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恋なんて知らなかった 【前編】  作者: 湯川 柴葉
第四章 想定外の行方
38/50

第38話 近藤先生を品定め

毎日2話投稿予定(午前3時と午後3時に1話ずつ)

 天野さんと結心さんが、私のマンションにやってきた。


 最初に、先週の木曜日の私の質問について二人に謝っておいた。二人とも、私の好意による勇み足だから問題ないとして、心配してくれてありがとうと言ってくれた。今日の学校への来訪についても、感謝の言葉を述べた。結心さんもお店をお母様一人に任せてきたわけだし、天野さんも仕事をしないで来てくれた上に余分なボランティアを引き受けることになって、申し訳ないと思う旨もきちんと言って、二人に感謝した。


 いつもなら、食事が済んでから話をするのだけど、今日は気になるから、食べながら近藤先生の話をする。


 天野さんが口火を切った。

「気になってるみたいだから、食べながら少し話そうね。結論は、帰りがけの時にも言ったけど、普通の真面目な人だと思うよ。まあ、既婚者だから、僕同様に真面目とは言えないかも知れないけどね」

 天野さんが自嘲気味に言った。そこ、笑いを取りにくいでしょ?

「私も、会うまでは、神経質な性格かも? とは思ってたけど、むしろ緻密で律儀なタイプなんじゃないかと思った」

 と結心さん。

「そうなのよねぇ。私も、最近、そんな風に思えてきた。怖くなくなった」


「総合的にみて、能力はそれなりにあると思う。考え方もきちんと論理的なようだし、立場もわかっていて常識も備わっている」

 天野さんが褒めてる?

