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恋なんて知らなかった 【前編】  作者: 湯川 柴葉
第四章 想定外の行方
39/50

第39話 講習会の行方

毎日2話投稿予定(午前3時と午後3時に1話ずつ)

 水曜日の午後、近藤先生が研究室にやってきた。


 近藤先生の院生たちは、先生が強く推したのだろうけど、大半が講習会を受講するらしい。そうすると、うちも5人くらいにはなるだろうから、合計で20人以上の講習会になりそうだ。


「昨日は、大変お世話になりまして、ありがとうございました。学生たちも受講希望が結構集まりまして、13人になりました」

「多いですねぇ。私のところは3人なんですけど、アクセスのない子も一人聞いてみたいと興味を持った子も含まれます」

「そうすると、私たちを入れて18人になりますね?」

「いえ、もう少し聞くだけでも聞いてみたいというのを入れると後2人くらい増えそうだと思います」


「そうすると、研究室では少し手狭ですねぇ。会議室か教室を用意しますか?」

「そこは、近藤先生にお任せします」

「わかりました」

 

「昨夜、天野さんたちと食事をしながら打ち合わせをしたのですけれど、全て無料でやって貰えることになりました」

「え? でもそれは流石に申し訳ないですよねぇ」

「内容については、講習会を3時間程度。先生への個人レッスンは、別の日に操作指導を中心に2時間程度でということでした」


「個人レッスンを2時間で大丈夫なんですかね?」近藤先生は不安そう。

「近藤先生は優秀そうなので、パワポの講習会で、ある程度は理解されるだろうと言ってました」

「え~? 僕は優秀じゃないですよ? 優秀なら自分で解決できていますよ」

 近藤先生が焦る。


「パワポでは、テーブルの作成からクエリまで、サンプルデータを利用して作成するから理解できるはずだと。フォームについては、作り方はパワポで説明するから、細かい注意点を説明すれば大丈夫だと」

「それは3時間でできる内容なんですね?」

 近藤先生は不安そうに確認する。

「講習会では、サンプルデータを基に、ゼロから使えるまでを画像で分かるようにしてくれるそうですから、先生なら大丈夫ですよ」


「いえいえ、詩織先生、私の評価を間違えていますよ」

 って、自分の評価を下げるの?

「いえ、私も、近藤先生は優秀なんだと思っていたのですが、違うのですか?」

 と意地悪く聞いてみた。

「そういわれると、辛いなぁ……」

 近藤先生は汗だくになっていた。うふふ、可愛いわね。

 ――え? 私、何を思っているのかしら?


「天野さんが、先生のことを褒めてましたよ? 理解が速いから、直ぐできるようになるだろうって」

 と持ち上げておく。

「褒めていただけるのは嬉しいですけど、いや、困りました」

 汗を拭く先生。


 これくらい褒めておけば、それで良いと言わざるを得ないだろう。そこまでを読んで、天野さんは合計5時間のボランティア宣言なのだ。

「それくらいまでが分かると、あとは先生なら、簡単な業務程度なら、本を読んでできるようになるだろうと言ってました」

「えぇ~っ?! 後から、特別レッスンをお願いしてみよう」

 近藤先生はまだ粘る。この先生は、あきらめが悪くて粘るタイプなのかも。


「天野さんは、あちこちで頼まれて講習会とかしてるみたいですから、多分先生を見て分かるのだと思いますよ」

 止めを刺す。

「ありがとうございます」

「その次が必要かどうかは、レッスンが済んでから考えたらいいじゃないですか?」

「はい」


「それでですね、天野さんが言うには、皆さんのパソコンのOSも違えばバージョンも違う。アクセスを持っている人のバージョンも違う。だから、普通の講習会のように自分のパソコンを持って来てくださいなんて無理だと」

「そうですよね。うちの学生たちもほとんどないので、持っている人のパソコンを覗いて受講すると思っています」

「それで、天野さんが、それは大変だから、プロジェクタを使ってやろうと」

「なるほど、パソコン不要で講習をするんですね?」

「そうです」


「どうせ持っている人も触ったことない人が殆どだろうし、それぞれがパソコン操作をやってたら、時間がいくらあっても足りないそうです」

「確かにそうですね。知識レベルも差がありますしね」

「だから、標準的なパソコンで見本を示して、あとは、それぞれが自分のパソコンでトライすればいい」

「なるほど」

「そこで、無駄な時間が省けるから、丁寧な操作手順を示して詳しく説明できる余裕ができるのだそうです」

 天野さんの受け売り。私、何も見ないでも、昨夜聞いたことを理解できているから、すらすら喋れるのよねぇ。私って優秀じゃない?

「なるほど! だから3時間の講習会で十分に基本の理解ができるというわけですか」

 近藤先生がやっと納得した。


「だから、個人レッスンでは、具体的な操作手順を説明するだけで大丈夫ということらしいです」

「大丈夫かどうかは分からないけど、なんだかできそうな気がしてきました」

 近藤先生がにこにこした。

「では、そういう方向で。講習会の部屋とかプロジェクタの手配は、先生にお任せしていいですか?」

「もちろんです。すべての用意は私がさせていただきますので、ご安心ください」

 近藤先生が全部を引き受けた。


「ところで、昨夜天野さんたちと食事しながら打ち合わせをしていただいたとのことですが、先生がご馳走されたのですか?」

「はい、お二人に、簡単なご馳走をしましたけど、何か?」

「いや、殆ど私のためにご迷惑を掛けているようなことですのに、大変申し訳ない。その費用は私が出させていただきます」

「あ、心配しないでくださいな。彼らも私の大切な知人の一人ですので、私がするのは当然のことです」


「いや、講習会や個人レッスンまで全て無料にしていただいて、その上接待までしていただいたのでは、結局すべて先生に負担を掛けているばかりになります」

 近藤先生はまた汗をかきながら言う。

「先方にも、いくらかでも受け取って貰わないと、近藤先生が却って気を遣うから、と言ったのですけどねぇ。ここまでは、私の顔を立てて約束どおりボランティアだと言い張るものですから。まあ、お互い、持ちつ持たれつということで。って言っても、私が頼まれることは殆どないのですけどね」

 私は余裕で笑ってみせた。


「良いですねぇ。そういう人脈を持っておられるのは先生の人徳ですよねぇ」

 近藤先生が、今度は私を持ち上げてくる。

「そんないいものじゃありませんよ。それぞれの知り合いやグループとかが複雑に絡み合っていて、お互い協力しあうような関係になっているみたいです。私は、その端っこにそっと立ってるだけですから」

「ご謙遜を。……それでは、一連のイベントが完了しましたら、改めてお礼の方法を相談させていただきます」

「でも彼はお金なんか受け取らないですよ。一度宣言したら守るタイプみたいです」

「分かりました。何か考えてみます」


 近藤先生が戻ったあと、院生の子たちに、

「パワポでの講習会が3時間で、近藤先生のところと合同でやることになった。アクセスを持ってない人も関係なく参加できるから、興味があれば遠慮なく希望するように」

 と伝え、受付担当を決めておいた。他の教室なども参加して人数が増えるかも知れない。思わぬところで、大きなイベントになってしまいそうだ。


 近藤先生との接触機会が、極端に増えてしまった。これがあの先生の計画だったのであれば、あっという間に巻き込まれてしまった私は、大きな川に浮かぶ小さな木の葉のようなものだ。自分ではどうしようもない。



読んで頂きましてありがとうございます。


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