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恋なんて知らなかった 【前編】  作者: 湯川 柴葉
第四章 想定外の行方
35/50

第35話 近藤先生と天野さん

毎日2話投稿予定(午前3時と午後3時に1話ずつ)

 火曜日の午後2時。約束どおり、天野さんが美人秘書の結心さんを連れて、私の研究室にやってきた。結心さんはビジネススーツっぽい服を着て、天野さんも珍しくネクタイを締めて上着を着ていた。この人も、きちんとすると、それなりに恰好いいかも知れない。研究室にいた院生たちが、興味深そうにこちらを見ていた。結心さんが美人だから、目立つのよね。


 院生たちに「近藤教授の部屋に行ってきます」とだけ伝えて、そのまますぐに二人を連れて上の階へ上がった。

 ドアをノックすると、すぐに院生の子がドアを開けて「どうぞ」と中に通してくれた。


「わざわざご足労いただきまして、ありがとうございます」

 近藤先生が頭を下げて挨拶し、打ち合わせデスクに誘導してくれた。型通りの名刺交換と挨拶をして椅子に座った。流石に天野さんは手慣れたもので、堂に入っている。結心さんの紹介は「秘書の森山です」とだけ言った。私と結心さんは天野さんの両隣に座る。


 院生の子が、コーヒーとケーキを出してくれた。

 ――今日は、私も食べるのだ、ケーキを。

「まずは、ケーキでもどうぞ。それからゆっくりとお話をお聞きしたいと思います」

 と近藤先生がにこやかに言った。

 天野さんは、結心さんと目配 せしてから、フォークを手に取った。


「いやー、若い女の子たちが一杯いると緊張しますねぇ」

 天野さんが場を和ますように明るい声で喋った。

「私も最初はそうでしたが、すぐ慣れますよ」

 近藤先生も笑顔で答える。

「ちっとも緊張しているように見えないけどねぇ」

 私が突っ込んでみると、結心さんが小さくプッと吹き出して笑った。

「ん? それ、僕に言ったの?」

「天野さんしかいないでしょ」

 素知らぬ顔で私は(トボ)けた。


 天野さんは、さりげなく、近藤先生の真正面で目を合わせながら雑談をしていた。この辺りのやりとりは、流石天野さんという感じだった。

 近藤先生も、しっかりと天野さんを見ながら――私の方へは見向きもせずに――対応していた。緊張しているのだろうか?



「それでは早速ですが、どんなお話なのかお聞かせください」

 天野さんが真面目な顔で、近藤先生に言った。

「データ類をパソコンで処理するのは殆どエクセルを利用していますが、データ群を色々な角度から集計・分析しようとすると、エクセルでは面倒なケースが多いのです」

「エクセルは単独の集計処理とかに優れているツールですからね。殆どのことは可能なツールでもあるのですが」

「そこで、アクセスだったらどうなんだろう? と思ったのですが、何しろ詳しい人が周りにいないのです」


「具体的にはどのような利用方法を想定されていますか?」

 天野さんが端的に聞く。


「1つ目は、入力し易くなるのでは、と思っています」

「それは、入力フォームを利用したいと?」

「そうです! 簡単に実現できますか?」

「アクセスの初歩的レベルの知識で十分利用可能です。でも、エクセルでも入力フォームを作成できますけどね」

「え? そうなんですか?」

「入力フォーム画面を別シートに作成するとか、方法は色々あります」

 簡単そうに天野さん。


「エクセルとアクセスのどっちが簡単ですか?」

「アクセスのほうが楽です。入力フォームを利用すると、エラーチェックとか既定値を設定するとか、色々と便利になりますよ」

「なるほど! それは有り難いですね」

 先生が我が意を得たりと言う顔をした。

 

「2つ目は、並べ替えが楽になるのではないか、と思っています」

「クエリを利用することで簡単に実現できます。エクセルでも簡単にできますけどね」

 天野さんが、1つずつ即答しながら話を進めていく。

「今は、エクセルのデータをコピーして、並べ替え単位で別シートにしたりしています」

「アクセスはデータをそのままで、クエリを並べ替え単位で作成します。フォーム画面からボタン1つで、結果を得られます」


「アクセスは便利なんですね。すると、ファイルサイズは大きくならないわけですか?」

「そうですね。データファイルと操作ファイルを別にしてリンクすればすっきりしますよ。あと、クエリは、別のテーブルデータと自由に組み合わせて新しいデータ群を作成することも簡単にできます」

「おお! そういうところがやりたいことなんですよ!」

 先生の声に力が入った。

 

「アクセスのことを詳しく知らないので、今のところ、それくらいしか思いつかないのです」

 と先生が答える。

「正しく理解されていると思います。アクセスとエクセル間でデータを交換しながら進めていくことも可能ですよ。ところで、そのデータ群というのは、フィールド数が多いのですか?」

 天野さんが少し詳しく踏み込んだ。


「それはケースによるのですが、まあ10項目程度が平均的かも知れません」

「なるほど、それでレコード数は?」

「それはケースバイケースです。普通1万以下です」と先生。


「それは、どうやってデータとして生成されるのですか?」

「別のデータを流用するときもありますが、独自調査の場合は院生たちの手入力です」

「誤入力も発生しそうですね。だから、入力フォームが大切ですよね。ソートする項目数とか条件は多いのですか?」

「そうですねぇ、そんなに多くはないのですけど、5項目程度くらいかと思います」


「ありがとうございました。概略はわかりました。それで、私は何をアドバイスすればいいのですか?」

「先ほどお聞きした内容の具体的なアクセスの操作方法を教えていただけないでしょうか?」

「それは、近藤先生にだけ? 学生たちにも? どの程度? ということを教えてください」

 天野さんの話はテキパキとテンポがいい。


「学生たちにも教えていただけるのですか?」

「いや、レベル差があると思うので、何とも言えないですけれど。それと、学生たちのパソコンにアクセスはあるのですか?」

「それは、よく分からないのです。オフィスのアカデミック版ならあるのではないかと……」

 近藤先生があやふやな答え方をした。

 それ、私が先生にこの前確認したでしょ?

「それでは、学生たちの件については、後ほど調べてからということで」

 天野さんはその話を切り上げた。


「具体的なサンプルデータと分析方法などを示していただければ、もう少し踏み込んでご説明できるのではないかと思いますけど、それは可能ですか? たくさんは不要です。せいぜい10レコードもあれば見本は作成できます。適当な名前とか数字にして頂いて構いません。むしろそうしてください。それと、組み合わせのサンプルや事例などもご用意ください。並べ替えとかの例も含めてくださればクエリ例も作成します。ただし、フォームデザインとかは簡便な手抜きフォームですけどね。難しいテクニックは使わず、初歩的な知識で可能なレベルを意識して研修用の見本データベースをアクセスで作成します。パワーポイント風にして講習会でもいいですね」

 天野さんが説明した。


「費用とかは、どうなるでしょうか?」

 先生がちょっと不安そうに聞いた。

「数回程度なら無料でいいです。矢野先生からボランティアでやれと念押しされていますので」

 天野さんが淡々と答える。

「それは、申し訳ないですけど……」

 近藤先生が私を見る。

「矢野先生の命令は怖いので、大丈夫です」

 天野さんが笑いながら答えた。

「ちょっと! 何を言ってるのよ! 怖くないでしょ?」

 思わず私は口を挟んだ。



読んで頂きましてありがとうございます。


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