「騙すような悪質な雰囲気は感じられなかったよ。安心していいかな?」

 と結心さん。

「良かった。二人してそういう判断なら、もう心配しなくていいね」

 私は本気で安心できたような気がする。


「それでね、貴方たちが帰ったあと研究室に戻ると近藤先生が待っていて、院生たちと話をしてたの」

「雑談してたの?」と結心さん。

「それがね、アクセスは便利なソフトだから君たちも勉強したらいいと私の院生を勧誘してた」

「それ、やりすぎじゃない?」

 結心さんが指摘する。


「そうなのよ。だから、ちょっと意地悪く『殆どアクセスが入ってないので難しいですねぇ』といっておいた」

「そしたら?」

 結心さんは面白そうに、もぐもぐしながら先を促す。

「『それなのに無理矢理導入する必要がありますか?』と聞いたら、『導入する正当性が難しい』と答えたわ。案外素直だったわね」

「……もぐもぐ」


「『研究室の1台にだけ入れるのはどうですか?』と粘るから『使う確率低いのに必要ですか?』と反論したの」

「詩織さん、やっぱり怖いねぇ」

 天野さんが笑う。

「怖くないわよ、常識的でしょ? 『じゃ、私の研究室の1台だけならいいですか?』と聞くから『それは先生のご判断で』と言った」


「『そうすると、詩織先生の教室と関係ないところでの話になるので、何らかのお礼をするという前提で個人指導をお願いできないか?』と聞かれた」

「そりゃ、そうなるわな」天野さんが笑う。

「いずれにしても、院生たちの話も聞いてみたいから、改めて相談ということで、お開きにした」


「素晴らしい対応だねぇ! もう詩織さんは復活できたねぇ」

 天野さんが宣言してくれた。


 食事も済んだので、結心さんと二人で後片付けしながらコーヒーの用意をし、天野さんは食卓テーブルでその様子を見ていた。

「ソファのほうでゆっくりして下さったらいいのに」と言うと

「一人は寂しいからねぇ」と結心さんの方を見ながら答える。

 それ、結心さんを見ていたいだけなんじゃない? と思ったけど大人な私は何も言わない。


 ソファに移動して話の続きを始めた。結心さんは、天野さんにコーヒーを渡したり、もちろん隣に座っていちゃいちゃ。もう慣れたわ。


「それでね、院生たちに、どう思っているかを確認したのね」

「僕が素敵だから受講したいって?」

 天野さんが胸を張る。

「あ、一人いたけど却下しておいた。数人が、今回必要だとは思わないけど、無料で受講できるなら聞いてみたいという興味がある程度」

「お? 一人おったか?」

 天野さんが笑うと、結心さんが笑いながら睨んだ。


「近藤先生のところも、多分同じように聞いてると思うから、今後どうするかを打ち合わせします」

 こうやって、どんどん近藤先生と話をする機会が増えてきた。そして、徐々に警戒心もなくなってきている。不思議だ。


「ただねぇ、その学生たちの理解レベルがどの程度なのかだよね」

 天野さんが心配そうに言う。

「大したレベルはないと思うけど、でもエクセルで分析したりしてるわよ」

「近藤先生とのギャップもあるよね? 一緒にできれば、それが一番楽なんだけど」

 天野さんが、レベル差も気にする。


「そうよねぇ。学生たちは、どんなことができるのか位が分かればいいかも知れない」

「それなら本を読めばいい。教えるなら実際に、エクセルと違う所を見せてあげないと価値がないでしょ。プロジェクタはあるの? 纏めて説明するなら、それが楽。マックやWindowsがあったり、アクセスのバージョンも違ったりするからね」

 天野さんが具体的な方法を提示した。

「プロジェクタはあるわよ」

「それなら、僕のノートブックを持って行って、デモをすればいいな。学生には、こんなことができると教えるだけ。原則3時間1回でいいかな」

「うん、学生はそれでいいと思う。もっと興味がでたら、そのとき考える。先生にはどうするの?」

「別の日にでも知りたいところだけ別途補講すればいい。実際に細かく操作方法を教える」


「講習会のお礼は、コーヒーとケーキでいい?」

「ええよ、結心ちゃんも講習会に来る?」と天野さんが誘う。

 ――あれ? 《ちゃん》と呼んだぞ?

「行きたい! 秘書として行く」

 結心さんはケーキが食べたいのかな?


「近藤先生へのレッスン料は?」私も悩む。

「無料でいいよ。えーと、『アクセスの基本操作とテーブル』『クエリ』『フォーム』くらいかな? パワポである程度は分かるようにするから、そこから先は、自分で勉強できるでしょ。だから、実地訓練みたいなのだけでいいかと思う」

「時間は?」

「う~ん、1回で2時間程度かな? これなら無料でもお互い負担感ない」

 天野さんが笑った。


「準備も必要でしょうし、無料は近藤先生も困るかもしれないよ」と私。

「そうだなぁ……良かったと思ったら、投げ銭方式で」

 天野さんが笑う。

「あはは」と私。

「まあ、可愛い結心さんを紹介してくれたお礼や」

「あら? 私、そんなに安いの?」

 結心さんが突っ込む。

「ごめんなさい! お金に換算できません!」

 天野さんが謝る。――もう結心さんのほうが強くなってるの?


「講習会はご無理をお願いするとしても、レッスンは少しでも頂いたほうがいいわよ」

 私も心配する。


「普通、講習会だと1日10万円以上は貰っているのよ。でも、詩織さんの依頼だから、そうは貰えない。少しだけ貰うくらいなら、貰わないほうがマシなのよ、気分的なもの。ボランティアでいい。それに講習会3時間とレッスン2時間程度だもの、大して負担じゃないと思う。そもそも、目的は近藤先生を見定めるためのイベントだからねぇ」

 天野さんが本音を言いつつ笑う。

「確かに。……ごめんなさいね。それと、ありがとう」


「まあ、詩織さんがいい顔できたら、それでいいよね?」

 天野さんが結心さんを見ながら言う。

「うんうん」と結心さん。

 ――貴方、天野さんの何なのさ?

 ああ『彼女』なのよね、と思わず心の中で呟いて、羨ましいと思ってしまった。



読んで頂きましてありがとうございます。


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