないのが難しい』と言ったけど、そのときに心が変わる可能性のあることを言ったのも、だから深く説明しなかった」

「……確かに変わった」

 

 私も認めざるを得ない。


「彼の存在を認めるようになって、それが好意だとはっきり認識してしまったのね」

 結心さんが纏めた。

「まだ、結心さんのようにはっきりとした恋心じゃない。じゃ、この気持ちは何だろうかと疑問に思った」

 私は昨夜考えたことを説明した。

(こい)じゃない好意(こうい)? なんちゃって」

 また天野さんが茶化す。

「だって、そんなに簡単に恋心に変わるはずないじゃない。常識で考えれば、そうでしょ?」

「君は正しい」

 と天野さんも認めてくれた。


「それで、考えた末に見つけ出した(カイ)は、私が恋愛に憧れているのだということ。原因は結心さんを見ていて正直に羨ましいと思っていること」

「え? そこで私が出てくるの?」

 結心さんが驚く。

「だって、結心さんが幸せそうなんだもの。……私、今まで男性から幸せを貰おうなんて考えたことなかったから、驚天動地みたいなものなのよ」

「ふむ、確かに。それは私も思ってる。天野さんに感謝してる」

 結心さんが言うと、天野さんが

「それは僕の台詞や。僕のほうこそ感謝してる」

 と共鳴する。


「それでね、話を戻すよ。貴方たちすぐ脱線するからね。――私は、恋に憧れて、恋のターゲットとして身近なあの先生を見ていたのではないかと」

「なるほど! 深い洞察力やなぁ。素晴らしい! その可能性が高いね」

 天野さんが褒めてくれた。



読んで頂きましてありがとうございます。


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